盗人パロディキリ椿。 キリが椿を縛ったりしています。 現代から数百年前に遡り、時は江戸時代。 平和に治められた世の中に見せかけているが、実際は権力者による泥臭い政治や戦争の絶え間ない時代であった。 腹黒い彼等が生きる為には、裏で動く優秀な人材を必要としていた。 町中から離れた山の麓には、ひっそりと暮らす小さな人里がある。 そこは忍が忍を生み、育てる、忍者達の村だ。 物心がつく頃には手裏剣や刀を手にし、子供らしい玩具で遊ぶことはない。休みなく毎日修行が行われ、十五になると一人前の忍として働く。彼等の生き方は身勝手な大人達によって決められ、死に方も想像しうる範囲の物であった。 自分の人生に疑問を持つような子供はいなかった。それは抗いようのない運命であり、使命なのだ。 子供達は皆幼い頃からそのように教育されていた。 「キリ、精は出ているか」 「はい父上」 加藤希里、七歳。 彼は一族の中でも取分優秀で将来を期待されていた。 今も三十間程先にある的に向かって、手裏剣投げをしていた。人の顔くらいしかない小さな丸的の中心に、全て当たっている。父親が満足そうに微笑んだ。 「その調子で頑張るのだぞ、キリ」 そう言うと音もなく姿が消える。 キリは遠くまで広がる、何もない平原を見つめた。風が吹き、ざあっと背の高い草葉が揺れた。春の陽気が心地よい昼下がりだが、修行には関係なかった。 「もう少し続けよう」 獲物を持ち直して身構える。すると、的の周辺をヒラヒラと一匹の蝶が舞った。 黒い揚羽蝶だ。 ここら辺には蜜を吸う為の花もないのに珍しい。 暫く待ったが、蝶はそこから離れず飛んでいる。キリは段々苛立ち始めた。 「…邪魔だな」 蝶が的の真ん中を通った。キリのこめかみがピクリと動き、反射的に手裏剣を投げる。 カン、と先程と変わらない音が響く。それは蝶の腹を射て刺さっていた。 「…あ」 思わず我に返る。 自分は日々人殺しの訓練をしているが、だからこそ無益な殺生はするなと堅く言われている。 こんな所を誰かに見られてはいけない、キリは駆け寄った。 蝶はさっきまで優雅に空を舞っていた羽をピクピクとさせていた。的の真ん中で、黒い揚羽蝶は今まさに息絶えようとしているのだ。 キリは息を呑んだ。 「………綺麗だ」 今まで何度も蝶くらい見ている。空を飛ぶそれを美しいだなんて思った事はない。 美しいと思うのは、的に射られて身動きの出来ない、それが自分の手によって侵された蝶の事だ。 キリは暫く身動ぎもせずそれを見ていた。彼が自分から何かに関心を持つのはこれが初めての事になる。 普段から修行に明け暮れ、娯楽の類いは一切遮断されているのだ。忍で役立つ事柄以外は彼には関係がない。年頃の男の子が持つ遊び心、好奇心、悪戯心などのそう言った感情は全て切り捨てている。それは彼を立派な忍に育てる一因になるが、同時に歪んだ性癖を生み出した。穏やかな昼下がりが、静寂な夕暮れに変わる。 キリは手裏剣を外し、両掌に蝶を乗せて花のある場所まで連れていった。浅く穴を掘って埋め、何もなかったように家路につく。 それからキリは磔にされた蝶を見たいという想いに何度も駆られたが、後にも先にも蝶を殺したのは、この一度だけだった。 「キリよ、お前が仕える城主が隣国と戦争を始めるらしい」 「はい」 あの日から十年、キリは立派な忍に成長していた。曾祖父から仕え続けた城で今は働いている。 二年間で為し遂げた彼の功績は幾多にも登っていた。 「しかしな、これは戦争という名の一方的な搾取だ。