ROCKETパロディ。 パペップ語やナネッヌ語ではわかりづらいので、皆様、ホンヤク・コニャックを飲んだと思って下さい。 アーガッタ×ツバーキですが、触手×ツバーキというグロテスクな表現もあります。苦手な方はご注意下さい。 幾千、幾億の生まれては消えていく星々。未知の謎に包まれるブラックホール。神話を語る流星群。 時は宇宙大航海時代。 遥かに広大で瞬く銀河を、皆がそれぞれの夢を見て船を出していた。 この宇宙で一旗上げ、後世に名を残そうと躍起になる連中も多い。そのほとんどが海賊という肩書きで航海を楽しんだ。 星と同じように、たくさんの海賊が生まれては消えていく。しかし空はいつもそれらに覆いつくされ絶えることはない。 名のある海賊達の頂点に君臨し続けたのは、キャプテンアーガッタという男だ。 彼は幾多の星を渡り、広い宇宙のどこでも何かしら伝説を残していた。 誰もが羨む財宝を探しあて一晩で酒代に使った、一国の王女に求婚されたが断った、何万という異星人相手に戦争を仕掛けた、と話は尽きない。 彼は富も名声も地位も欲しいままにしていた。 しかし退屈していた。もう宇宙を知りすぎたのだ。煌めく宝も絶世の美女も権力の座も、何にも興味がなくなっていた。 いっそ海賊団を解散して、若いながらに余生を静かに過ごそうかとも考えていた矢先だ。 「王子様の為に海賊のフリをしろって?」 「そうだよ。パペップ星の国王から依頼でね」 戦艦の中、司令塔の椅子に気だるく腰掛けていた。臣下のミチルが操作ボタンを押すと、ホログラフィーが目の前に映る。 城の画面と間抜けな王様の顔が再生された。 「ご機嫌よう、キャプテンアーガッタ。実は折り入って頼みがあるんだ。海賊の振りをね、して欲しいんだよ。 私の星では子供は王位につく前に試練を受けて貰う。試練の内容はその時々だか、今回は『海賊に制圧された城をいかに対処するか』というものだ。勿論本人は知らない。そしてばれてはいけないから、有名な海賊の君に依頼したんだ。謝礼はするよ。もし興味があるなら返事をくれないか。詳しいことは承諾した後に話そう」 画面が消えた。 パペップ星は小さいが豊かな国だ。わざわざ金を払ってまで制圧の真似事なんて、平和ボケが窺える。アーガッタは頭を掻いた。 「海賊のトップに海賊のフリなんて面白い話だと思わない?」 「うーん…」 正直面倒くさかったが、断る理由もない。 暇を持て余しているのをミチルも見抜いたのだろう。アーガッタは渋々引き受けた。 「おお、ようこそお出でくださいました」 後日、何度かやり取りをして城を訪れた。 国民はどこか浮世離れしていて、おっとりしていた。その中でアーガッタの一行は否応なしに目立つ。 「王子はお話した通り、留学中ですの。今から船に通信を繋ぎますわ」 案内された部屋では、これまたおっとりした姫が待っていた。 モニター一面が場所を取る広い部屋には、王と姫しかいない。秘密裏に進める為に小人数しか知らないらしい。 「んじゃ、始めるか」 今日が王子とのファーストコンタクトだ。事前の資料には目を通さなかったので顔も知らない。 ミチルには面倒くさがるなと小言を言われたが、下手に先入観を持ちたくなかったのだ。 「繋がらねえぞ、これ」 「いないようですね。星にも降りてないし…近くにいないか確認してみますわ」 通信エリアが拡大され、反応が出る。 ピーピーと機械音が響いた。 「どうやら別の船にいるみたいですわ。すぐに繋がります」 「おお」 ザザッ…と荒れていた画面が鮮明になる。咳払いをし、表情を作ってモニターを見た。 「カッカッカッ。オレは宇宙海賊、キャプテンアーガッタだ」 画面に王子が映る。相手は思ってた以上に小柄な男だった。こんな奴が海賊相手に立ち向かえるのだろうか。しかしアーガッタは話続ける内にそのイメージを覆された。 「待っていろアーガッタ!