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『どうして…』


俺達4人がいるのを見て、名前さんは大きな目をさらに大きく見開いて固まっている。まあそりゃ驚くか、まさか俺達がいるなんて思ってなかっただろうし。


「みんな名前のお見舞いに来てくれたのよ〜」

『お見舞い…?』


それを聞いた名前さんが顔を向けるのは裕也さんの方で。


『来ちゃダメって言ったのに…』

「“今日は”来るなって言われてねーよ」

「それに、そんな簡単にうつるほど俺達も柔じゃねぇしな」

『そうかもしれないですけど…』


ほぼ屁理屈を言う裕也さんに加勢する宮地さん。この兄弟は名前さんのことになると、文字通り必死だ。

そんな2人に名前さんは困った表情を浮かべている。

とりあえずここはフォローしようと思い口を開こうとしたその時――


「それより名前、着替えてきたら?」

『え……あっ!?』


俺より先に口を開いたのは名前さんのお母さんで、その指摘に顔を赤くする名前さん……と宮地さん達。

名前さんが着てるのは淡い水色のパジャマで、夏用だからか素材も薄手なのに加えて…腕も足もがっつり出ている。

すらっと伸びた足に、見える綺麗な鎖骨。

こういうのにそもそも免疫のない真ちゃんはともかく、普通の男でもグッとくるその姿が、ましてや好きな子のものともなれば…普段は怖い先輩はもうそこにはいない。


『き、着替えてくる…!』


そんな男達の心中など、勿論知らない名前さんはそう言って部屋を慌てて出て行く。


「…〜っ!」

「マジでヤバイ…」


言葉にならない宮地さんとそう呟く裕也さん。

いつもならこうなった宮地さん達を見て堪えきれず笑う俺なんだけど…

視線を向けた先にいるのはニコニコと楽しそうに微笑んでる名前さんのお母さん。


「さてさて、あの子がいない間に証拠隠滅しなきゃね〜」


のんびりした口調に反して、てきぱきと先程まで見せてもらっていたアルバムを片付けていく姿は名前さんと同じで…なるほど、名前さんのあの仕事の速さは母親譲りらしい。

…にしても、娘の扱いが上手いというか…それでも、大切に育てているんだなというのが伝わってくる。


(まあ、それはさっきあんな話を聞いたからっていうのもあるか…)



◇◆



「うわー真ちゃんの家も大きいけど名前さんの家も凄いっすね…」

「俺も初めて来たとき同じこと思ったわ」


目の前に映る立派な家にそんな感想を言えば、俺の隣で頷く宮地さん。

俺達が何故名前さんの家の前にいるかといえば、それは今日も風邪で休んでいる彼女のお見舞いに来たから。

昨日と同様、朝練の後に裕也さんに届いた名前さんからの《熱が下がらないので今日も休みます》というメッセージ。

それを見た瞬間の裕也さんの落ち込みぶりといったらもう…恋する男子は大変だ。

とまあそれは置いといて、みんな名前さんが心配だったし幸運にも今日は部活も休みだったからお見舞いに来たわけだ。

面子は俺と真ちゃん、宮地さん、裕也さんの4人。大坪さんと木村さんも誘ったんだけど「図体のデカい男6人で行くのは悪いから」と言われた…まあ既に190オーバー2人いるんだけどね。

代わりに木村さんから実家の八百屋から果物とかを託された。…ついでに大坪さんからはお手製の膝掛けを渡された。


(大坪さんの趣味が編み物とはねぇー…)


