01
「──座のあなたの今日の運勢は絶好調!ラッキーアイテムのお菓子のストラップを持てばさらに運気は上昇!」
コーヒーを飲みながら今日の新聞に目を通していると、テレビで入っていたおは朝占いが耳に入ってくる。
それによると、どうやら私の星座は今日絶好調らしい。
おは朝といえば中学の後輩にその信者がいた。ラッキーアイテム……そういえば初めて忠実に持っているのを見た時は凄く驚いた。彼が入部してから、体育館の隅に奇妙なモノが置かれ始めた当初は首を傾げたものだ。
彼曰くそれが人事を尽くすことにらしいのだが、正直意味はよく分からなかった。でも本人がそれを必要としているのだからそれでいいのだろう。
「名前〜そろそろ行かないと始業式遅れるわよ〜?」
お母さんの言葉で時計を見れば確かにもういい時間だ。新学期早々、遅刻するのはあまりにも恥ずかしいので急がなければ。
残ったコーヒーを飲み干して、4月とはいえまだ少し肌寒いのでカーディガンを羽織る。
『いってきまーす』
「いってらっしゃい〜」という間延びしたお母さんの言葉を背に受けて私は家を出た。
外に出るとやはりまだ少し気温が低い。カーディガンを着たのは正解だった。
通いなれた通学路を歩いていると、白いブレザーが偶然目に入った。それは紛れもなく、2年前までは自分も着ていた制服だ。
それを見たせいか、そういえば中学時代の1つ下の後輩達も今日から高校生か、とふと頭に過ったその事実に、胸が少しだけ締めつけられるような感覚がする。
一体みんなはどこの高校に進学したのだろうか……あの5人…いや、6人はどんな道を選んだのだろうか。答えが返ってくるはずのない疑問が浮かぶ。
もしかしたら私と同じ学校の子もいるかもしれない、なんて軽く考えていたことが現実だと知るのはもう少し先の話だが。
* * * * *
学校に着くと掲示板の前に人だかりが出来ている。そういえば、クラス替えがあるんだった。すっかり忘れていた。
人混みがおさまるのを待ってから見に行こうと思い、掲示板の後ろの方から傍観していると、
「何してんだよ苗字」
『あ、おはよう裕也君』
現れた短髪の綺麗な蜂蜜色の髪の持ち主は、宮地裕也君。去年同じクラスになって見事仲良くなった友達だ。言葉遣い悪いのが玉に瑕だけど、そこはご愛嬌というもので、実際はとてもいい人だ。
いやーあんな感じだから、と目の前の人だかりに視線を移すと「ああー…なるほどな」と納得したように頷く。
「俺が見てきてやろうか?」
『えっ、悪いからいいよって…行っちゃった』
まあ裕也君は周りより頭一つ分ほど背が高いからすぐに分かるのだろう。
口は悪いけど、やはり彼は何やかんやで優しい。
……だから、少し似ているように感じるのかもしれない。怖そうに見えて優しかった彼に。凶悪そうな顔なんて同級生に言われてたけど……誰よりもあたたかい心を持っていた彼に。
何だか今日は朝から中学時代のことを思い出してばっかりだ。……今はあまり思い出さないようにしているのに。
そんなことを考えてる内に裕也君が帰ってきた。
「苗字ー、俺とお前今年もまた同じクラスだったぞ」
『本当!?今年も1年よろしくね裕也君!』
「……おう」
『? 顔、赤いけど大丈夫?』
急に顔を赤くした彼にそう聞けば「大丈夫にきまってるだろっ!」と言って髪をぐしゃぐしゃにされる。
…一応これでもセットしてきてるのだからやめてほしい。
ジト目の私に対して裕也君はとても楽しそうだ。
顔が整ってる人って本当にずるい、怒るに怒れなくなってしまう。
(でも、今年も1年楽しくなりそう)
そう思いながら私達は教室へ向かったのだった。
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