ボクはこの船ですぐに戻る!要求にも全て応じよう!だから彼女には…いや国民には指一本触れないと誓え」 彼はその外見に反して、熱い正義を持っていた。精悍な顔立ちに、瞳に宿る炎。 アーガッタはツバーキに興味を持った。彼は一体どうやってこの問題を解決していくのか。久々に心が踊るのを感じた。 「いい目だ。気にいったぜ。それならお前の帰りを大人しく待っている事を誓おう」 この会話を最後にして通信を切った。 しかしツバーキは一向に来なかった。 こっそり調査をしてみたが、どうやら拾って貰った船がかなりの旧型らしい。計算したところ、来るには一年以上かかるようだ。 よっぽど迎えに行こうかと考えたくらいだが、そういう訳にもいかない。 『待っていろアーガッタ!ボクはこの船ですぐに戻る!』 以前の通信映像を再生する。アーガッタは一人で何度もこれを見ていた。 彼の本来の性格なら、一年もかかるならもうとっくに帰っているだろう。そうしなかったのはツバーキが心残りだったからだ。 「ツバーキ王子か…」 長い間待たされる苛立ちと、画面の彼が混ざり、それはいつしか歪んだ思考をもたらした。 海賊の彼が大人しくじっとしているだけで済む筈がない。 あの汚れない温室育ちの王子を無茶苦茶にしてしまいたい。泣き叫び、許しを乞う姿を見たい。そしていつか自分に服従させたい。 鬱積した思いを持て余し、ただ日々が過ぎるのを待った。 そして一年と数ヶ月が経った。 「アーガッタ、王子達が到着したみたいだ」 「おお、待ちわびたぜ。通せ」 マントを翻して振り返る。最早住み慣れた部屋を出て、二人は謁見の間に向かった。 アーガッタは最奥にある玉座にどっかりと座り込んだ。直属の臣下であるミチルとデイジーが彼を挟んで立つ。中央の真っ赤な絨毯を沿うように、何百人の部下が並んでいた。王族や騎士達は、作戦が終わる迄それぞれの自室で待つように頼んでいる。 誰がどう見てもこの城は最早アーガッタのものだ。 足を組み、頬杖をつきながら遠くにある正面の扉を見つめる。それは重々しく開かれた。 「来たか」 アーガッタは薄い笑みを浮かべた。 ツバーキはこちらを見据え、迷いなくまっすぐと、しかしゆっくりと向かってきた。歩き方一つで彼の王族ならではの気品が伺える。 冷静ながら怒りを滲ませる、力強い眼光。 後ろにロケット団という仲間を引き連れていたが、大した問題ではない。三人もツバーキと同様にこちらを威嚇しながら歩いているが、それは所詮雑種の安い怒りだ。 彼等は玉座の階段下で立ち止まり、こちらを見上げる。 アーガッタはツバーキだけに視線を合わした。 「ご機嫌よう、プリンスツバーキ。長旅ご苦労だったな」 「無駄な挨拶は抜きにしよう、キャプテンアーガッタ。用件に入らせて貰う」 眉を寄せて軽蔑を隠そうともしない。怯むことのない強気な態度。アーガッタは益々王子を気に入った。 「そう急かすなよ。こっちは来る日も来る日もお前をずっと待っていたんだ」 「それは申し訳なく思う。貴方にではなく、姫と国民にだ」 ツバーキは付け入る隙を与えないよう、早口で話し始めた。 「アーガッタ、目的はこの国の財宝だろう?皆を無事に返してくれるならこちらは争うつもりはない。宝庫の鍵なら渡す。だから今すぐに解放してくれ」 金細工の複雑な形をした鍵を、躊躇いもせず差し出した。その鍵一本でも相当な価値があるだろう。本物輝きを放っている。 アーガッタはそれをつまらない物のように見た。本来ならここで鍵を受け取って退散する予定だ。しかし彼の中でそんな作戦はとっくに塗り替えられていた。 「アーガッタ、それじゃあ宝庫に行こうか」 「まあ待てよ」 立ち上がり、横にいたミチルを制した。コツ、コツと踵の音を立てて階段を降りる。荘厳の広間にそれは静かに響いた。 ツバーキの前に立つ。何億光年と隔てた距離はやっとゼロになったのだ。