敵は余りにも巨大過ぎる」 今夜は久しぶりに生まれ育った里に戻っていた。齢百近くになる一族の長に呼び出されたのだ。 狭く暗い小屋で、蝋燭の灯りが揺れている。炎の先で長老が歪んで映った。 「我々の任務は戦争が始まる前に向こうに忍び込み、なるべく戦力を刈り取ること。まあ任務とは名ばかりで、人は自殺行為と呼ぶだろうな」 長老は嘲るように静かに口角を上げた。キリは鎖帷子に忍装束を着込み、口布に覆われた顔からは感情が読み取れない。 黙って次の言葉を待った。 「先祖代々仕えてきた城だが、今の殿は悲しいくらいに阿呆だ。しかし我等は忍、ただ己の仕事を遂行するだけよ」 長老は煙管を持ち、白い息を吹いた。 「キリ、お前は今回の作戦の一番槍になって貰う。これが最後の仕事になるだろう。自分は死地に立ち向かっていると思え」 「畏まりました」 膝まづいたまま頭を下げる。頭の上で煙管の煙が漂った。 突然投げ出された死の宣告は、キリの心に馴染まなかった。受け入れられないのではない。死はいつも隣り合わせで佇んでいる。今更死に対する恐怖は彼の脅威にはならないのだ。 「…それにしても」 長老は声を潜めた。張りつめた緊張感が幾分和らぐ。一族の長としてではなく、身内の一人として話し掛け始めた。 「お前はとても優秀な忍に育った。こんなことで失うのが本当に惜しい」 「しかし、俺以外に任務を遂行出来る人間はいないでしょう」 「ああ、そうだ。…せめてお前の血を継いだ子供がいればなあ。キリ、好きな女子はおらんのか?」 キリは瞬きするくらいの、本当に一瞬だけ黙った。 「いいえ、いません」 「…そうか」 長老は薄く笑い、煙管を置く。キリは表情を崩さないまま一礼した。 話が済むと、キリは城に戻っていた。普通の人間なら半日とかかるところだが、彼にとっては大した距離ではない。息一つ乱さず、無駄のない動きで走る。 今日は別に城での仕事はない。それでもわざわざ帰るのは目的があった。 会いたい人がいたからだ。 「…好きな女子、か」 先程長老に答えた返事は、嘘になる。キリには家族よりも心を許し、慕い、愛する人がいた。 しかし女子ではない。彼が愛したのは自分と同じ男だ。 町が見えてくる。キリの足は更に加速した。 「キリ、こんな遅くまで任務か?ご苦労だな」 火付盗賊改方、左腕の椿。彼は役人であるが、時々公務としてキリの仕える城にも見回りにくるのだ。 「いいえ、長老に呼び出されていただけです。椿殿こそ今日の公務は?」 「丁度今終わって帰ろうとしたところだ」 今日の見回り当番は彼だという事は事前に調べておいた。 キリは偶然を装ったのだ。 「俺も帰るところです。送ります」 「…いつも言っているが、僕は君の主君ではないのだから気を遣わなくていいんだぞ?」 腕を組ながらチラリと視線を向けてくる。キリは柔らかく微笑んだ。 椿はキリと一つ違いだが、彼も優秀な役人として名を馳せていた。 本来なら表と裏の人間である二人が隣り合わせになることはない。彼等が出会ったのは一年程前の春になる。 その日、キリが仕える城は夜襲にあった。人が出払っているところを狙われ、多勢に無勢。僅かな忍達は苦戦していた。 『お前が天才忍者の加藤希里か!』 『そうだ』 『かの有名な加藤の首、捕らせて貰おう!』 キリを倒し、名を上げようとする者も多かった。十人以上の手練れを相手にして劣勢を強いられる。四方八方から来る攻撃を交わすのに精一杯だった。 『貰った!』 後ろから声がしたが、前からも敵は向かっている。