持っている手編みの膝掛けを見ながら思わずそう呟く。

大坪さんのその特技は意外っつーか似合わないというか…あの頼りがいある人がちまちまと編み物をしている姿を想像すると…どうしても笑いがこみ上げてくる。


「どうかしたか高尾?」

「いや、何でもないっす」


訝しげな顔の裕也さんに何事もないかのようにそう言えば、そんなに興味もなかったのか「そうか」とだけ返された。


「つか、いつまでもここに立ってたら怪しまれねぇか?」

「じゃあ兄貴インターホン押せよ」

「ああ、そうだな」


ピンポーン、とそのままインターホンを宮地さんが押す。

すると、すぐに「はい〜」という声が返ってきた。


「!…秀徳高校3年の宮地と言います。名前さんのお見舞いに伺いました」

「あらそうなの〜じゃあちょっと待っててね〜」


少し緊張気味に言う宮地さんに、ちょっとのんびりした口調で答えるのはたぶん名前さんのお母さん。

そしてそのまま4人横一列に並んで待っていると


「「「!」」」

「わざわざありがとうね〜良かったら上がっていって」

「はい。ありがとうございます」


驚いて固まる俺達を気にも留めないでそう言う真ちゃんに、今回ばかりは感謝だ。

何で驚いてるかってそれは――玄関から出てきた女の人に目が離せなかったから。

だってその人は名前さんに本当にそっくりで…まさに未来の彼女の姿だった。


(遺伝子凄すぎるでしょ!?つーかお母さんも美人だわ…)


そんなことを思いながら、家の中へとお邪魔した。

中に入ると清潔感のある綺麗な部屋で温かさのある感じだった。

そのままリビングへと案内されて、軽く自己紹介をすると


「みんなそんなに畏まらなくてもいいのよ〜」

「え、あ、はい!あ、そうだ…これ良かったら…」


普段はあんなに怖い宮地さんが見たことないくらい緊張して差し出したのは木村さんから託された果物籠。


「あらあら、気を遣わせてごめんなさいね?あの子起きてれば良かったんだけど…今寝ちゃってて」

「いえ、そんな!むしろ俺達の方こそいきなり押しかけてすみません」

「それこそ全然問題ないわよ〜私こそ、こんなにかっこいい男の子達と話せて嬉しいわ〜」


名前さんにそっくりな顔でニコッと微笑まれたら、そりゃあ彼女を好きな宮地さん達の顔は赤くなるわけで…今日は面白いものがよく見れる。


「あ、あの…名前さんの具合はどうですか?」

「うーん、朝はまだ熱があったんだけどさっき1回起きた時は大丈夫そうだったから…明日には学校に行けると思うわよ」

「そうですか…良かった」


それを聞いて裕也さんも宮地さんも、いつも仏頂面の真ちゃんでさえも安心した表情を浮かべる。やっぱり全員かなり心配していたようだ。


「こんなにみんなに心配されるなんてあの子も幸せ者ね。まあ風邪引いたのなんて本当に久しぶりだったから私もちょっとビックリしたけど」

「え、そうなんですか?」

「そうよ〜だから久しぶりに名前の面倒見れて嬉しいの。あの子には内緒だけど」


まあたぶん本人に気付かれてるんだろうけどね〜と可笑しそうに続ける。


「面倒見れてって…どういう意味ですか?」


宮地さんの質問にお母さんはまたニコニコとした顔で答える。


「母親の私が言うのもなんだけど、本当に手のかからない子なの。こっちに心配する隙をあんまり与えてくれないのよね」

「隙、ですか?」

「しっかりしてることは良いことなんだけどね、しっかりし過ぎなの。それにある程度のことは自分で出来ちゃうから余計にね。親なんだから迷惑かけてくれていいのに」

「ああー…」


それはあると揃って眉を下げて笑う。確かに名前さんは周りに頼ろうとしないし、むしろ俺達を気遣って自分でやってしまうという節がよくある。


「名前が元々バスケやっていたのは知ってる?」


急な質問に少し驚いたけど、全員頷く。


「名前さんから聞きました」

「そう…あの子怪我の事ずっと周りに隠してたのに、言えるようになったのね」


経緯とかはともかく、確かに名前さんから怪我の事は直接聞いた。

ずっと黙っていたことも把握済み。


「中学を卒業した後に少し元気がなかったんだけど、それは理由が分かってたからそんなに気にしてなかったの。心配になったのは去年の夏、後輩のみんなの全中を観て帰ってきた後…」