アーガッタは気分が高揚するのを感じた。 「ツバーキ。財宝もいいが俺の余興に付き合ってくれよ」 「余興?何を企んでいるか知らないがそんな暇はない。早く皆を………」 「解放して欲しいんだろ?なら俺に付き合え。でないと目の前で一人ずつ国民の首をはねてやる」 アーガッタは低い声で凄んだ。有無を言わさない物言いにツバーキは押し黙る。鍵を握る拳に爪を食い込ませ、悔しそうに見返していた。 「…わかった」 「物分かりのいい王子で何よりだ」 アーガッタはツバーキを通り過ぎ、絨毯の先へ向かう。臣下達は黙って見守っていたが、ロケット団の三人が立ちはだかった。 銃を構えて睨み付けている。アーガッタは顔をしかめた。 「……なんだお前ら」 『ツバーキは大人しく財宝を渡すと言っている。だからさっさと解放しろ』 「そうや。あんたみたいな奴、信用出来るか」 「……へえ。信用が得られないなら、どうするんだ?」 アーガッタは小馬鹿にしたように口元を歪めた。 「俺達が相手になるぜ!」 リーダーのボッスンが、こめかみに銃を突きつけた。 しかしアーガッタは慌てるどころか瞳は冷めていた。 子供が三人、旧型の銃を向けたところでなんの驚異にもならない。 馬鹿馬鹿しくすら感じる。何百という宇宙パトロールの戦艦を相手に打ち負かした男だ。 鬱陶しそうに舌打ちをした。 「こいつらを引っ捕らえろ」 静かな一声で、部下は一斉に飛び出した。四方八方から体格のいい海賊に乱暴に押さえつけられる。ロケット団の三人はあっという間に武器を取り上げられ、身動きのとれないように床に叩き付けられた。 「いったあ!何すんねんボケ!」 「離せよくそ!」 ツバーキは駆け寄ろうとしたが、数人の海賊がそれを阻んだ。 「アーガッタ!彼等は関係ない!やめてくれ!!」 背中に向かって叫ぶと、ゆっくり振り向いた。 「死なせたくないなら俺についてこい」 歩みを進めると皆が道を開けた。ツバーキは黙ってその後をついていく。 「ツバーキ!行くな!!」 ボッスンが床に頭を押さえられたまま叫んだ。ツバーキは小さく首を振った。 「すまない…必ず後で助けにくる」 ロケット団は口々に呼び止めたが、分厚い扉が彼等を隔てる。そこは来た時とは違い、不吉な予感を忍ばせていた。 広間を出て、城の中心部に向かう。螺旋階段を下り、二人は地下牢に来ていた。勝手知ったるその歩みに、ツバーキは怪訝そうに後ろから見つめる。 「…こんな場所で何をするつもりなんだ」 ここはツバーキですらあまり来た事がない。 地下は罪人や侵入者を捕らえる牢屋が並んでいる。平和なパペップ星ではほとんど使われることがない部屋だ。あちこちの壁は崩れ、光が差し込まないのでカビ臭い。鼠が床を這い、天井は蜘蛛が巣食っている。重苦しい陰鬱な空気で包まれていた。 「カッカッカッ。まあすぐにわかるって」 アーガッタは一番奥の牢屋へ誘った。ギイ、と鉄柵が錆びた音を響かせる。 壁に掛かった燭台に、携帯していた油で火をつけた。暗い部屋はオレンジ色に照らされ、濃い影を落とす。揺れる炎が輪郭を歪めて映した。 「ツバーキ。俺は宇宙の色んなところに行ってきた。戦争をしている国、妙な異星人が住んでいる星、目を疑いたくなるような財宝だって見てきた」 アーガッタは壁にもたれ掛かり、遠い目で話し始めた。ツバーキは距離を取りながらも耳を傾ける。 「どこもそれなりに面白かったが、もう飽きたんだよ。今更こんな小さな国のちっぽけな宝なんて興味ないんだ」 「じゃあ何が目的なんだ!」 ツバーキが声を荒げた。 アーガッタは腕を取り、王子を乱暴に壁に押し付ける。頭を打ち、憎しみで燃える瞳が揺らぐ。 そのまま口付けした。 「っ………!!」 突然の出来事で口は半開きになっていた。ぬるりと舌を差し込もうとしたが、歯を立てられる。 アーガッタは血の出た舌を引っ込め、相手の唇を舐めた。