避けられない、と体を固くした。 『ぎゃあ!』 ズバッ、と肉が裂ける音がして、敵は崩れ落ちた。倒れた敵の向こうで一人の男が立っている。 キリの知らない顔だ。 『誰だ、お前…』 『火付盗賊改方、椿佐介』 刀を鈍く光らせながら答える。左腕の椿、名前を耳にした事はあるが会うのは初めてだ。若干十七にして武道と剣術の達人だとは聞いていた。 勝手に大男と予想していたが、実際の彼は小柄で女のようだ。 『君はこの城の忍か?』 『そうだが…』 『では仲間だ』 ニッ、と力強い笑みを浮かべた。 二人はお互いの背を預け、敵に向かう。初対面なのにどこか安心を覚えた。一人、また一人と薙ぎ倒していく。 『………はあ』 敵の殲滅に無事成功した。 キリは椿の方を見た。彼は満月を背景に、息を切らしながらも凛として立っていた。 『………!』 キリは十年前の、的に射た蝶の事を思い出した。椿はまるであの美しい蝶のようだった。 理由のわからない涙が一筋、頬を伝った。 「俺は貴方に命を助けられてここにいます。心は椿殿に仕えているのです」 「…好きにしろ」 椿は呆れながらも穏やかに笑っていた。二人は暗い夜道を静かに歩く。 「そういえば君のところの城が戦争をすると聞いたが、本当なのか?」 「はい。詳しい事は言えませんが」 「そうか。君も行くんだろう?気をつけろ、って忍に言うのも変な話だな」 椿の口調はいつもの世間話といった風だが、キリにとっては自分の死についての話題だ。 恋人でもなんでもない人に、死ぬだろうとわざわざ伝える義理はない。向こうも言われたところで困るのは目に見えている。下手な事は話せず黙ってしまった。 元々自分から話し掛ける性格の二人ではないので、自然と会話が途切れた。しかし居心地は悪くない。 椿は朧月を眺め、キリはそんな彼をこっそり盗み見した。 「家まで送って貰って悪いな。ありがとう」 「いいえ。それでは、さよなら」 きっと椿に会えるのはこれが最後になるだろう。キリは一人でその想いを噛み締めた。 「ああ、また今度な」 ふと見せた椿の笑顔は、キリの知らない未来を信じている。 胸が苦しくなり、どうしようもなくやるせない思いに駆られた。この美しい心の主君を、何度も抱きたいと夢にみた。 しかし叶うことは決してない。それでいいと思っていた。時々二人でこうして歩くだけで自分は幸せなのだ。しかしそれも叶わなくなるなら、キリは拳を強く握った。 「キリ…?」 椿の頬に手を添え、顔を覗き込む。頭一つ小さい彼が見上げる。無垢な瞳に情けない自分の顔が映った。 「……んっ!?」 キリは口布を下げ、二人の唇を重ねた。椿は眼前の端正な顔立ちを凝視する。目を瞑って自然と佇んでいた。視線の置き場がわからず、椿も目を閉じた。 「う、あ……キリっ…」 頬に添えた手で椿の下唇をなぞる。そこに親指を引っ掛け、口を開かせた。舌を差し込むが、椿はその小さな舌を引っ込めた。 「んぅ……」 逃げる舌を追い掛け、絡めとる。どうしていいかわからず開けっ放しにされた口から唾液が零れた。それはだらしなく顎を伝う。 「椿殿…」 カリ、と小さな音がした。じんわりと薬のような苦味が広がる。口に何か入ったのだろうか、椿はぼんやりした頭で考えた。しかし口はキリによって塞がれている。何か入るとしたらそこ以外に他ない。 「……あれ?」 突然手足が痺れ、全身の力が抜ける。四肢の感覚がなくなり、ガクンとキリの胸にもたれ掛かった。 「すみません椿殿。体に害はありませんが、即効性の痺れ薬です」 「なん、で…」 キリは奥歯に埋めていたそれを飲ませたのだ。