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裕也君に告白されて、さつきちゃんに相談した日から数日経った。

あれから、色々考えた。

自分がどう思っているか、どうすることが最善なのか。

今は昼休みで、隣にいるのは裕也君。

あの日、言われた通り私と裕也君はそれまでと同じように過ごしている。あくまでも表面的には、に過ぎないけど。

今まで通りにしようとしてもやっぱりというか当然上手くは行かなくて…それでも避けることはしなかった、したくなかった。それだけ裕也君は私にとって大事な存在だから。

横目でもう一度、裕也君を見る。

宮地家の遺伝なのか色素の薄い髪は日の光に当たってる所為でキラキラ光っている。よく蜂蜜色と言われるのも頷ける。眼差しは意志の強さが反映されているようで力強い…それでいてちゃんと優しさが感じられるのも人柄をよく表している。


(口が悪くて不器用だけど照れ屋で優しくて、助けてくれて支えてくれて…)


自分の答えでもう元の関係には戻れなくなるのかもしれない。

それは物凄く怖いことで失いたくないもので、そうなりたくないのならいっそ今の状態のままの方が良いのかもしれない…でも――


『裕也君…』

「…何だ?」

『今日の放課後…話したいことがあるの』


もう、覚悟は決めた。逃げることはもうしない。



* * * * *



放課後、WCを直前に控えたバスケ部は今日も勿論練習がある。

だから話すのは練習後、今日は裕也君が鍵を閉めるから部室でということになった。

部活が終わるまでは図書室で適当に本を読んでいた…けど内容は全然頭の中に入ってこない。自分でも落ち着かないのが分かる。時間が過ぎてほしいようなそうじゃないような気持ちだ。

それでも時間は過ぎていくわけで…そろそろかなと時計を見た所で置いといたスマホが震える。見るとそれは裕也君からで「皆帰った」というメッセージ。

席を立って荷物をまとめてから図書室を後にする。

部室へと向かいながら心臓の音がどんどん煩くなってくる。

正直まだ怖い気持ちはある。それでも…


(逃げたら後悔するのはもう分かってるから…)


男子バスケ部と書かれた部室の前に立つ。

一度、目を閉じて深呼吸をする。昔から心を落ち着かせる時にはこれが一番効く。

ゆっくりと目を開けてから、ノックをすると中から「入っていいぞ」という裕也君の声。

ドアを開けて中へ入ると長椅子に裕也君は座っていた。


『練習お疲れ様…』

「…おう、サンキュ」


裕也君の隣に腰を下ろす。


『……』

「……」


ぎこちない、気まずい空気と沈黙が部屋中を包む。

緊張からなのか指の先が徐々に冷えていくのが分かるし、心臓は今にも飛び出そうなくらい煩く音を立てる。それでも私から言わないことには何も始まらない。

もう一度軽く息を吸い込む。それから口を開いた。


『…裕也君の気持ちは…最初は凄くビックリして…戸惑った』


声が少し震えてるのが自分でも分かる。

それでも何とか言葉を紡ぎ続ける。


『嬉しくなかったって言ったら嘘になる……けど』


今まで告白をされたことは何度かある。

それが別に嬉しくなかったわけではないけど、大体はその場で返事を出来るくらいだったのは事実だ。その人のこともよく知らなかったからというのもあったと思う。

こんなに驚いて戸惑ったのは初めてで、それは相手が裕也君だからで…大切な友達だからで。

でもだからこそ…気付いた。


『裕也君の気持ちは嬉しかった…でも、その気持ちには応えられない』


しっかりと隣に座る裕也君の顔が目に映る。

裕也君の気持ちが嬉しかったのは確かだ。でもだからこそそれが“あの時”の自分の気持ちと違うことに気付いた…気付かされた。

長い、長い沈黙が続く。

もう元には戻れないのかもしれない、そんなことが頭に過ぎった時――


「ハァー…そうか…。まあ分かってたんだけどな…やっぱ勝てねぇか…」

『…?』

「いるんだろ?忘れられない奴…虹村のこと」

『!…やっぱり知ってたんだね』

「…ここの掃除した日、お前の様子がおかしかったから緑間問い詰めて聞いた…悪い」

『そっか…でも謝るようなことじゃないよ』


あの日の私の反応を見ればおかしいと思うのは当然だ。

それを緑間君が話したことも咎めるようなことでもない。知っていることを彼が話したに過ぎない。

それに、裕也君が彼のことを知っているような気が何となくしていた。「お前のこと困らせたくねぇから…」と言われた時、最初はそのままの意味だと思ったけど、考えている時にもしかしてという可能性があった。

でも、それはあくまで勘に過ぎないことだったけど…直接本人から名前が言われた今、それは確信へと変わった。

もしそうだったら――決めていたことがある。


『…虹村君のことは今でも好きだけど、会いたいなんて本当は思っちゃいけないの』

「…どういう意味だ?」

『私、怖くなって逃げた。虹村君からもバスケからも全部…話を聞いてほしいと思うのは私の我儘だって分かってるんだけど…』


聞いてほしい、そう言おうとしたけどそれは叶わなかった。なぜなら、それまで閉まっていた部室のドアが急に開かれたからで。そこにいたのは――


「あれ、裕也さんと名前さん?2人ともどうしたんすか?」

『高尾君…』


現れたのは高尾君で、ドアの前で立ち止まって不思議そうに私達を見ている。すると、さらに――


「何をしているのだよ高尾。さっさと忘れ物を取ってかえ…」


やっぱり緑間君も一緒だったようで、こうなればもう…


『今からね、話そうとしてたの。私がどうしてバスケから離れて…どうして虹村君のことを忘れようとしてたのか』

「えっ…」

「名前さん…」


驚く高尾君に不安気な顔の緑間君…リアクションは違うけど2人ともこの場を離れようとはしない。どうやら聞いてくれるみたいだ。


『いいかな裕也君?』

「ああ。コイツらも聞きてぇだろうしな」


裕也君の了承を得たところでもう一度口を開く。


『ありがとう…それじゃあどこから話すのがいいか考えたんだけど…やっぱり順を追って最初から。長い話になるかもしれないけど…』


まずは4年前の春、私が帝光に入学した時から――

話を始めた。



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