ツバーキはぎゅっと口を結ぶ。 「…何をする」 顔を背けて侮蔑の目だけを向けてくる。拘束され明らかに不利なのに、彼はあくまでも王子としての立場を崩そうとしない。アーガッタは尖った耳に口を寄せた。 「俺が欲しいのはお前だ」 ツバーキの顔が赤くなる。箱入り王子でもその手の知識はあるらしい。 ぐっと腕を押し返そうとしてきたが、アーガッタはそれを許さなかった。どちらも力は緩めない。 「誰が貴様なんかと……!」 ツバーキは膝蹴りをしようとしたが、アーガッタは押さえ込んだ手を離して避ける。ぐらりとよろける彼の頬を容赦なく叩いた。ツバーキは床に尻餅をついて倒れる。 「いっ……!」 「あんまり逆らうな。こちとら一年も待たされて苛ついてんだよ」 馬乗りになり、右手でツバーキの首を絞めた。手袋の下で小さな喉仏が上下する。指はめり込み、気道が狭まった。 「う……ぁっ」 呼吸が出来なくなり、ツバーキは涙を溢した。絞める手を掴んだり引っ掻くが、それも弱くなっていく。体が小さくカタカタ震えていた。 「おっと、殺したら駄目だな」 アーガッタは手を離した。 「かっ……は、」 数分呼吸を止められて、力なく横たわる。口の端から唾液を溢し、不器用に酸素を吸っていた。 アーガッタは腰に下げていた短剣を抜く。カチン、と高い金属の音がした。剣の身に、後ろで燃え盛る松明が映る。 「ツバーキ。俺はお前の了承を得るつもりなんてないんだ。海賊だからな」 白の裾が長い国衣を裂く。下は薄手のシャツ一枚と下着だけで、細い足が剥き出しになった。 「奪うにかぎる」 顔を覗くと逆光で暗くなる。灰暗い表情は愉悦で歪んでいた。ツバーキはぞっとして背筋が凍る。抵抗を試みたが、未だに力が入らない。 「やめろ…!」 アーガッタは腰を少し浮かし、下着を剥ぎ取った後、短剣と一緒に床に捨てた。 ツバーキの膝裏を掴み、大きく開かせる。秘部は丸見えになり、手で隠すにも追い付かない。アーガッタは右足を自分の肩に乗せ、入れる場所を確認した。 「狭いな」 指で広げてピンク色のそこをまじまじと見た。ツバーキは余りの恥ずかしさに死にたくなる。 アーガッタは、祖反り立つ自身を取り出した。黒衣からぬっと顔を出すそれに、ツバーキは腰を引く。しかし逃げる前に穴に亀頭が食い込んだ。 「ひっ……」 ピリピリとそこが裂ける。陰茎を左右に動かし、無理矢理腰を進めた。ぐぐぐ、っと侵入を拒むそこを犯す。 「いや…痛い、っうあ!」 自身が一旦全部収まると、何度か抜き差しを繰り返す。 裂けて流れる入口の血が絡み、それが滑るのを手伝った。しかし狭いそこはアーガッタの物を押し返そうとしている。 「もっと力抜けよ。動けねーだろ」 「無理…やめて」 「無理」 アーガッタは腰を掴み、無茶な挿入を始めた。ぐちゅぐちゅと出入りする。 ツバーキは連続する痛みに背中が仰け反った。 「い、痛いっ痛い!やだ!」 「もっと色っぽい声出せよな」 「誰が…そんな……」 「啼けねえなら泣いてろ」 抉るように突く。ツバーキは奥まで犯され、涙が溢れた。体の痛みだけではない。自尊心も踏みつけられたのだ。せめて自分の顔を見られないように両手で隠した。 「っう、ううっ」 彼を表すような白い服は裂かれて血で染まっている。ツバーキが咽び泣くとアーガッタの自身は益々興奮していった。 入れたまま角度が上がり、中で自己主張する。ツバーキはその感覚が理解出来ず、ただおぞましかった。 「もう…やだ、抜いて……」 アーガッタの律動は長かった。ずっと入れられている内に、そこはスムーズな抜き差しが出来るようになっている。しかしツバーキの負担が減る事はない。彼は痛みに耐えてじっとしていた。 「終わらせたかったらお前も動けよ」 「………っ、」 冷たい床の上で行為をしていたのに、いつの間にか汗ばんでいる。