椿ちゃんが痴漢される話です。 安椿ですがモブ椿要素もありますので、苦手な方はご注意下さい。 蒸し暑く、不愉快としか言いようがない六月。はっきりしない天気が続き、肌に貼り付く衣服の鬱陶しさは、夏の汗ともまた違う。 外を眺めればしとしとと雨が降っている。窓を開けようが閉めようが、部屋は湿気でむっとしていた。その癖静かな雨音は眠気を誘い、なんとも過ごしにくい季節である。 しかし七月に入ればそんな日は少なくなった。雲間から差し込む眩しい太陽。その明るさは夏を思い立たせる。 ここ一週間は雨粒一滴見なかった。あとは梅雨明け宣言を待つのみだと、誰もが思っていた矢先だ。 「…すっげえ雨だよなあ」 「そうですね…」 生徒会業務を終えた二人は、学校の玄関で呆然としていた。 最後の一降り、と言わんばかりの土砂降りである。雨粒も大きく、地面にばちばち音を立てている。しかも風まで出ていて、横殴りにされた。 勿論天気予報で今日の雨は予測済みだが、想像以上だったのだ。持っていた傘は逆さまに開き、蝙蝠のように飛んでいった。無惨な形になったそれを追い掛ける気にもなれない。 二人は急遽電車で帰る事にした。普段は徒歩でも十分な距離だが、傘も役立たずなこの雨風では無理だと判断したのだ。 安形は鞄を傘代わりにし、椿の肩を抱いて走った。勿論これが功を奏する事はなく、駅に着く頃には二人供ずぶ濡れになっていた。 『三番線に列車が入ります―危険ですので、白線の内側までお下がり下さい』 平日の夕方、駅のホームは人でごった返していた。 普段の通勤・通学量も凄いのだろうが、皆考える事は同じらしい。台風とまではいかなくても、雨で困難な帰宅手段を電車に変えたのだろう。 安形と椿は濡れた制服を拭うものもなく、鬱陶しそうにはたいた。 「うわ、混んでますね…」 電車の中も同様に人で溢れ返り、すし詰め状態だった。ドアは開くが入り込む隙間など見当たらない。そこに無理矢理押し入り、なんとか乗客の中に紛れ込む。 立っているのがやっとの中で、電車は次に向かって動き出した。 「あれ?会長…?」 人混みの中で椿は安形とはぐれてしまった。自分達の後からも人はどんどん押し寄せていたのだ。流されてどこか別の場所に行ってしまったのだろう。 椿はきょろきょろと辺りを見回したが、安形はいなかった。こんな場所では歩き回って探すことも出来ず、自分の場所を確保するのに精一杯だった。どうせ十分かそこらで目的地に着くのだ。 椿は鞄を抱えて通路の真ん中辺りに立った。 「本当にすごい人だな…」 規則的な振動が足元を揺らす。 椿は普段ほとんど電車に乗ることがない。日常の行動範囲は徒歩で補える。たまに遠出もするが、それも大概が休日だ。 こんな通勤ラッシュは初めてだった。 雨に見舞われた人達が乗り合わす電車は、汗と湿気た匂いで溢れていた。水分は含んだ空気は重く息苦しい。 しかしこんな不快感の中で、老若男女ほとんどの人が、黙して時間の経過を待っている。椿も大衆と同じ様に従った。 「………ん?」 ふと、尻に違和感を感じる。人混みに流されて押し付けるような接触ではない。誰かの手の甲が、トンと当たったのだ。 椿は訝しげに目を伏せたが、この混雑だ。たまたま当たっただけかもしれない。こんな事でいちいち目くじらを立てるのも心が狭い。 椿は目を閉じた。 しかし、その手は間を置いてトン、トンと二度三度当たる。明らかに動きがおかしいが、これだけでは故意なのか判断しかねていた。 「…っ!」 今度は確実に、手のひらで尻をするりと撫でられた。 これは、どう考えても痴漢だ。人に押されて尻を撫でるなんて有り得ない。 椿はぎゅっと鞄を握り締め、どうしたらいいものか悩んだ。もしここが学校で、こんな不埒な行動を起こす者がいればすぐにでも処罰しただろう。生徒会役員だからだけではなく、彼の性格が許さないのだ。 