放課後のスケット団の部室。

部屋にはいつもの三人組ではなく、ヒメコが抜けて椿がいた。ヒメコは今日は女友達との約束を優先したらしい。
椿はいつもの巡回中に部室に寄り、活動を怠っていないか確認にきていた。
確認と言っても、結局はより良い学園生活の為の心構えや生活態度について藤崎に説教をしているだけだ。
並んで腰をかけ、口喧嘩をしている。一見険悪に見えるが、これは彼らのコミュニケーションなのだ。

二人が恋人同士なのをわかっているスイッチは、自分の世界に没頭していた。
ヘッドホンをつけて話題のエロゲをプレイしている。
内容は学園もので、双子の女の子が蹂躙されていくというものだ。クライマックス間近で、高い声がサラウンドで頭に響く。
一方で部室の双子が言い合いをしながらはもっている。
そこで常々気になっていた疑問が沸いた。

『そういえばボッスンと椿はセックスをするとき、どっちが先にイくんだ?』

双子は勢い余ってお互いの額をぶつけた。ヒリヒリと痛むそこを両手で抑える動作も同じだ。

「セ…ってお前なあ!なんだよ唐突に!」

兄が慌てふためき、弟は困った顔で黙っているだけだ。普段は強気な彼だが、藤崎の事で弄られるとどうもペースが崩れてしまうらしい。
しかも猥談なんて最も苦手とする分野だ。そのまま黙りこくってしまった。

『やっぱり双子だから一緒にイくのか?うん?うん?』

表情を崩さずに下世話な質問をぶつけてくる。
藤崎はチラッと椿を横目で見た。自分はどちらかというと猥談は嫌いじゃない。むしろ健全な男子高校生が二人以上集まれば常のことだ。

「ま、まあいつも椿が先かなー」

スケット団のリーダーとして、兄として、男として、たくさんのプライドからつい口をついてしまった。
とんでもない兄のカミングアウトに椿はわなわなと震えている。

「よくもそんな事を…!」
「だって実際そうじゃん!」

開き直る相手を涙目で睨んだ。

「そ、挿入してからは君の方が、早いだろっ…!」

プライドが許さなかったのは椿も一緒らしい。語尾が小さくなりながらもしっかり言い返していた。

「おま!そういうリアルなこと言うなよ!」
「先に言い出したのは君だろ!」

気付けば二人は立ち上がり、スイッチをほったらかして騒いでいた。
いつの夜がどうだったとか、ああした時はこうだったとか、具体的な夜の事情を大声で叫んでいる。
スイッチはそれをしっかり生徒データとして保存していた。

「よーし!じゃあ今日の夜泊まりに来た時、どっちが先にイくか勝負だ!」
「望むところだ!」

売り言葉に買い言葉。
後悔は後先に立たず。
二人は言い終わってから自分達の発言に気付いたようだ。顔を真っ赤にして硬直している。
スイッチはそれをニヤニヤしながら見守った。




金曜の夜、二人きりのマンション。
勿論家族は明日まで帰ってこない。
シャワーを浴び終え、自室のベッドに座りながら藤崎は放課後を思い出していた。
何故あんなことを言ってしまったのか。つい意識してしまい、家に着いてから二人の間には変な緊張感が漂っていた。いつも通りならお互いシャワーを浴びたらそのまま…という流れだ。
しかし今夜は妙な勝負を申し込んでいる。
まだ乾いていない頭を抱えてベッドに転がった。

「お風呂、ありがとう…」

遠慮がちに背後のドアが開く。お風呂上がりの蒸気した頬に少し照れた顔は、普段の印象と違うものを与える。
体を重ねるのは何度目かにはなるが、椿はいつも初々しい態度だ。

目を合わせないまま隣に座り込んだ。
藤崎はおそるおそる顔を覗く。
ギュッと目を瞑っていた。何も言い出さない。

なんだ、普段と一緒だ。

藤崎は安堵した。

もう勝負なんてどうでもいいじゃないか。せっかくの二人きりの時間なんだ。

応えるように肩を引き寄せ、唇を重ねる。
舌を這わせるとゆっくり受け入れ出した。

「んんっ…」

声が漏れてお互いの体温が上がっていく。キスだけではもどかしくなり、藤崎はパジャマの裾から手を入れ、細い腰を撫でた。ピクン、と椿の背筋が伸びる。

「あ、ん…藤崎っ…」

顔が離れて請うように見つめられる。
とろんとした目に浅い息切れ、これが無自覚なんだから恐ろしい。
藤崎の勢いに火がついた。
ベッドに押し倒し、パジャマを捲り胸の頂を軽く吸い始める。

