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54



第4Q、これでWC出場出来るかどうか、最後の大一番が始まる。


「おお…出てきたなアイツ」

「切り札投入っスね…!」

『黒子君…』


誠凛対泉真館の試合、勿論黒子君もその試合に出てチームの勝利に貢献していた。

でも、つまりは黒子君がいる場合の攻撃パターンも真君の頭の中に入っているはず。


(その中でどうやって攻めていくか…)


リコは無意味な指揮は決して取らないと思うからこの黒子君投入は何か、そう思った矢先。


『!』

「何だ今の!?」


伊月君から日向君へと渡ろうとしたパス、でもそれは再び真君によってスティールされると思った瞬間――黒子君がそれを阻止した。

そのままボールは火神君へと繋がり、得点が入る。


『凄い…』

「今の…何が起きたんスか?」


凄まじいスピードで行われた今のプレーに感嘆するしかない。

それだけ今行われたことは信じられないことだった。


『黄瀬君は知ってると思うけど、黒子君のプレーは相手からしたら意表を突かれたものだけど味方からはそうじゃないでしょ?』

「そうっスね。中継パスの練習もしてたっスから」

『そう、練習を重ねて作り上げたのが今までの攻撃パターン…でも今のは味方さえも予測していなかったパス』

「花宮も味方でさえ予測できねぇパスを読むのは不可能ってことか。だけどそんな簡単に上手くいくか普通?」

「…信頼してるから、じゃないっスかね」

『!…そうだね』


今の黄瀬君の言葉はかつてチームメイトだったからこそ言えたものだと思う。

毎日、毎日練習を繰り返していれば自然と相手のことも分かるようになってくる。

築き上げるのは何もプレーだけではない…信頼も同じくらい重要だ。


「にしても点差は縮まってきたが…」

「いまいち波に乗り切れないっスね」

『…日向君の3Pシュートが決まっていないからじゃないかな』


日向君の不調で誠凛がもう1つ勢いづかない。

加えて、アウトサイドシュートが決まらないから霧崎第一の守備もインサイドに重きを置いている…木吉君へのラフプレーがまた行われる。

このまま続けば…いよいよ膝が潰されるかもしれない。

そのタイミングでタイムアウトを取った誠凛。リコも多分これ以上は危険だと判断したのだろう。

本当ならもっと早く交代させるのが賢明な判断だったと言えるのだろう。でも、選手本人が試合に出続けることを望んだ。


「7番を下げた?」

「ラフプレーの集中砲火浴びてたっスからね」

『…今このまま続ければ、勝ったとしても木吉君がWCに出るのは難しくなると思います』

「致命的に潰される前に、ってことだろうな」


選手に葛藤があるように、指揮官にだって苦渋の決断をしなければならない時がある。木吉君の重いも痛いぐらい分かる。それでも木吉君のことを思うからこそのリコの決断だ。

そんな容易に出来るようなものじゃない。


「もしかしたら誠凛これで折れちゃうんじゃ…」

「…いや、だからこそ折れない、かもしれねーぜ」

『私も笠松さんと同意見です』


誠凛の精神的支柱の1人が木吉君ならもう1人は――決まってる。

日向君へと回ってきたパス、3Pをそのまま打つけどそれはリングに弾かれる。

日向君のシュートさえ決まれば…


「入んないっスね…」

「力み過ぎてるな」

『本来3Pシュートはそう何本も入るものじゃないですしね…緑間君みたいな天才は例外的にいますけど』

「元プレイヤーとしての意見か?」

『…まあそうですね』


3Pシュートは決まれば3点獲得出来る。でもその分、遠くから撃たなければならないし外れてしまえば0点。さらに、緑間君が日頃からテーピングで爪を保護してるようにシュートタッチが肝要にもなってくる。

その上、どんなに良いシューター(緑間君みたいなのを覗いて)でも入らない日はどこまでも入らない。

バスケはフィジカルも勿論影響するスポーツではあるけどメンタルでも大きく左右される。


(今の日向君に影響を及ぼしているのは間違いなく精神面…だから、それを払拭出来れば)