規律正しく、風紀を乱す輩を見過ごさない。 しかしこんな見知らぬ人達に囲まれた中で、「痴漢!」と抗議するのはどうかと悩んだ。男が痴漢されたことがばれ、最悪勘違いだと言い返されたら大恥もいいところだ。 「ぅっ……!!」 椿が思い悩んでいる内に、痴漢は彼が抵抗しないと判断したらしい。行為が増長し、するすると尻を撫でる。 椿は沈黙を心に決めた。そもそも男の自分を痴漢すること自体が有り得ない話なのだ。きっと女子と勘違いしているのだろう。 見過ごすのも癪だが、その内に気付いて向こうから御免被る筈だ。 椿は俯いてやり過ごそうとした。 「…っ!」 足の間に手が入り、太股の内側を撫でられる。まるで虫が這っているように気持ち悪い。そのまま脚をきゅっと掴まれた。 当たり前だが、手の持ち主は男だ。太くて短い指に、厚くてだらしない手のひら。顔など見なくても下品な性癖が窺える。 椿は自分の太股に這いずるそれを見た。指一本一本、別に動かして弾力を楽しんでいる。気持ち悪くて足が震えた。 しかし痴漢の手は休まるどころか、今度は迷いなく股間に伸びてきた。 「……っ、ぁ!!」 思わず出そうになった声を、咄嗟に両手で押さえた。調子に乗ったそれは強い力で握り込んでいる。 顔も知らない他人に、デリケートな部分を触られたのだ。流石に抗議しようと思ったが、これで男だと気付いた筈だ。早く離れろと願いながら舌打ちした。 「………ねえ、君…」 耳元ではあはあと荒い息遣いが聞こえてくる。この男が痴漢なら、息はかなり煙草臭い。 その手は事実に驚いて離れるどころか、そのままそこを揉み始めた。椿のまだ柔らかいそこが手の中で遊ばれる。 「ひっ……!っぁ、」 ぶる、と爪先から頭のてっぺんで駆け抜けるような戦慄が走る。 「やめ…!」 身を捩って振り払おうとしたが、満員電車ではたったそれだけですら困難だった。僅かな身動ぎで終わり、逃げ道もない。 「あんまり声出さない方がいいよ」 男が耳元で愉快そうに鼻を鳴らしている。 「君、その制服は開盟学園の生徒だろ?いいとこのお坊ちゃんが痴漢されたなんて、そんな噂たったら嫌じゃない?学校行けなくなるよ」 自分が優位に立っていると勘違いした男は、途端に雄弁に語り出した。下品な手を引っ込めず、椿の幼い陰茎を揉みしだく。 「……っ、!」 確かに、副会長である椿にとってそんな噂は避けたいところである。 しかし名誉を守って誇りを捨てるのも馬鹿らしい話だ。何より、恋人以外に体を許したくなかった。 「…会長」 電車のどこかにいるであろう安形を思い浮かべる。 しかし葛藤も空しく、結局慣れない電車で痴漢にされるがままになった。 「っう、や…」 制服越しに揉まれるだけでは済まず、ズボンに手が入ってくる。椿のそこは恐怖で萎えていた。しかしそれを無理矢理起こすように、上下にしごいてくる。爪で亀頭を引っ掻きながら皮を引っ張られ、乱暴な愛撫だった。 「ぅぅ…」 鞄を抱えたまま、どうにか声が漏れないように再度両手で口を押さえる。頭を小さく振り、恥辱に耐え忍んだ。 しかし一向に反応しない陰茎に飽きたのか、痴漢は次の場所へと手を伸ばした。 「……んっ!?」 脇からぬっと手が侵入し、鞄の下の胸をまさぐる。何も有りはしないそこを両方の手のひらで揉まれた。 「ひっ…あ、」 濡れて冷えたシャツの上から、男の汗ばんだ熱い手は不愉快極まりなかった。短い指が食い込みそうなくらい強い力だ。 痴漢は平たいそこを弄んだ後、見つけ出した胸の頂を指の腹で擦った。 「っう…ぃゃ…」 夏用の薄手のシャツの下で、それは反応を示した。ツン、とピンク色の小さいそこが自己主張する。脇の下で太い腕が楽しそうに動き、嫌悪で力が抜けていく。 しかし、今鞄をどかしたらきっと透けて見える。椿はなんとか鞄を持ち直した。だが痴漢の手も一緒に押さえ込んでしまい、事態は益々八方塞がりになった。 