返事をする間もなく、椿は気を失う。 彼を胸に抱き抱え、家の戸を開けた。 椿の両親は町医者をやっているが、今は家にいなかった。仕事熱心で普段から急患がいればすぐに駆け付けると聞いている。 多分今夜もそうだろう。戸を閉め、念のために心張棒をかました。 椿の家は普通より大きく、両親の部屋と椿の部屋、居間と三室あった。居間を挟んでそれぞれの自室という造りになっている。 彼の部屋は簡素なもので、窓際に机と本棚があるだけだ。壁には自分で書いたのか達筆な掛軸があった。 脇に置かれていた布団を敷き、椿を横たわらせた。 彼の意識は深い混濁の底に落ちている。薬は即効性な分、切れるのも早い。キリは急いで懐から麻縄を取り出した。 「椿殿、失礼します」 勿論返事はない。キリは三十尺程の縄を二つに折り、首にかけた。胸・腹で結び目を作り、陰茎を避けて股下に通し背中に回す。そこから結び目のところに縄を通して引っ張る。そうすると結び目は綺麗な菱形に開いた。 迅速で丁寧な亀甲縛りだ。 縄が固く食い込むのを確認すると、もう一本麻縄を取り出した。それで椿の両手を頭の上で結ぶ。残りの縄を持って天井の縁に上がり、ぐいっと思いっきり引っ張った。 「……っ!!いっ、なに…」 椿は腕を引っ張られ、体が持ち上がった。足が床にすれすれで届くくらいの高さで吊り上げられる。キリは残りの縄を縁にくくりつけて降りた。 「キリ、これはどういうことだ……?」 丁度薬も切れ、衝撃でさすがに目が覚めたようだ。自分の格好を見てぎょっとしていた。 「…椿殿」 「誰か他の奴に雇われたのか?僕は敵が多いからな…」 椿は自嘲の笑みを浮かべて困惑していた。キリの仕出かした事を、どうやら自分を厄介に思っている人間の依頼だと考えたらしい。キリは首を振った。 「いいえ、これは俺が個人的にしているだけです。貴方を裏切るような事は決して…」 椿の悲しそうな視線で居たたまれなくなる。キリは息を詰まらせた。 「貴方を裏切っているという意味なら、俺はずっと裏切り続けていました…」 「え…」 前に立ち、吊るされた細い体を抱き締めた。痛いくらいの抱擁に椿は苦しくなる。 「ずっとお慕いしていました…」 キリの声は消え入りそうに小さく、震えていた。 椿はキリのことは友人として好意を持っているが、そんな風に考えた事はない。女性経験すらまともにないのに、突然の同性の告白にただ困惑した。 「キリ…」 「許して欲しいなんて言いません。これは俺の我が侭です」 キリは体を離した。 泣きそうな顔で相手を見つめる。 「今宵の晩だけ…俺に付き合って下さい」 腰に下げていた手包みから、人差し指程の竹筒を取り出した。蓋を開けるとドロリとした蜜のようなものが垂れる。それを指で掬い、椿の唇に塗りつけた。 「舐めて下さい」 得体の知れないそれに躊躇していた。閉じられた口を押し、指に歯が当たる。 ぐっと歯列を持ち上げ、口内で指を這いずり動かす。舌にそれを押し付けた。 「…ん、甘い。蜂蜜のようだが…」 「味をつけた媚薬です」 「なっ……び、や!…?」 指を抜き、口から唾液の橋が出来た。床にポタリと落ちる。 「……っん!」 体がカアッと熱を持ち始めた。全身の体温が上がり、訳もわからず震える。 下腹部が疼き、太股を擦り合わすと縄がぎちぎちと音を立てた。 「キリっ……あの…」 「本来は自白に使う拷問用です。飲み薬だけではなく、塗り薬としても使えます」 キリはいたって冷静に、明後日の内容を答えた。 