下半身も血液でどろどろだった。不快感と恐怖で頭は混乱し、ツバーキは腕の隙間から天井を見た。燭台の炎に照されて影が張り付いている。ゆらゆらと動くそれが自分を犯していると考えると、妙に非現実的なような気もした。 「なにぼけっとしてんだ。出すぞ」 アーガッタは顔色一つ変えずに中へ射精した。不快な熱が現実を実感させる。 「っう…はぁ……」 ツバーキの胸が荒い呼吸で上下する。満身創痍でぐったりとしていた。 「お前は俺のものになるんだ。これから一生な」 アーガッタは顎を捉え、口付けしようとする。しかしツバーキは顔を背けた。その先に、さっきの短剣が視界に映る。それは試すようにこちらに切っ先を向けていた。 ツバーキは手を伸ばし、アーガッタの一瞬の隙を狙う。体を起こして相手の顔を切りつけた。 「…っ!」 紙一重でかわしたが、眼帯がヒラリと落ちる。アーガッタの右目は顔の傷と同様に、縦に切れ目があった。 「見たな…」 アーガッタは剣を持つ手を掴み、床に叩き付けた。カン、と跳ねて飛んでいく。 ツバーキは肩を打ち、再び身動きが取れなくなる。悔しそうに睨んでいた。 「くそっ……!」 「いい度胸だ。益々服従させたくなる」 アーガッタの一つだけしかない目が鈍く光る。ぎり…と腕を掴む力を強くした。 彼は自分の興味のないことには、ひどい程に無頓着だ。しかし一旦惹かれると、陰湿で粘着質な部分が出てくる。それは今ツバーキだけに注がれていた。 「なあ、王子」 本来ならありとあらゆる手を使い、自分に支配され堕ちていく様を見届けたいところだ。しかし彼は待ちくたびれてしまった。 元々面倒くさい事を厭う性格だ。一々手順を踏んでいられない。早く自分のものにしてしまいたい。 その為には乱暴な手段を取るしかなかった。 アーガッタは王子を拘束したまま、空いてる手で懐からボール型のカプセルを出した。 「さっき俺が話したこと覚えてるか?」 「は……?」 カプセルの真ん中のボタンを押すと、幾筋の光が漏れてふわりと浮かんだ。ヒュン、と牢屋の奥まで飛び、閃光を放つ。 「なにっ…」 余りの眩しさに目を瞑る。光は数秒もすると治まった。 そっと瞼を上げると、そこには目を覆いたくなるような怪物が佇んでいた。ビクン、と恐怖で体が固まる。 「これは…」 その怪物は天井に届くほど大きく、ゆうに五メートルはあるのに肝心の頭がない。全身が蛸のような触手で形成されていて、それが大小長短様々に何十本にもなっている。 色はくすんだ紫色で、ぬらぬらした粘液で覆われていた。それはただ地面を這ってこちらを伺っている。 ツバーキはこんな生き物を見たことがなかった。背筋に冷たい汗が流れる。 「なんなんだ、この生物は…」 「言っただろ?宇宙の色んなところに行ったって。妙な異星人が住んでいる星もあったって。そいつはペット用に一匹持って帰ってきたんだ」 「ペット…?」 愛玩動物と呼ぶには程遠い外見だ。醜い異形に眉をひそめる。 「…こんなものを出してどうするんだ?兵器用の生物か?」 「兵器?」 ツバーキの言葉にアーガッタは吹き出した。何がおかしいのかと欺瞞に見つめる。 「残念ながらこいつにそんな威力はねえよ。剣で触手切れば出血多量で死ぬ。銃を何発か撃ち込んでもやっぱり死ぬ」 アーガッタはツバーキから退き、扉の前に立った。ツバーキ一人で怪物と対面する形になる。 部屋は生き物の気配で充満しているのに、静かだった。松明が燃えてパチパチと音を立てている。怪物が増えたせいで牢屋に落ちる影が大きくなり、暗くなっていた。 「兵器にはならねえが…丸腰の奴相手一人ならこいつで十分だ」 まるでアーガッタの声に反応したように、ぬるりと触手が一本向かってくる。ツバーキは嫌な予感がした。 立ち上がって扉の方へ走る。しかしアーガッタの一歩手前で足を掴まれ、前のめりに倒れた。 「…!やめろ!アーガッタ、これを戻せ!!」 