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中間テストも終わりいよいよインターハイ予選トーナメント。秀徳は4回戦からの出場で、何事もなく準決勝に駒を進めたのはさすが東京三大王者の一校だと言える。

加えて、今年はキセキの世代No.1シューターである緑間君の加入によって期待値も相当高い。

だけど、正直準決勝も決勝も観に行くつもりはなかった。どんなにバスケ部に知り合いが多くても、また“あの時”と同じ思いをするかもしれない、そう考えるとどうしても躊躇ってしまう。

そんな私に届いた一通のメール──差出人は、黒子君だった。


《苗字さん、お久しぶりです。

僕はやっぱり彼らの、キセキの世代のバスケは間違ってると思います。だから僕は彼らと戦います。

今度のインターハイ予選で勝ち進めば僕のいる誠凛と緑間君の秀徳があたります。

苗字さんにも観に来てほしいです。》

黒子君とは趣味が同じ読書ということもあって後輩の中ではかなり仲良くしていた。私が部を引退、卒業してからもそれなりに連絡は取っていた。

だけど…去年の全中の決勝戦の後、それからは一切連絡は来なくなった…《バスケ部を辞めます》というメールを最後に。

彼の精神を崩壊させるには十分過ぎる内容だった。観ていた私は彼の気持ちが誰よりも痛いほど分かった。だから引き留めることなんて、とてもじゃないけどできなかった。

そんな彼がまたバスケを始めたのを知って嬉しかった。私にはなかった勇気を彼は持っていた。それが純粋に凄いと思った。

黒子君からこんなメールを貰ってしまっては行かない訳にはいかない。

でも…《じゃあ行くのは決勝からにするね》と返信する。少し意地悪かと思ったけどたぶん彼も負ける気なんて毛頭ないだろうから大丈夫だろう。


* * * * *


それから日は経ち、いよいよ試合当日。

決勝は黒子君の目論見通り誠凛対秀徳。試合は17時からだけど思ったより少し早く着いてしまった。

少し喉も渇いたし、この間に飲み物でも買っておこうと会場内をぶらつく。

それにしても1日で準決勝と決勝とは…少しハード過ぎではないだろうか。選手層の厚いチームならそんなに心配する必要はないだろうけど、確か誠凛は去年出来た新設校。

だから部員は1・2年生だけなのを踏まえてもそんなに多くはないはず。もしかして誠凛にとって今日の試合は相当ハードなのではないだろうか。

そんなことをぼんやり考えていると自販機を発見。小銭を入れようとした時だった。


「名前センパーーーイ!!!」

『えっ』


奇襲の如く後ろから誰かに抱きつかれた。え、これって…痴漢?でも今確かに名前を呼ばれたような…。

そう思った時に目の端に映ったのは綺麗な金髪と左耳に光るシルバーのピアス──これは間違いなく…


「何やってんだよ黄瀬…っ!?」

「いてっ!痛い!痛いっスよ笠松センパイ!!!」


やっぱり黄瀬君だった。そして黒髪短髪の人に凄い蹴られてるのは痛そうではあるけど、急に抱きついたので自業自得?


『久しぶりだね黄瀬君』

「名前センパイ!今までどこにいたんスか?俺ずっと心配してたんスよ!?」

『…まあ色々あってね。今は秀徳に通ってるよ』

「秀徳って…緑間っちと同じ学校じゃないっスか!何で海常にしなかったんスか!?」

「さっきからうっせーぞ黄瀬っ!…悪いなウチの後輩が」

「いえ、慣れてるので…ってあの、大丈夫ですか?」


わざわざ謝ってくれる黄瀬君の先輩らしき人は全く私を見ようとせずに明後日の方角を見ている。心なしか何だか耳も赤いような…。

私が不思議に思ってると黄瀬君が「笠松センパイ、女の人が苦手なんス」と耳打ちしてくれた。なるほど、そういうことか。


『笠松さん、改めまして秀徳2年の苗字名前です。黄瀬君と同じ、中学は帝光で男バスのマネージャーをしていました』

「!帝光の元マネージャーか。俺は海常3年の笠松幸男、海常のバスケ部主将をやってる」


一瞬こちらを見て目線が合ったがすぐに逸らされてしまったものの挨拶は何とかしてもらえた。


「それより名前センパイはどうしてここに?緑間っちの応援っスか?」

『ううん。私は黒子君に誘われね。まさか黄瀬君に会えるとは思ってなかったよ』

「俺もセンパイに会えるなんて夢にも思ってなかったっスよ!」

『大袈裟だよ…』


犬なら尻尾を振っているのが目に浮かぶくらい嬉しそうな黄瀬君に少しの罪悪感にかられる。

それに何だかあの時よりも雰囲気が…


『黄瀬君、少し変わった?』

「え?いやーそんなことないと思うっスけど…」

『じゃあ…バスケ楽しい?』

「!…そうっスね。この前黒子っちのいる誠凛と練習試合して俺負けちゃったんスけど…それから最近バスケするのがちょっと楽しいっス」

『そっか…それは良かった』


変わったんじゃない、戻ったのか。そしてそれはおそらく黒子君に負けたのがきっかけなのだろう。

それがどうしようもなく嬉しくて自然と頬が緩む。

あの時の私が大好きだったみんな、もう二度と元には戻らないと思っていたものを黒子君が直そうとしてくれてるのかもしれない。


『やっぱり黒子君は凄い子だね』

「同感っス。俺が尊敬してる人間っスからね」


何故か得意気に言う黄瀬君に思わず笑ってしまう。私の意味することと彼の意味は似てるようで全く違うのに。

そんな私を変に思ったのか先程まで全く私を見ていなかった笠松さんから視線を感じる。


「あれ?センパイが女の子凝視するなんて珍しいっスね」

「なあ苗字、お前、俺と前にどこかであったことあるか?」

「うわー…センパイそれ相当古いナンパの手法っスよ…って殴んないで下さいっス!」


茶々を入れてしばかれてる黄瀬君を尻目に考えるものの以前笠松さんと会った記憶はない。それにたぶん一度会ってたら覚えてるはずだし…うーん。


『すみません。たぶん会うのは今日が初めてだと思います』

「そうか…いや、急に悪かったな」

「もしかしたらあれじゃないっスか?月バスで帝光の写真に写ってるのを見たとか」

「ああ、そうかもしれねえな」


確かにそれはありえるかもしれない。何故かマネージャーなのにインタビューされたことあったし月バスに…月バス?

そこで私の脳裏に浮かんだある一つの可能性。いや、でもまさかあんな昔のこと…。


「?名前センパイどうかしたんっスか?」

『うっううん、何でもないよ。そろそろ試合始まる時間だね』

「そうっスね…あっ!センパイも一緒に見ましょうよ!」

『いや、悪いから遠慮すr「そんなこと言わないで下さいっスよ!折角センパイと会えたんスから…」


お願いだからそんな捨てられた子犬みたいな顔で言わないでほしい。私の良心が痛むではないか。


その後、結局流されて断ることの出来なかった私は黄瀬君達と試合観戦することになってしまったのだった。


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