「んっ!ん、んん…」

声が出そうになるのを両手で防ごうとしたが、簡単に取り払われた。
椿の手を押さえつけたまま、胸への刺激を続ける。
舌で転がしたまに甘噛みすると喘ぎ声に遠慮がなくなっていった。

「あ、んっ…あっ…あ、」

椿の腰が浮く。藤崎はそれを捉え、足の間へと手を伸ばした。ズボン越しに軽く掴むとそこは硬度を増している。

「藤崎…」

照れた顔を隠すように胸へ擦り寄った。
藤崎のそれも反応を示す。興奮が一気に高まり、椿の下を脱がして露にした。
自己主張しているそこに顔を持っていこうとすると、いきなり髪を掴まれる。
癖の強い髪は更に上に引っ張られた。

「いてて!何?」
「舐めたら…ダメ」
「なんで?」

椿は息を一回大きく吐いた。

「このままだと……僕が先にい、いってしまう…から」

どうやら放課後の発言を気にしているらしい。
いつの間にか足を閉じ、藤崎の反応を待っていた。

「じゃあどうすんの?」

息がかかるくらいずいっと顔を近付けた。昂っていた空気を中断され、苛立ちと焦りで呼吸が荒い。
椿は目を合わせなかった。
腰を押し付けるとお互いのは興奮している。

彼の意見を無視して無理矢理押し倒してぐちゃぐちゃに抱いてしまいたい。
しかしセックスでほとんど自己主張しないので意見を尊重することにした。
押し付けていた腰を浮かし、彼の頬に手を添えてじっと見つめる。
椿の視線がゆっくり上に動いた。

「……僕も藤崎に触っていいか?」

たどたどしい手が服の上からそっとなぞった。
ピクン、と藤崎のものが跳ねる。
今は左手の動きに全てが集中していた。ズボンの上から掴み手のひらで握るのを繰り返す。段々動きが上下へと大きくなった。

照れと興味、清純といやらしさ、相反する椿の姿は魅力的だった。
藤崎は興奮で背毛がぞわりと逆立つのを感じる。
切羽詰まっているものを抑えきれそうなない。不器用な左手を取った。

「…ふじさき?」
「直に触って。俺も椿の触るから」

二人は自分の手でお互いを慰めた。

「あ、ああ!ふじ、さき…んっ」
「うわ…気持ちいい」

藤崎は倒れこむように体重をかける。
口付けをすれば両方の舌が行き交う。口と性器と共に粘液の音がいやらしく響いた。ぐちゅ、ぐちゅ、と生々しい音が耳も犯す。
二人の先走りはもう達したのかと思う程溢れていた。

「僕、もう…無理、かも…」
「うん、俺も…」

椿の足にくっと力が入る。
二人はお互いのものを重ねて一緒にしごいた。最早どちらの手なのか、どちらの性器なのかすらわからない。

「……っあ!」
「…!」

びくん、と腰が痙攣した。相手の腹に精液が飛ぶ。
シーツに汗が落ちた。息も切々になりながらそのままベッドに体を沈める。

「君の方が早かった…」
「いや、椿だろ」

体を重ねたまま相手の髪を撫でる。一見愛しい情事後の時間だが、二人はどっちが先だったかを話していた。
色気もなく、ベッドの上の押し問答はしばらく続いた。





月曜日、また放課後のスケット団部室。
今度はいつもの三人組が揃っている。
依頼がない時は思い思いに過ごす事が意外に多いが、今日はスイッチが待っていましたと言わんばかりに話し掛けてきた。

『で、結局金曜の夜はどうだったんだ?』

藤崎は飲んでいたお茶がむせ、激しく咳払いしていた。
鼻水と涙が飛び出し情けない顔になっている。

「なんや?金曜がどうかしたん?」
「うわー!ヒメコには関係ないから!」

袖口でお茶を拭いながら、バタバタと片手で宙をかいた。
ヒメコは不機嫌に頬を膨らませたが、スイッチは引く様子もない。

『ボッスン!勝敗だけ!』
「うーん…」

腕を組ながら夜のことを思い出す。
あの後何度か愛し合ってそれは甘い夜を過ごした。にやけそうになるのをぐっと引き締める。

「……秘密!」

二人にブーイングを飛ばされたが、気にしない。



あの夜の勝負がどうだったかなんて、自分だけが知っていればいい。
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