椿はそれが頭に入らず、苦悶の表情で短い呼吸を繰り返す。キリは再び蜜を掬い取り、空いている手で椿の襟元を開けた。縄の下で白い肌が露になる。 「っ、ん!あ、や…」 右胸の桃色にそれをたっぷり塗り付けた。ねっとりした粘液の中で、それはつん、と自己主張する。キリは指に残ったそれを舐め取った。彼は対毒の修行もしているので、こんなものは効かない。しかし自分も媚薬に浸けられたように興奮していた。 「あぁっ……!」 「媚薬効いているようですね。良かったです」 するりと袴の上を撫でる。縛っているせいで服は強く押さえつけられていた。袴の下で彼の自身が押し苦しそうにしているのは、見るからに明らかだ。 キリは僅かに口元を上げた。 「失礼します」 熱い吐息で耳元で囁く。袴の腰紐をほどき、少し引っ張って隙間から手を差し込んだ。すべすべして吸い付くような肌だ。 椿の陰茎に届くとそっと手を添える。直接は見えないが、手中に無防備にあると思うと嬉しくなった。 「や、そんな…とこ…」 自身に直接媚薬を垂らし、短くしごく。体が震えて、爪先で床を蹴った。 「ぁ、ぁ、ぁ、駄目。もう…」 「大丈夫です。このまま…」 快楽が背筋を走った。 体に力を入れると益々縄が食い込み、自由が奪われる。吊るされた腕が鬱血してきた。縄が天井に引っ張られ、股が上がって痛みも強くなった。 「っう、―――あっ!!」 快感と痛みが同時に襲う。背中をくの字に曲げ、射精した。 「はぁっ……ぁぁ…」 精液が前を濡らし、袴を汚した。 両腕を吊るされ、快感に悶える度に縄がくい込む姿。乱れた衣服と呼吸、恥辱に耐える表情。 その完成された美しさに、キリの顔が恍惚と弛んだ。 「…綺麗です、とても…」 このまま一晩中眺めてもいいくらいだ。しかし時間には限りがある。椿の両親はいつ帰ってくるかわからないのだ。 一つ一つの行為を惜しむように、大切に扱わなければいけない。椿の左足をそっと持ち上げ、まるで忠誠を誓うように爪先に口付けた。 「ん…」 零れた精液が足を伝って踵に落ちている。袴をたくしあげ、踝から内腿に向けて舌を這わした。今度はキリの唾液が太股を流れる。 「や、あっ…」 擽ったさに身悶える。ピン、と足を伸ばして薄い筋肉が張った。膝の裏を掴み上げ、濡れた太股の付け根部分を執拗に舐めた。 「やっ、だ…んっ」 歯を立てて強く吸うと赤い痕が残る。キリはいくつもそれをつけた。 「キリ…」 「はい」 名前を呼ばれると反射的に返事をしてしまう。キリは下から顔を覗いた。 「苦しいから…下ろしてくれないか…」 椿は目の縁に涙を溜めていた。キリも辛そうに顔を歪めたが、首を横に動かした。 「それは出来ません」 「なんで…」 「椿殿はこの格好がよく似合っています…」 キリの悲哀に満ちた目はどこかうっとりしている。 「そんな…」 キリにとっては褒め言葉だったが、椿は侮辱されたと勘違いしていた。頬に涙が一筋伝う。 「…泣かないで下さい」 困った顔をしながら、宥めるように涙を舐めとる。 「んぅ…」 後から次々に流れ出てくるので、目尻を吸った。長い睫毛が顔を擽る。キリは小さな耳朶を食んだ。 「あ、やっ…」 至近距離でぴちゃぴちゃと水音が響く。耳の穴に舌が差し込まれて頭を振った。椿の長い後ろ髪が揺れる。 「キリ…」 「どうしました?」 「舐められたところが…熱くて…」 はあ、と熱の籠った吐息を漏らす。キリは薄く笑った。 「もっと熱くしてあげます」 首筋、肩へと今度は下りるように舌を這わした。