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ピーッピー…

鳴り響くホイッスルの音がすぐ近くで鳴っているはずなのに遠くに聞こえる。


「試合終了!!」


審判の声の後の一瞬の静寂、そして――湧き上がる歓声。

でも、それは私達のものではない。私達の方に流れていたのは変わらない静寂だった。


(負けた…)


勝利を喜んでいる相手選手達は確かに同じコートの上にいるはずなのに、まるで全く違う世界にいるかのような…そんな錯覚をしてしまいそうになるくらい現実味がない。

もしあそこでもう1本3Pが入ってたら、あそこでスティール出来てたら…頭を過ぎるのはそんなことばかりで、でももうどうしようもなくて…。


「名前」

『沙世先輩…』


名前を呼ばれると同時に肩に置かれた手、それは主将の筧沙世さんのものだった。


「整列、するよ」

『…はい』


それまで一歩も動こうとしなかった足をセンターラインに向かって歩かせる。

返事をした時、見えた先輩の目には涙が浮かんでいた。

声はいつも通りの、凛とした気丈なものだった。でも、肩に触れた手は僅かに震えていた。

先輩達にとって今日が中学最後の試合になってしまった…それが余計に悔しかった。

入部してまだ4ヶ月…それでも4ヶ月このチームで戦ってきた。主将の沙世先輩やマネージャーの紫乃先輩…それぞれの強さを持った尊敬できる先輩達。


(まだずっとこの人達と一緒にバスケをしていたかった…優勝したかった)


でもだからこそも思う――私はまだ泣いてはいけない。

目をギュッと閉じてゆっくりと深呼吸をする。涙を出さないようにする。

私はまだこれが最後じゃない。続きがある。前に、進まなければいけない…まだ泣いていい時ではない。


「――中学の勝利、礼!!」

「「「ありがとうございました!」」」


涙は最後のその日まで、嬉し涙にとっておく。


(もっと強く上手くなって必ず優勝したい…!)


私の初めての全中は全国ベスト8で新たな決意と共に幕を閉じた。



* * * * *



「全中の結果は悔しかったけど、みんな全力出し切って戦ったから後悔は何もない…だから、後は来年は優勝して!」


月日は少し経って夏休み明けの始業式の午後、今日は3年の先輩達が正式に引退する日。

最後の挨拶は主将の沙世先輩からで、その表情は言葉と同じく晴れやかなものだった。

後悔は何もない、本当にそう思うからこそ言うことの出来る言葉。


(私も引退する時にはこう言えるようになりたいな)


そうなれるように練習もっと頑張らなきゃいけないなと考えていると。


「名前」

『紫乃先輩!』


声をかけてくれたのはおそらく一番お世話になったであろう紫乃先輩。


『先輩、今までありがとうございました!』

「あはは、ありがとう」


朗らかな笑みを浮かべている先輩に、とても2歳しか離れていないとは思えない包容力というのだろうか、そんなものを感じる。


『紫乃先輩には本当に助けてもらってばっかりで…本当にありがとうございました』

「私はただ自分の仕事してただけだよ。それに、名前が頑張ってたからだよ」

『え?』

「1年生で1軍入るっていうのは本当に凄いことだけど、練習は相当辛かったと思う。それでも名前は弱音も吐かないで練習して、レギュラーを自分の手で掴んだ」


誰にでも出来ることじゃないと思うよ、続けられた紫乃先輩の言葉が胸に響く。温かい気持ちでいっぱいになる。


『〜っ先輩…』

「おおー名前のそんな顔初めて見た〜」


私より背の低い先輩に抱きつけば、先輩は面白そうに楽しそうに頭を撫でてくる。


『…紫乃先輩達が明日からいないのは寂しいです』

「先輩冥利につきるね。でも私達がいなくてもこのチームは強い、だから次は絶対に勝って!」

『はい!』


優しく微笑んだ先輩にしっかりとそう答える。

今と同じチームは来年はもうない。それは学校というシステム上どうにもならないことは分かっている。

それでも先輩達の意志を継ぐ後輩がいて、それはずっと続いていくもの…それは学校だから出来ることでもある。

全員の目標はただ1つ、全国優勝――自分のためだけじゃない、先輩や同級生、監督、卒業生…たくさんの人の思いを成し遂げたい。

それから、その目標に向かって毎日練習を積み重ねるようになっていった。

そして、それがある意味では始まりだった。



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