「ゃ、ぁ………」 男は更に調子に乗り、胸への刺激を強めた。摘まみ、引っ掻く。下半身にしたように乱暴な愛撫だ。 しかし執拗に弄られていく内に、体は段々反応をし始めた。陰茎は期待で頭を掲げている。 心とは別に本能的に快楽を貪ろうとしているのだ。 この淫らな体は安形によって生み出され、彼の為だけに差し出すものだ。こんな通りすがりの痴漢を楽しませる為ではない。 椿は前屈みに体を曲げ、少しでも距離を置こうとした。しかし小さな尻に、硬くいきり立った物が押し付けられる。 「ひっ…!」 「気持ち良くなってるの?可愛いね」 ぐりぐりと腰ごと密着してくる。椿はおぞましさに毛が逆立つような思いになる。 例え恥を晒してでも声を上げ、誰かに助けを呼ぼうと決意した。 「やめ―、」 言いかけようとした時に、首に腕が周り引き寄せられる。方向からして痴漢の男ではないとわかった。 何より口元を覆う、爪の形まで端正な大きな手は、よく見知ったものだ。 「人のもんに手出してんじゃねーよ、このすっとこどっこい」 この混雑を掻き分けて辿り着いた安形は、少し息が上がっていた。 けれど椿から顔は見えないが、声は恐ろしい程に冷ややかだ。 「な、なんのことだ?」 男は慌てて身を引くが、勿論逃げ場所はない。 椿は初めて痴漢と直面した。歳は自分の父親くらいだが、背も低くなんとも貧相な男だった。こんな奴に好き勝手されていたのかと思うと、怒りが込み上げてくる。 「なんだじゃじゃねーだろ痴漢野郎が」 腹が立っているのは安形も同じだ。いや、むしろ被害を受けた本人以上だ。 小声で言い返しながらも、のこめかみに筋が入っている。 二人は周りに痴漢の事実がばれないよう、ぼそぼそと言い合った。しかし男の声は動揺で掠れていたが、安形の声はドスがきいて低く響いている。 仰々しいオーラに痴漢は圧倒されていた。 「お、俺がそんな事するわけないだろう!?それにそいつは男じゃないか!大体証拠もないのによくそんな出鱈目を…」 追い詰められた獲物の三文台詞だ。 小声で捲し立てる男の眼前に、安形は携帯を突き付けた。途端に向こうは顔面蒼白になり、唇まで紫色になっている。 「証拠ならあるぜ?あんたの下品な顔がばっちり写った写真がな」 男は息を飲み、くしゃくしゃに頭を掻いた。蛇に睨まれた蛙のように身を縮め、脂汗をかいている。 『〇〇駅―、〇〇駅に到着致しました』 ガタン、と電車が音を立てて止まる。扉が開き、人波は再び動き始めた。 安形はまた椿とはぐれないようにしっかりと抱き締める。 しかし流れに乗じて、痴漢は踵を返して走り去った。人混みを掻き分けて駅へ消えていく。 安形は目を凝らしながら舌打ちした。 「くそ!待て!」 椿は追い掛けようとする安形の腕を掴んだ。 「椿、なんで…」 「いいんです、放っておきましょう。あまり大事にしたくないし…それに、もし逆上して会長が怪我でもしたら……」 椿は顔を伏せた。安形は流れていく人混みを見送る。 少し悔しそうにしながらも携帯を閉じ、ポケットにしまった。 「…悪いな、助けるの遅れて」 安形がぽん、と頭に手を置く。椿はようやく弱々しいながらも笑みを浮かべた。 「…いいえ、助かりました」 二人も人に流され、いつの間にか通路の真ん中から扉の方に移動していた。 だからと言って窮屈さが変わる訳ではない。相変わらず互いに押し合ってひどい混雑だ。 「椿、こっち来い」 安形は椿を扉の前に促し、向かい合わせで立った。 「これで大丈夫だろ」 「…は、はい」 安形は扉に手をつき、自らの腕の中で椿を守った。逞しい胸板が壁になり、ラッシュから隔てる。 しかし電車がカーブに差し掛かり、傾く。抗えない重力に、乗客も同じ様に傾く。それは安形達の方向だった。流石に腕二本の支えで隙間を確保するのは難しい。 安形の腕が曲がり、体が密着する。椿は胸の中で息を吐いた。 