“後輩のみんな”その言葉に一瞬反応したのは真ちゃんだった。…てことはキセキの世代絡みか。


「怪我をした後でもあんなに好きだったバスケを全部忘れようとしてて…見ているこっちが辛くなるくらいにね。でも分かるのはその大会で何かあったってことだけで、理由は分からないまま」

「……」

「でも最近、またバスケに関わるようになって…本当に楽しそうなの。みんなのおかげね」


目を細めて笑うその顔は本当に嬉しそうで、まさに母親の顔だった。名前さんがどれだけ大切な存在なのか、その表情で全てが伝わってきた。


「俺達は別に大したことは…」

「ううん、裕也君達の話する時あの子とっても楽しそうなのよ?」

「そ、そうなんですか…」


それを聞いて嬉しいのか顔を赤らめて照れる裕也さん。…本当に名前さんが好きなんだなー


「だから本当にみんなには感謝してるの。いい人達に恵まれて、私の心配事はもうなくなったから」


さてと、とそのまま立ち上がりどこかに向かったお母さんは何かを手にして戻ってきた。


「名前のアルバム…見たくない?」

「「見たいです!!!」」

「ぷっ」


あまりにも即答する宮地兄弟に思わず吹き出してしまった。いや、だって本当に名前さんが絡むとこの2人形振り構わないんだもん。

横目でチラッと真ちゃんを見ると俯いて何か考え事をしていて…たぶんさっきのキセキ絡みの話だろう。

何があったのか勿論気にはなる。けど、たぶんそれは今聞くべきじゃないと直感的に思った。

それに…根拠はないけどいつかわかるような、そんな気がした。


「真ちゃんも見たいんじゃないの〜?名前さんの写真」

「なっ…!俺は…!」

「もうツンデレなんだからなあー真ちゃんは」

「何なのだよ高尾!」

「「うっせーぞ高尾!緑間!」」


真ちゃんをからかったら宮地さん達に怒鳴られ、それを名前さんのお母さんは相変わらず楽しそうに「大変ね〜」と一言。

…絶対宮地さんと裕也さんのことは見抜かれてるなこれ。


「あの子そういう所は鈍いのよね〜」

「…そうなんですよね〜」


たぶん俺だけに聞こえるように言ったお母さんの言葉に同意する。

何つーか…女ってやっぱ凄いわ。



◆◇



『…お母さんから何か変なこと吹き込まれなかった?』

「いや、何も言われてませんよ」


着替えて戻ってきた名前さんの第一声がこれ。流石お母さん譲りの鋭さだ。

俺の顔を暫くジッと見つめる名前さん…って、ん?


「名前さん目少し赤くないっすか?」

『え…』


さっきは気付かなかったけどよく見ると目元が赤くなっている。それに薄っすらだけど涙の跡も…?


『寝起きだからかな?目が充血しちゃったのかもね』


俺の指摘に一瞬だけ固まったかと思ったらすぐにいつもの調子に戻ってそう返される…誤魔化すってことは言いたくないってこと、か。


「そうっすか?ならいいんですけど」


前にもあったけど…名前さんが誤魔化す時、たぶん“誰か”がそこにいる。

それが誰かは分かんねぇけど、俺の予想だと――


「ん?何だよ高尾」

「いや、何でもないっす」


宮地さん達にはあまり嬉しくない相手のような気がする。

まあ、あくまで俺の予想なんだけどな。

でも、その人を思い浮かべてる時の名前さんは本当に綺麗だから…どうしてもそう思ってしまう。


「ホントに大変っすねー…」


今、宮地兄弟に挟まれて話している名前さん達を見ながら小声でそんなことを呟く。

ぶっちゃけどっちに向けて言ったのか分からねぇんだけどな。


…そんなこんなで色々と収穫があった名前さんのお見舞いなのであった。



side:高尾和成




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