「やなこった」 アーガッタは腕を組んで見下ろしていた。暗い瞳には慈悲の欠片も見えない。 「一時間やる。その間にもう一度俺の物になるかどうか、そいつと考えるんだな」 ツバーキは咄嗟に手を伸ばしたが、マントによって払われた。目の前で扉を閉め、一瞥して去っていく。足音はどんどん遠退いていった。 「そんな…」 振り向くと、改めてその形に絶望した。呼吸の器官はなさそうなのに、じっとりした空気で包まれている。声だって出ない筈なのに、不気味な耳鳴りがした。 足を掴む触手がずるりと引き寄せる。 「ひぃ……!嫌だぁっ!!」 悲痛な叫び声が地下牢に響く。アーガッタは既に地下に降りる入口に立っていた。声を聞き届け、部屋へ戻った。 「くそっ!離せ愚か者!」 感情を持たない怪物相手にいくら罵倒しても無駄だった。 どうにか踏ん張ろうと床を引っ掻く。しかし爪が割れるだけだった。 まるで痺れを切らしたように、ぐん、と凄い力で足を引っ張られる。体が宙に浮き、逆さ吊りにされた。 「ぐっ……う!」 突然頭に血が下りてくらくらした。服が顔にかかり、下半身は丸見えになっている。 まるで人形遊びされている人形だ。 「降ろせ!くそ!」 届く筈もない手を振り上げ、片足で空中を蹴る。しかしどれも徒労に終わった。怪物はなんのダメージも受けていない。 触手を新たに二本伸ばし、ツバーキの腕を拘束した。僅かに出来る動きさえ許されなくなった。 「っく…!気持ち悪い…」 粘液は相当ぬるついていて滑りそうなのに、腕を離さない。ぎちぎちと肉に食い込み自由を奪う。振り払おうとしたが、強い力で引っ張られ肩が震えた。 「この化物……!んっ!?」 刺すような視線を放つ。しかしまた一本、触手は口を狙ってきた。目一杯開かれた口腔内で右往左往する。生臭く、鼻から匂いが抜けて吐き気がした。 「うっ……うう」 喉までゆっくり這いずり、奥を目指そうとしている。無感情のそれが自分の体を中から貫くのではないかと、考えると恐ろしくなった。 しかし口は閉まらない。どうにか抵抗しようと歯を立てた。すると触手は口の中で跳ねて、覆われた粘液とは違う体液を噴き出した。 「っう、ん!」 それは粘液よりさらさらしていて、喉に直接注がれる。逆さ吊りにされているので弱冠胸につかえたが、腹まで流れた。 こんな生物でも痛みを感じたのだろうか、ずるりと口から退く。体液が顔を伝い、目に入るが拭うことも出来ない。ぎゅっと閉じた。 「ん……はっ、何…」 ツバーキは突然体に強い疼きを感じた。全身の五感が研ぎ澄まされ、周囲に起こりうる全ての事象を感じ取ろうとしている。ブルブルと震え、毛穴が開いて脂汗が流れた。 「やっ…なんで……」 体温が上がるのに、寒気がした。力が入らなくなり、がっくりと項垂れる。触手はその体をぐい、と持ち上げ直した。 気だるいのに下半身は反応している。倦怠感と昂りという相反した矛盾が渦巻いた。 「まさか…さっき飲んだのが……?」 冷静な思考も思いならぬまま、触手は今までと比べ物にならない数で襲ってきた。 元々裂かれてボロ布と化した服を更に引きちぎる。ツバーキは純白の国衣から白濁の汁を纏った。 「い、や!」 胸の周りをまとわりつかれる。ここを這う奴は先端の形が少し違っていて、生き物ように口があった。まるで歯の生えた亀の頭だ。 双頭は胸の頂きに吸い付いた。 「ひぃ!」 歯を立てられ、食い千切りそうな勢いで噛まれる。しかしこれだけで済む訳がない。 陰茎に巻き付くものまでいる。搾り上げるように締め付けながら上下にしごいていた。 「うぁ…や、っあ」 それもまた違った形をしていた。触手の先端から更に細い触手が出ている。それは陰茎への刺激をしながら尿道口に侵入した。 「っ、いっ―――あ!!」 湧き出る排尿の泉を破壊されるような刺激。激しい痛みの芯は、快楽が一筋糸を張っていた。 