「…ん?どうかしたのか?」 安形の体の下で、椿は半転して扉の方に向いていた。 「いえ、あの…ちょっと息苦しかったので…」 椿は頬を染めながら、鞄を下の方で持っていた。安形は不審そうにじろじろと見つめる。 思考が一巡りすると、安形はぴったり閉じている椿の足の間に、自分の左足を割り込ませた。真下から股間を押している。椿はビクンと体が上に跳ねた。 「ひっ……!」 「もしかしてお前、勃ってんの?」 「あ、あの…」 椿はもじもじと体をくねらせた。恥ずかしくて足を閉じたいがままならない。 安形は膝で緩く立ち上がった一物を容赦なく刺激した。 口元に少し冷たい笑みを刻んでいる。 「椿は知らないおっさんに触られても勃つの?」 「……ゃ、会長…」 否定したところで説得力はない。事実、椿は他人に触られても僅かながらも反応してしまったのだ。 言い返す事が出来ずにいると、安形は足での刺激をしたまま、椿の横腹を撫でた。慣れた手が服の上から擽る。 たったそれだけで、椿は力が抜けて鞄を床に落とした。痴漢の乱暴な愛撫とは違い、確実に急所を責めている。 椿は体が崩れないよう、扉にもたれ掛かった。窓に額が貼り付く。吐息でガラスが曇った。自分の紅潮した顔が映り、ここは電車なのだと再認識させられる。しかし安形はそんなことお構い無しに、手を休めようとしない。 「会長…ダメ、です…」 「ダメ?」 わざとらしく聞き返してくる。 安形は椿のベルトを外し、下着に手を突っ込んだ。 「すっげ、ぐしょぐしょじゃん」 「ひぅ……!」 椿は強い快感に肩をすくめた。 そこは雨や汗だけではなく、先走りによってべったりと濡れている。これは痴漢のせいではなく、安形の仕置きによるものだが、こんな場所で下着を汚す程に感じているのは確かだ。 椿は自分のものを握る手をなんとか外そうとした。 「会長、こんなところ見られたら…」 「誰も見てないって」 そんな馬鹿な、と言いたいが安形の言ってる事はあながち間違っていない。 電車の中で皆四方八方を向いているのに、誰一人視線を合わそうとしない。わざわざ背けてるのではなく、それが自然なのだ。 つまり椿の恥態は安形の腕の中でしか見物出来ないのだ。しかしいつ誰に気付かれてもおかしくない状況に変わりはない。 「…ん、やっ…」 椿は頭を嫌嫌と振る。 しかし恥辱に震える姿は安形を更に煽った。堅い手のひらで握り込み、先走りを使って上下に扱く。電車の車輪音に紛れながら、ぐちゅぐちゅと生々しい音が混ざる。 「……や!」 容赦ない責めに、椿は体を曲げながら達した。 陰茎が跳ね、安形は自分の手で精液を受け止めた。崩れ落ちそうになる体を、空いてる手で抱える。 椿は肩で息をし、ぐったりしていた。安形は耳に口を寄せて低く囁く。 「こんな場所でイくなんて変態だなあ、椿?」 「だって、会長が…」 涙目ではあはあと短く呼吸している。安形は愉快そうに薄く笑っていた。 白く汚れた自分の手を、椿の目の前に見せた。 「舐めろよ」 「え…」 椿は不安そうに眉を下げる。しかし安形はそんなことは気にも留めなかった。 「椿が汚したんだから椿が舐めろ」 更に突き付けられ、精液特有の匂いが鼻を掠める。 椿は目を閉じ、恐る恐る舌を伸ばした。小さいそれが手のひらを這う。一回や二回で舐めとれず、ペロペロと舌を動かす。まるで手からミルクを飲む子猫のようだが、そんな心暖まる様子ではない。 それははっきりといやらしく、卑猥な光景だ。 「こっちも」 安形は指を二本差し出した。そこも先まで濡れている。 椿は薄く目を開け、また閉じ、指先をちゅっと吸った。すぼめた口の中で舌が這っている。それは口淫を思い立たせるような仕草で、安形の自身も興奮を示した。 「椿、降りるぞ」 「…え?」 電車が再びガタンと音をたてて止まり、お馴染みのアナウンスが流れる。 ぼんやりしていた椿は慌ててベルトを閉め、鞄を拾った。