乱れた襟の元から腋へ、横腹と余すところなく舐められる。 「は、あ…」 ただでさえ上がった体温が、キリの愛撫でより一層上がっていた。臍の付近に辿り着くと、再び勃ち上がった椿の自身が首に当たる。布の向こうで主張するそれを、そっと撫でた。 「んっ…う、」 袴を引っ張り、下半身を露にさせた。縄の下で無理矢理剥がしたので、肌が擦れる。そこは縛られたせいで赤く痕をつけていた。 「あ、あっ、ん……!」 陰茎をくわえ込み、口をすぼめた。キリは薄い舌を上下へと動かす。先走りはまるで、射精したかと思う程溢れている。 「駄目、そんな…」 キリは尻の割れ目に食い込んだ縄をずらした。先程の媚薬を取り出し、器用に口淫しながら後ろの穴に指を挿入した。 「あ!そこは…」 「慣らしておかないと傷がついてしまいますので」 「ゃっ、あ…」 媚薬の滑りが手伝い、中は思いの外順調に広がった。そこはヒクヒクと収縮して指を奥へ誘う。 少しずつ本数を増やしながら場所を探り当てる。一点を押すと、ビクン、と今までより更に一つ大きい痙攣をした。 「うぁ!やだ!キリっ…駄目…」 口内に椿の欲が吐露される。キリは黙ってそれを飲み込んだ。ゴクリと喉を鳴らす。 最後の一滴も溢すまいと尿道口を吸ってから口を離した。 「後ろも具合がいいようですね」 椿は二度目の射精で体力を消耗していた。キリは一笑してから後ろに回り、腰を掴む。袴は先程剥がしたので尻が露になっていた。 椿の乱れきった格好に対して、キリの服には無駄な皺すらない。自身を取り出し、入口に当てた。 「椿殿、入れますのでなるべく力を抜いて下さい」 「え…」 ぼんやりしていた時に、硬い亀頭がゆっくり押し込まれる。椿の背中がえびぞった。 「ああ…や、ん」 「…凄く気持ちいいです」 自身が全て収まると、暫く中を堪能するようにそのままでいた。絡み付いて熱い。 キリは挿入したまま動かず、椿の体を抱き締めた。 「椿殿…」 目を閉じて、幼少の頃の修行の日々を思い出した。 春の昼下がり、あの一匹の蝶。何も知らず空を飛んでいたのに、突然的に刺され息絶えた。 あの喜悦をもう一度味わいたいと何度も願った。今それが叶ったのだ。 手中で自分に射抜かれ震える椿に、どうしようもなく興奮する。キリは律動が始まると激しく打ち込んだ。抱き締めたまま抜き差しをすると椿の背中が汗ばむ。項に顔を埋めると、後ろ髪がキリの輪郭を撫でた。 「…や、あっ、ん!」 ぐちゃぐちゅと粘液の擦れる音がする。最奥を突くと、中がぎゅうっと一際強く締まった。 「っ……!」 キリがその衝撃に射精すると、椿も三度目の欲を吐き出し、気を失った。 「………」 キリは息が上がっていた。どんなきつい任務をしても、ここまで体力を削られる事はない。この行為にどれだけ没頭していたか、思い知らされる。 名残惜しいが一物を引き抜き、苦無で吊るしていた縄を切った。崩れ落ちる体を抱える。 「大変申し訳ございませんでした」 腕の中の彼は頬は紅潮しているが、唇の色が薄くなっている。 椿を愛しいと思ったが、縄から解放された姿にはさっきまでの興奮はない。まるで第三者のように、冷静に事を進めた。縄をほどき、体を拭いて夜着に着替えさせる。 布団に寝かせ、彼の髪を撫でた。 寂しい微笑みを浮かべて見つめる。 「…今度こそ、本当にさようなら」 キリは闇の中を縫うように走り去った。 満月に黒い影が飛ぶ。その姿はまるで空に舞う蝶のようだった。 彼もまた、忍という運命に磔にされた孤独な蝶なのだ。 キリは二度と、椿の元に現れなかった。 |