▼彼の背中は大きい。俺の二倍くらいに。その背中を見るといつも頼りになるな、なんて思う。まあ言わないけど。
言ったら「頭大丈夫か?」とか言われそうだ。その時くらい照れてくれてもバチは当たんねぇと思う。
▼以前も、一緒に横に並んでソファーに座ってたら、彼の腕がソファーの背に伸びていたので無意識に「腕枕してくれよー」っと口走ったら、あのザマ。
ギョッと目を丸くして、少しの間があってから、目を反らしたままの彼の腕枕。あれじゃ逆に頼んだ俺が謝りたい気分になったのは言うまでもない。
▼あれ?そう思うと、最近のラクサスって何だかよそよそしい。前までは気にせずにしてくれた気がする。
というか向こうからは随分と無茶苦茶な要求ばかりしてくるのに、俺が要求すると殆ど無言になるというか、静かになるというか、なんというか、ああ!なんか考えるの面倒くさい!
「なんかした、かなぁ…?」
▼そうこうしてる内に、どうやらご帰宅のラクサス。「おかえりー」っといつも通り出迎えれば、ん、と一返事と上着を差し出す。
「風呂沸かしてあんぞ、それとも飯か?」
「飯」
「はいよー」
ここまでは普通だ。うん。
▼そうして上着を脱いで、更に体つきが分かる彼の後ろ姿をパタパタと付いていけば、案の定、視界に広がるのはラクサスの広い背中だった。
あー、やっぱりなんか…、頼りになんなぁ…
ぼうっとその背中を見つめ、思うのは冒頭と同じ言葉。見ているだけで何だか、クラリと目眩が来るほどに誘惑された感覚に陥る。
触れたらどうなるんだろうか、なんて思いながら、「(いつも触れてるけど)」っと自分の言葉を否定で返す。
それでも、何故か今は、その背中に無性に触れたいと思った。何でだろう、あんなこと考えてたからかな。
▼くいっ、紫のカッターシャツの裾、それを控え目に引っ張ってみる。すると前にいたラクサスが、ぴくりっと肩を小さく揺らした。
どうした、と言わんばかりに顔を向ける彼。俺はそんなラクサスの背中にポスリッと体を預けてみる。
「…っ」
上着を手にしたまま、キュウッとラクサスの腰に腕をまわしてみる。同時に肌にはシャツ越しに、筋肉質な固い感覚。ラクサスの屈強な筋肉。そこに手を這わせば、またビクリっと体が跳ねた気がした。
ああ、そういや…久々にラクサスの体に触った気がする。
▼「っん?…ぅ…!」
それを思ったのと同時だった。ぐるんっと一瞬にして、彼の体の感覚が無くなると思えば、今度は一気に自分の体が包まれる感覚。
同時に、ギュウウッと自分よりも力強く、大きく包み込むそれに、小さな悲鳴が漏れる。
「っ、ラクサス?」
「…あー…」
そして、視界いっぱいの紫色。その中でチラリと見える強張った鎖骨を見て、抱き締められたとやっと理解する。
▼「ん…!?、…っは…ぁ」
耳元で小さな唸り声が出た後、ぐいっと頭を動かされて、直ぐ様塑琉奈の唇が塞がれる。
まるで食すかの如く、彼女の唇を何度も重ね合わせ、その動作の中で、彼は舌を這わせた。
「あ、…まっ、!ら、くしゃ、す…!」
同時に塑琉奈の肩が跳ねるもお構い無し。
直ぐ様彼女の舌を捕まえて、にゅるっと長い舌を逃がさぬようにと絡ませれば、垂れるラクサスの唾液が塑琉奈の唾液と混ざり合う。
舌を捕まえられて舌っ足らずな塑琉奈の声を彼は聞き入れない。
▼逃げようと体を動かしても、もう後頭部はラクサスの手により支えられていて。
「ふぁ…、く、る…、しい…って…」
残るのは、何度も何度も塑琉奈の口内を犯し続ける、舌と舌の粘着的な音と、それに侵され力を失い、甘く熱い吐息。
そして、身体中に走る震えるほどの、気持ちの良い、甘美な感覚だった。
▼「…は、ぁ…」
やっと口が解放された。肩を揺らしつつも息を沢山吸い込みながら、なんとか持ち直そうと、深呼吸。
口付けのせいで、揺れる瞳の中。目の前に、未だに自分を抱き締めてるラクサスの悔しそうな顔が見えた。
「ラクサス…?」
「あー…、くそっ」
塑琉奈、お前って奴はよ…っと、半ば呆れたようにそう呟き、ため息を漏らす彼。塑琉奈はそれを首を傾げたまま。
「え?…あ、嫌じゃ、ないよ…?」
「…それ以上言うな」
濃厚な口付けで、火照りもそのまま、よく分からずに取り敢えず意思表示をしてみたら、今度はラクサスから頼むような制止の声。
え、え?なんで?っと更に分からなくて、ラクサスに聞いてみるもその瞬間、彼はパッと塑琉奈の体を離した。
「…先に風呂入る」
「お、おおお、おう???」
そうして、何やら早歩きで浴室まで向かうラクサスの背中、塑琉奈は、理由も分からぬままに、それを見送ることとなった。
▼塑琉奈「(変な奴だなーラクサス。あっ、元からか。ゴリラだもんな。)」
ラク「(こっちは我慢してんだよ、馬鹿野郎が…!)」
▼後書きと言い訳
▼診断メーカー【ラクサスを抱きしめてみたらすぐに力強く抱きしめ返されたので、苦しいと絞り出すように伝えると慌てて離れられてしまった。この気まずい空気をどう切り抜けようか。】から。
▼ラクサスさんくっっっそヘタレ。すき。私が書くともれなくヘタレになる。
塑琉奈ちゃんの些細なことで欲情しちゃうどうしようもない万年発情期ゴリラクサスが我慢してるのを、知らずが仏の塑琉奈ちゃんが、ラクサスさんが構ってくれないので、自らぎゅっぎゅっぎゅーしちゃいたい気分になるお話になりました。
色々盛り込み過ぎて後が大変なことになったのは言うまでもない。
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