雑踏が目の前を通り過ぎて行く。 安形は舐めさせて綺麗にした手で、椿の手を取った。 「か、会長?ここはまだ降りる駅じゃ…」 安形は椿の手を引いてぐんぐんと早足で駆けていく。椿はただ引かれるままに後をついていった。 人波を掻き分け、駅のホームへ入っていく。ここは丁度オフィス街と住宅街の間にある、閑散とした駅だった。 夕方のラッシュにも関わらず、電車から降りる人間もまた乗る人も少ない。そこは夕方の静寂に包まれていた。 慣れていない筈の駅を安形は迷わず進んでいく。椿は体が先程達したばかりで、歩くのも辛かった。 「会長、あの…どこに行くんですか……?」 安形は答えず、手洗い所に続く細い廊下へ入っていった。 人気の少ない駅のトイレだが、意外と手入れは行き届いて清潔だった。逆に使う人間が少ないからあまり汚れないのかもしれない。灰色のトイレは安っぽい芳香剤で満たされていた。 「あの…?」 安形は三室の内の一番奥に二人で無理矢理入り、ドア側に椿を押し付けた。椿は鞄を胸で抱えながら恐る恐る見上げる。 安形は真顔をずいっと近付けた。照明がついていない薄暗い部屋の中で、僅かに口角を上げる。そのまま忠告もなしに、口付けた。 「ん……!ふっ、う…」 安形のせっつくようなキスはすぐに深いものになった。 舌で唇をなぞられ、強引に口を割ってくる。怯えて引っ込む舌を捕らえ、引き寄せた。そして逃げないように歯を立てる。 「会長ぉ…」 椿は甘美なキスに目眩がした。開けっ放しにされた口からは唾液が垂れ流しになっている。それは汗ばんだ首にも伝い、余計に肌を濡らした。 安形はじっとりしたそこを舐め上げた。椿は後退ろうにも密室で、距離は変わらない。 「まさか…こんな場所で?」 「そう、ここで」 ニッと微笑む。椿は扉の鍵に手をこっそり伸ばしたが、それはあっさりと捕まってしまう。安形は二人分の鞄を、荷物を置くスペースに放り投げた。 「や……あ、」 椿の体を半転させ、再度ベルトを外す。 体を密着させ、まるでさっきの電車の中を再現しているようだ。 しかしここではズボンを足首まで落とされる。白くて細い太股が露になった。安形はそこを撫でながらシャツに手を入れ、つぅー、と背骨に指を這わす。椿は背中を仰け反らせた。 「んんっ…」 痴漢にされた嫌悪の身震いとは全く違う。もどかしく、状況をも忘れさせてしまう手つき。 椿は少し触れられただけで、快感の虜になっていた。 「ん…会、長」 下着まで下ろされ、椿の完全に勃ち上がった自身が飛び出す。安形が体を密着すると、扉にそれを当て付けるようになる。避けようとすると安形の腰が押し付けられた。 「椿、俺もあんまり我慢きかねえからちょっと無理矢理鳴らすな」 「無理矢理、って…?」 安形は後ろで屈んで膝立ちになった。椿の双丘を割り、入口のところにベロリと舌が這う。 「ひっ…あ、会長!?」 体が強張り、膝が折れそうになった。しかしなんとか踏ん張るが、安形の頭は一向に退かない。丹念に入口の付近から舐められ、乾いたそこを濡らしていった。 「会長…汚い…汚いですから、やめて…」 椿は背中を捻って安形の髪を掴む。しかし弱々しい力では抵抗にもならない。自分の下半身から、半分顔を覗かせている安形と目が合う。 恥ずかしすぎる光景に、椿は唇を結んだ。 「仕方ないだろ?今慣らすもの持ってないし」 「だからって…」 普段から体を重ねているが、どんなに慣れてもやはり挿入は慎重にしていた。 大体はその手のローションを使うが、唾液や精液を使う事も少なくはない。しかしそれも指で掬って慣らすが、今回はダイレクトに直接慣らしてるのだ。 椿は膝がガクガク震えた。 「っう、ぅぅっ、ゃぁ…」 舌は中に侵入してきた。決して指や陰茎より長くはないが、柔らかく濡れたそれはあっさり凌辱を許す。 ぴちゃぴちゃと水音が自分のそこからしていると思うと、椿は顔を背けた。