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黄瀬君達と来たお好み焼き店で誠凛一行と秀徳ルーキーコンビが立て続きに来店したことによってカオスと化した。
黒子君達の席は確かに気になるけど…
『…とりあえず高尾君何か頼んだら?』
「ああそうすね〜じゃあブタキムチ玉にします!笠松さん達は?」
「俺はもういい」
『私は飲み物頼もうかな。すみませーん!注文お願いしまーす』
「あいよー!」
注文を終えると再び話題は例の4人のテーブルに。
「それにしてもある意味壮観だな」
「キセキが2人に誠凛の1年コンビ…何話すんですかね」
『あの状況にした張本人がそれ言っちゃうの?…そういえば黄瀬君も緑間君もチームだとどんな感じなんですか?』
黄瀬君を獲得した海常、緑間君を獲得した秀徳。これは2人だけに限った話じゃなく、キセキの世代全員に言えるのだけど彼らは一筋縄じゃいかないはず。それが純粋に気になった。
「そーだな…俺はそもそもこれはチームによって違うだろうけど基本的にはメンバーのやりたいことをやらせる。でも、最終的には統率をとって勝つっていうのが俺の思うチームだ」
『やりたいことをやらせる?』
「バランスをとるってことだ。特に、ウチには今年黄瀬が入ったから」
「ああーキセキの世代が入るとねー」
「アイツらの名前は伊達じゃねえ。突出するプレイヤーってのはチームの薬にも毒にもなるからな。そこのバランスをちゃんととるのが大事だと思ってた」
『思ってた?過去形ですか?』
「最近変わってきたんだよ黄瀬の奴…ちょっとずつだけどな」
それは私も感じたことだった。最後に会った時の彼と、今の彼は違った。そして、それを変えたのは黒子君。
『良い方向に変わってるなら大丈夫そうですね』
「まあ、生意気ではあるけどな…で、そういうとこ秀徳はどうなんだ?」
「あれっ?そこでこっちに話振ります?」
『でも私も気になるなあー』
「キセキの世代を獲得したのはそっちも同じだろう?色々大変なんじゃないのか?」
「まあーそうっすね緑間は協調性0だし」
『ああーそれは…観てて何となく思ったよ』
「でも実際アイツが凄いことはみんな知ってるから主将がバシッとまとめてる感じっすかね」
何だろう今とてつもなく大坪先輩に謝罪とお礼を言いに行かなきゃと思ってしまった。
それに続けるように高尾君が口を開く。
「ああーあとウチの場合は監督が緑間の舵取りしてるかも。我儘は1日3回まで、とか」
「我儘って…」
『…そんなことになってたのね…。何だか緑間君、中学の時とだいぶ…』
元来、拘りが強い性格なのは知っていたけど…少なくとも私が部にいた時は彼はどちらかと言えば面倒見の良い方だったと思う。紫頭の子とか青頭に口煩いって言われて喧嘩してたくらいだし。
『何だか入るチームによって変わるもんですねえ…』
「そうなのか?」
『はい。少なくとも黄瀬君も緑間君も帝光にいた時とは変わってますね…あっ、でも』
そこまで言って私は口を噤んでしまった。あまりに中途半端なそれに2人は不思議そうな顔をする。
「でも…何すか?」
『ううん。何でもないよ…あっ!お好み焼き来たよ』
「…おおー待ってました!」
タイミングよく来た料理に強引に話を逸らしたけど…まあ納得はしてないかな。特に、高尾君は鋭そうだし。
でも気付かないフリをしてくれたのは助かる。話したくない話だと察してくれたのだろう。
それにしても…最近本当によく思い出す。自分でも情けないくらいに“彼”のことを忘れられていない。昔と今で、彼に対する感情は違う。勿論どちらとも好意ではあるけど…今は罪悪感の方が勝っているのかもしれない。
こんなことを言えば、彼は私は悪くないと言ってくれるのだろうけど…それを私自身が許せない。だから余計に思い出すと…
「…さん、名前さん!」
『…!ごめん、どうかした?』
「どうかっつーか…凄いボーっとしてたっすよ?」
『ちょっと考え事をね…それより綺麗な丸だね』
いつの間に焼けていたお好み焼きはとても綺麗な円形で美味しそうだ。
「名前さん、ここからっすよ本番は」
『どういうこと?』
「オイ、あんま無茶すんなよ」
「大丈夫ですってー…よっ!」
そう言うと高尾君はお好み焼き高く宙に上げてひっくり返した。
『おおー』
「それで仕上げにソースとマヨネーズ、青海苔をのせてっと…よっ」
再び高々とひっくり返されたお好み焼きは鉄板に戻ってくることなく――緑間君達の席へと飛んで行く。
『あっ…』
放物線を描いたそれは見事に緑間君の頭の上へと着地した。…後姿でも怒ってるのがわかる。
「高尾、ちょっと来い」
「わりーわりー…ってちょっごめんごめ…だギャーーー!!」
高尾君を店の外へと連れ出すと聞こえるのは高尾君の断末魔のような声…まあ、これは流石に私もフォロー出来ない。
その後店内に戻ってきたのは緑間君だけで…って高尾君は?
「名前さん、高尾の荷物とってもらえますか?」
『いいけど…もう帰るの?』
頷いた彼を見て少し思案する。うーん…まあいいか。
はい、とエナメルを渡せばお礼を言われる。
『また、学校でね』
「はい」
それから彼は火神君に青峰君の話をして店を後にした。そうか…決勝リーグは彼が出てくるのか…。
「一緒じゃなくて良かったのか?」
『はい。今の彼に私から何か言う必要ないと思ったので』
「…お前、本当にただのマネージャーかよ…」
『元マネージャーですよ、普通の』
まあ、笠松さんが疑うのはわかるけど…本当のことを言う必要はない。
『私達も帰りましょうか』
「え、名前センパイ帰るなら俺も帰るっス!」
はいはい、と返せば満足そうな顔をする黄瀬君は本当に犬みたいだ。コロコロ表情が変わるのは昔のままだ。
「苗字さん、今日は会えて嬉しかったです」
『私も黒子君に会えて良かったよ。…決勝リーグは青峰君となんだね』
「…はい。必ず彼を倒します」
『うん…。黒子君が彼に勝たないと、あのつまんないって目を覚まさせないとね』
「はい…っ!」
力強くそう言う彼の目には闘志が感じられた。相手があの青峰君だから楽な戦いではない。でも、私は黒子君が諦めが悪いのを知っている。
だから、私は彼を信じているのだ。元チームメイトとして、先輩として、そして1人のバスケファンとして。
それじゃあ、と黒子君に別れの挨拶をすると私達は帰路についた。
(おまけ)
リコは去って行く少女の後姿を見つめながらボソッと呟く。
「…あの子…」
「ん?どうした、カントク?」
それが耳に入った日向はリコにそう問う。
「いや、彼女を前にどこかで見たような気がして…ああー、思い出せない!」
「黒子と黄瀬の先輩って言ってたから帝光のマネージャーだったとかじゃないのか?」
「うーん…もっと前に何かで見た気がするんだけど…」
「まあその内思い出すだろ!それより俺達も帰るぞ!」
「そーね…みんなー!帰るわよ!」
この時のリコの疑問が解消されるのはもう少し先の話である。
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