今年春。あの人は開盟学園を卒業した。
あの日いらい、僕たちはお互い忙しくて、会うどころか電話すらできないでいた。
でもこの長い夏休みの中の一日くらいなら・・・。

静まり返った夜の自室で。
僕は机の上にある携帯をとり、緊張で震えた手でメールをうった。
送信画面を確認して携帯を閉じ、ぼふっと背中からベッドに倒れる。

「会いたいな・・・」

気が付いたら自然に言葉がもれていた。

あれから10分くらいたっただろうか。
自室にメールの受信を告げる着信音が鳴り響き、メインディスプレイは淡い色をして点滅していた。
携帯を開き画面を確認するとそこには恋人の名前。
次の日曜日に会いたいという文字が目に入り、心の中がぱっと明るくなった。

「会いたい」じゃない。
「会える」んだ。

あの人に久しぶりに会える。

そして、時間はあっという間に過ぎていき、日曜日。
相手を待たせたら悪いと思い、僕は待ち合わせの駅に15分ほど早く到着した。
けれど。
「おっ。はえーじゃん椿!!」
「あっ・・・」
待ち合わせの相手はすでに指定していた時計台の前に立ち、こちらに手を振っていた。
「会長っ!」
歩くスピードを速め、相手へと向かう。
近くまで行き目が合うと、それだけでほんの少し鼓動が早まった。
「お久しぶりです。」
「ああ、久しぶり。」
「っ・・!!」
言葉と同時に会長は僕の背中に腕を回し、抱きしめた。
「か・・かいちょう・・」
抱きしめられたその中から相手を見上げる。
懐かしい恋人の腕の中はあったかくて、とても安心する。

「会いたかった。」

そう僕の首に顔を埋めて甘えてくる会長。
首元から伝わる相手の感触。
甘酸っぱい気持ちが体をめぐる。

それでも、これ以上は外では我慢しなくてはいけないから気持ちを抑える。
「もうっ・・・人前ですよ?」
言ってゆっくりと体を離す。
「誰も見てねーよ。」
「そうですか?逆に目立つ気がするんですが・・・」
「かっかっか!あいかわらずだなー。一目なんか気にすんなよ。ほら、行こうぜ。」
「あっ!」
前を歩く会長に強引に腕をひっぱられる。
転びそうになった体を必死に体制をもどし、同じ歩幅で歩き始めた。

とりあえず近くのカフェに入り落ち着いた僕達は、向かい合わせに座り小さなランチメニューを見つめていた。
「椿決まったか?」
「あ、はい。」
互いに店員に注文を伝えると会長は飽きれた顔で僕を見つめる。
「お前、プチケーキとミルクティーって・・。ちゃんとでかい昼飯食えよ。Aランチサラダ付きとか頼んだ俺があほみてーじゃん。」
「すっ・・すみません。やっぱり僕も普通の物を注文した方がいいですか?」
「いや、別にいいけどよ。あとで腹へらねーか?」
「あ、大丈夫です。」
お腹は・・空いているといえば空いている。
けれど、それ以上に胸がいっぱいで食べられない。
こんなことを言ったら、女みたいだってからかわれるから口にはださないのだけれど。
「お待たせいたしました。ご注文は以上でよろしいですか?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
僕が返事をすると店員は軽く会釈をして離れていった。
運ばれてきたミルクティーを一口すすり、もとに戻す。
「なぁ、椿。」
「は、はい!」
「最近どうだ?変わったことあったか?」
「そっそうですね・・あ、そういえばこの前も藤崎が・・」
何を話そうか迷っていたところに相手から話を振られ、それからしばらく何気ない会話が続く。
でも・・
互いの日常を報告しあううち僕はさみしくなってきてしまった。

僕の知らない会長の日常。
僕の知らない人との会話。

もっと・・・もっと一緒にいられたらこんな思いしなくてすむのに。
そんな風なことを考えていたからだろう。
気が付けば胸にズキズキとした痛みが走りだしてしまった。
「・・・・椿!?」
そんな僕の微妙な表情の変化を見抜いて会長はすぐに隣に来てくれた。
「なんだよ・・どうかしたのか?」
「会長・・・」本当は今すぐにでも甘えたい。
もっともっと密着していたい。
開けなかった時間が埋まるくらいに・・・・繋がりたい。
だけど、僕から誘ったことなんてない。
自分からそんなこと言えない。

「具合でも悪いのか?帰るか?」

帰るか?
その言葉に僕は頷いた。

それから会長は気を利かせて僕の家まで来てくれた。
ベッドの中心に膝を抱えて座り肩を密着させる。
「すみません会長。別に、具合が悪いわけじゃないんです。」
「理由なんて気にすんなよ。とにかく帰りたかったんだろ。」
「はい・・・。」
セックスしたくて帰りたくなった、なんて口が裂けても言えるわけがない。
「ま、とにかくせっかくこうして二人きりになれたんだ。その時間を大切にしないとな。」
言って僕の髪に自分の指を絡めて撫でられる。
「あっ・・・」
指が髪を抜けるその感覚だけで体が相手を求める。
「椿は本当に一目気にしすぎだよなぁ。人って自分が気にしてるほど回りは自分のこと見てないぜ?」
「そうかもしれないですけど・・・でもっ!・・やっぱり気にはなります。」
「そうかよ・・・で?」
「え?わっ・・!!」
いきなり前から体重をかけられ押し倒される。
「あ・・・」
「人目気にしなくて大丈夫なとこ来たけど?」
背中に感じる柔らかいベッドの感触と、絡む恋人との視線。
「椿・・・」
名前を呼ばれ、再び髪に指が絡む。
ゆっくりと中をなぞられ、それから頭上に優しく手を添えられゆっくりと重なる唇。
「んーっ・・・・ふっ・・あっ・・」
自分から甘えたかった分、待ちに待ったキスに酔う。
相手の存在だけを考えて、ただこの行為に集中した。
乱れた呼吸が逆に気持ちいい。
ゆっくりと唇を離すといつもより多めの銀糸が互いのそれを結んでいた。
「はぁ・・・あっ・・・はぁはぁ・・・会長っ・・・!」

欲しい。貴方がもっと。
どこでもいいからもっと触って欲しい。
キスなんかじゃたりない。
でも、そんな僕の我儘を知らない会長の次の言葉は。

「満足したか?」

足りないです。
そんなこと言えない。

「濃厚キスなんて、たしかに外じゃさすがに無理だよなー。かっかっか!」
気が付けばいつもの調子の会長。

もっと欲しい。

その言葉だけが頭を支配する。

もうそんなに時間がない。
毎日会えるわけでもない。

「かいちょお・・・」
「ん?」

僕は理性を壊すと決めた。

「・・ぃ・・・・です。」
「椿?」
「もっと会長が欲しいです。」

自分の発した言葉に体が火照る。
でもそんな火照りじゃたりない。

「やっと言えたか。」
「え?」
会長の言葉に体が期待する。
「本当は最初からわかってた。」
「・・・・・・!!」

なんだ。
見透かされてたんだ。
本当に意地が悪い。

「焦らして悪かった。」
言葉と同時に僕の両手は会長の左手によって頭上に拘束された。

「朝からずっとこうして欲しかったんだろ?時間かけてゆっくりかまってやるよ。」





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