抵抗していた手も引っ込め、拳を作る。唇を噛みながら耐えた。 「もう大丈夫かな」 十二分にほぐしたそこに、安形は指を三本差し入れた。普段なら慎重に一本ずつしているが、難なく受け入れた。 陰嚢の裏側をぐっと押され、快感がビリビリと体を走る。 安形は腰を上げ、自分もベルトを外した。カチャカチャと金属の音がして、いつも受け入れる安形のものを思い出す。椿はゾクリとした。 「会長…」 安形の硬い陰茎が犯してくる。圧迫感で腹は苦しいが、そこに痛みはない。慣れているその行為は、その先に予想される快楽に期待していた。 「んっ……」 安形は背中に張り付き、後ろから椿の陰茎を握った。 律動が始まり、中を抉る。唾液によって滑るそこを行き来した。 強い快感に力が抜けそうなのに、立ちながらの挿入は負担がかかる。椿は体を曲げ、伸ばした両腕を扉についた。安形はその細い腰を掴み、余裕の顔で見下ろしている。 「や、あ、んんっ、ぁっ!」 肌がぶつかり、体が揺さぶられる。抑えきれない矯声が漏れ、狭いトイレに響いた。 「っ……ん?」 突然安形に口元を覆われる。振り向くと、人差し指を唇に当てていた。それは沈黙を意味する。 耳を澄ますと、廊下の方から人の声が聞こえる。椿は緊張で息を飲んだ。 「ひどい雨だったなー」 「本当だよ。傘も折れるしさ」 ガチャ、とドアノブが回る音がする。若い二人の男だ。 自分達と同じように学生らしい。なんてことない世間話は学校や部活のことだ。 しかし彼等は用を足す為だけに訪れたのであって、決して密室に籠って体を重ねたりはしない。 「………」 体に陰茎を入れられたまま、ドア一枚で他人の傍にいるのかと思うと、椿は恐ろしくて鳥肌がたった。緊張で体に力が入り、無自覚でぎゅっと後ろが狭くなる。安形は椿の挙動を涼しい顔で見ていた。 「明日は晴れるかな?」 「天気予報では晴れるって言ってたけど」 外の二人は一室の異変にも気付く様子はなかった。椿は息を吐き、早く去るように願う。すると、なんの前触れもなしに安形は自分の一物をギリギリまで引き抜き、奥まで一気に突いた。 「………!!」 血が滲むくらい拳を握る。それで叫びそうになった声をどうにか押し殺した。 しかし張りつめた緊迫の糸が無惨に切られ、椿は射精してしまった。深く呼吸しながら朦朧とする意識を保つ。 「……っ、はっ」 椿はもう立っているのがやっとだった。陰茎を抜き、扉に凭れて安形を横目で伺う。彼は楽しそうに悪く笑い、椿の項にキスした。 「……っ」 再びドアノブが回る音がする。どうやら男達は去ったようだった。 椿は長くため息をつき、床に膝をついた。 「椿ー、俺まだいってないんだけど」 すっかり疲弊した椿に対して、安形はけろっとしている。後ろから抱き締めているが、椿は弱々しく頭を横に振った。 「会長…後ろからは、もう…嫌です」 「ん?」 安形は椿の脇を掴み、立ち上がらせた。二人で向かい合うようになる。 左足を持ち上げ、そこに体を割り込ませる。壁に凭れているとは言え椿はほとんど片足で立っている状態だ。 安形は椿を抱きながら首を傾げる。 「こっちの方が体勢辛くねえか?」 椿は首に腕を回し、目の前の胸に顔を埋めた。 「…こっちの方がいいです。後ろからだと痴漢の事思い出すから…会長の顔、見てたいんです」 胸の中で呟く声は、語尾にいくにつれ小さくなっていた。 外の雨はまだ止んでいない。 安形は目を細めて薄く微笑んだ。 「なんて?聞こえなかった」 「……もういいです」 椿の頭を抱き、口付けた。二人の体は雨と体液でぐしゃぐしゃになっている。本当ならすぐにでもシャワーを浴びたいところだ。 しかし憂鬱な雨も、鬱陶しい電車も、お互いがいれば緩やかな微睡みに浸れる。 二人の睦言は激しい雨音に消えていった。 7000hit Thanksあさひ様! |