まだ勝機はある。

そして――

伊月君から黒子君、そして日向君へと渡ったパス。


『!』


シュートモーションから余計な肩の力は抜けていて、


『…入る』


気付いたらそう呟いていた。

描かれた放物線はまさに完璧。お手本のような理想の見事な3Pシュートはゴールに吸い込まれる。


「入れた…!」

「折れなかったな」


主将のシュートはチームに活気をもたらす。こうなれば…

真君からのスティールに成功した黒子君がパスを回し日向君が再びシュートモーションに入る…と見せかけてからのパスで伊月君のレイアップが決まる。


「こりゃあ行くっスね」

「外が入るようになって中が活きてきた」

『勢いづいた誠凛を止めるのはちょっとやそっとじゃ難しいですね』


正真正銘、完全に流れは今誠凛に来てる。

霧崎の方も意地で返しては来るけど、それでもだ。

そして、残り1分を切って69対68で誠凛が遂に逆転した。

盛り上がる会場に歓声を上げる観客達。

コートの中も良い空気になっている、そんな中――1人オーラが違う人物。

あれは…危険以外の何物でもない。

スクリーンからのスイッチでボールを持った真君が対峙した相手は――黒子君だった。


『まずい…!』

「黒子っち…!」


思いっきり振りかぶった真君を黒子君は何とか避けてくれた。もし、今のが当たってれば離脱は免れない。

しかし、安心したのも束の間。

真君は黒子君を抜き、そのままゴールへと突き進む。それも今までで一番速いスピードで。

そして、随分手前の方で踏み切ったかと思えば。


『…ティアドロップ…』

「この局面で撃ってきやがった…」


再び逆転した霧崎第一。時間は残り40秒ほど。

すると――

真君の真横を黒子君のイグナイトパスが通った。

それを火神君がダンクシュートで決める。

誠凛が再び逆転に成功した。

そして、そのまま誰も手を緩めることなく――試合終了のブザーが鳴った。

一瞬の静寂、そして


「誠凛高校……WC出場決定ーーー!!!」


すぐに沸き上がる歓声。

76対70で誠凛が霧崎第一に勝利した。


『良かった…』


ホッと一息つける。張り詰めた緊張感と胸騒ぎから漸く解放された。


「これで誠凛とまた戦えるっスね」

「ああ…残るは秀徳か」

「緑間っちが負けるわけないっスよ!ねえセンパイ?」

『勿論!』


秀徳の方を見れば全くもって危な気ないスコアだ。

それから間もなく秀徳の方も試合を終え、WC出場を決めた。


「よし、秀徳の方も決まったな」

「あー今から楽しみっスね!」

『…次、会うのは冬だね』


今度黄瀬君と…いや、キセキの世代のみんなと顔を合わせるとしたらそれはWCの会場でだろう。

そして、全員が敵同士になる。


「秀徳と当たっても恨みっこなしっスよ?」

『ふふ、大丈夫。優勝するのは秀徳だから』

「緑間っちばっかセンパイに応援されてズルいっスねー…でも、優勝するのは海常っスよ」


さっきと目付きの変わった黄瀬君は完全に勝負師の目になった。

それは海常の笠松さん達も同じで…全員良い目をしている。

まず間違いなく幻のシックスマンを含めたキセキの世代獲得校のどこかが頂点に立つ。


『冬が、楽しみだね』


あの時のチームはもうどこにも存在しない。

あの時と同じ喜びはもう二度とない。

それでも…全員が揃うWCにはきっと意味がある。

この冬に全ての決着がつく、そんな気がしてならなかった。



* * * * *



「俺達帰るっスけどセンパイも一緒に帰ります?」

『うーん、ちょっと行かなきゃいけない所があるから遠慮しとく』

「やっぱ秀徳っスか?」

『あー…うん、まあそんなとこかな』

「?そうっスか」


言葉を濁した私に訝しげな顔をする黄瀬君。でも本当のことを言うわけにはいかない。

何しろ行く場所というのが…



『お疲れ様』

「……」


1人ベンチでポツンと座っていた隣に私も腰を下ろす。

差し出したスポーツドリンクを無言で受け取ってはくれたものの飲むわけでもなくジッと下を見つめている。11月中旬の日暮れは中々寒いけどそれも今は関係ない。

暫く沈黙が続いた中。


「…んで」

『ん?』

「何で来んだよ…」

『負けた日は大体ここにいたでしょ、私も真君も』


小学生までよく2人でバスケをしたストバスの目の前にあるこのベンチ。

試合で負けた日はよくここで反省をしたり泣いたりしていた。


「お前、俺のバスケは肯定できねぇって言ってただろ…」

『うん、肯定する気もないし賛同もしないよ』

「じゃあ何で来んだよ…」

『…落ち込んでる幼馴染を慰めるため、かな』

「別に落ち込んでねぇ」

『そう?』


目赤いけど、と指摘すれば顔を背けられる。相変わらずの天邪鬼っぷりだ。

確かにラフプレーや卑劣な行為には全く理解し得ないし酷いと思う。

それでも私が真君を嫌いにならないのは根本にバスケが好きだからなのが分かるからだと思う。本当はWCにだって出たかったに違いない。

それにバスケを抜きにしても真君は大事な幼馴染で友達だ。


『最後のフローターショット、凄かった。いつの間にって感じ』

「…そうかよ」

『あんなの出来るんだから普通にバスケすれば良いのに』

「……うっせ」


そう言うなり私の肩に頭を預けてくる。

昔と同じ、何も変わらないこの幼馴染の行為に思わず笑いそうになるのをグッと堪える。笑ってしまったら扱いが面倒になるのは長年の付き合いで把握済みだ。

サラリとした黒髪が首に当たるのが少しくすぐったい。

それでも今はこのへそ曲がりの幼馴染を慰めなければ。


『今度は秀徳ともちゃんと試合してね。勿論ラフプレーなしで!』

「…気が向いたらな」

『真君なら出来るでしょそれぐらい…まあ勝つのは秀徳だけど』

「お前本当に言うようになったな…バァカ」

『…いひゃいです』


頬を抓られる。そろそろ平常運転に戻りそうだ。

さて、とそのまま立ち上がれば私に倣って真君も立ち上がる。


『じゃあそろそろ帰ろっか』

「送ってくか?」

『ううん大丈夫。あ、でも今度おばさんに顔見せに来るね』

「分かった」


それじゃあね、と背を向けて歩き出すと「名前」と呼ばれ振り返る。


「あのよ…この前は悪かった」

『この前?』

「…虹村のこと」


一瞬自分で目が見開くのが分かった。それが真君が謝ったからなのか名前に反応したのかは分からないけど。


『ううん…あれは全部私が悪いから』


首を横に振ってそう言ったのは自分に言い聞かせたいからか。でも少なくとも真君が謝ることではない。


『だから気にしないで…またおすすめの本あったらよろしくね』

「ああ…」


今度こそ歩き進める足。

肌に当たる風がずっと冷たくなったような気がした。



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