「ああっ、嫌だ…嫌だあ……!」 ガクガクと内側から崩壊していく。 複数からくる責め苦にツバーキは抗う術を持たなかった。ただ与えられる全ての感覚を受け入れるしかない。 足に巻き付いた触手が無理矢理股を開かせた。先程アーガッタが犯した付近に這いよってくる。ぬるぬると臀部を濡らし、楽しんでいるようにも感じた。穴をツンツン、と軽く突かれる。 「駄目…そこは…」 この生物に躊躇いは勿論ない。ずぶ、と生々しい音をたててそこを一気に蹂躙した。 「う、っあ!」 元から纏う粘液で、思いの外簡単に出入りした。しかし逆さに吊られているせいで圧迫感はさっきよりひどい。 内臓は熱く、押し潰されるようだった。 「は……あ、あ…いや…っう」 穿つように内壁を押される。体液のせいか、アーガッタにやられた時にはなかった熱い痺れがあった。 「あ!」 縦横無尽に動き回っていたそれがある一点を突く。ツバーキはビクンと大きく痙攣した。 「あ…っあ、嫌…」 意思を持っていない筈の触手は、察したようにそこだけを犯し始めた。体内を行き来し、貪る。ツバーキは快感の波に拐われ、渦の中に飲み込まれていった。 「あ、っあ―――!!」 ツバーキは射精した。何度かに分けて、びゅくびゅくと精子を飛ばす。逆さ吊りにされていたので、自分のそれを顔に受けた。 紅潮した顔が白い淫汁でべったりしていた。憔悴しながら王子は恍惚を見出だしている。 「はあ…あっ…」 燃えて短くなった松明が、カタンと燭台から落ちる。火はまだ燃え盛り、宴の始まりを楽しんでいた。 「アーガッタ、眼帯は?」 「王子にやられてよー取れたんだわ」 「ふーん…で、その王子はどうしたの?」 ミチルが訝しげにため息をついた。彼も品はいいが、結局はアーガッタが率いる海賊だ。それとなく察しはついているらしい。やれやれと手を上げた。 「今から迎えに行くところだ」 アーガッタは腰を上げ、上機嫌なのを悟られないように扉に手をかけた。しかしミチルだけは、彼の口角が上がっていたのに気付く。 「あの王子様可愛かったのになあ……残念」 そう言いながらもミチルは嬉しそうだった。 世界に対して無気力になっていた彼が、何かに興味を持ったのだ。宝物よりよっぽどの収穫だ。ミチルは一人ほくそ笑んだ。 暗い螺旋廊下の先で、灯りが揺れている。炎は人口的な照明とは違い、まるで生き物のようだ。 時に燃え上がり、時に音もなく消える。アーガッタは暗闇の森を、小さな兎を当てにして追いかけているような気分になった。しかしここは自然の中ではない、城の地下牢だ。 葉のすれる音の代わりに、呻く男の声が聞こえた。 「王子、気分はどうだ?」 一時間してまみえたツバーキは、見るも無惨な姿だった。触手に四肢の自由を奪われ、穴という穴を出入りされている。それに泣き叫ぶわけでもなく、眼窩は暗く落ち窪んでいた。 「っう…」 アーガッタは一人と一体の前に立った。触手は口のものだけを引き抜き、主人の近くに降ろした。 「もう嫌だろ?選べよ。死ぬまでこいつに犯されるか、俺の奴隷になるか」 選択肢などあってないようなものだ。ツバーキは口を開くが、うまく声が出ないらしい。掠れながら唾を何度か飲み込み、ようやく搾りだした。 「助けて…」 アーガッタは再びカプセルを取り出した。ボタンを押すと、どういう原理か怪物は小さなそれに収まる。それを床に捨て、足で踏み潰した。ぐちゃ、と濁った汁が飛び散る。ツバーキは床に崩れ落ちた。ビクビクと体を震わせ、息絶えようとする羽虫のようだ。 アーガッタは彼の頭の触覚を掴み、自分の方へと顔を上げさせた。 「奴隷の忠誠を誓えよ。ツバーキ」 自分の陰茎を突き付ける。ツバーキは最早畏怖することなく、感情のない瞳で覗き込んだ。 「はい、アーガッタ様…」 そっと手を添え、口付ける。アーガッタは満足そうに微笑んだ。 |