※捏造大学生パロディ



新緑の葉から差し込む光が眩しい―季節はゴールデンウィークも終わり、五月半ばに差し掛かろうとしていた。



都心から少し外れた狭いアパートで、藤崎と椿は晩御飯の支度をしていた。
主に椿が料理、藤崎が食器の用意をしている。


二人は大学に入学してから一緒に暮らしていた。
高校二年の秋にお互いが兄弟だと知り、そこからぎこちなく距離を縮めていった。

今は友人として、兄弟として、恋人として、喧嘩をしながらも仲良くやっているのだ。

「吹き零れた!ど、どうしよう……」
「あー貸してみろ」

春頃は引越しの準備や大学の授業に中々慣れず、生活のリズムを掴めないでいた。
しかし今はルールを細かく決められている。

料理は偶数日が藤崎、奇数日が椿。皿洗いと風呂掃除はその逆だ。
洗濯は各自自分の物をする。ゴミは学校に行くときに出す。
リビングの掃除は椿がまめに片付けている。その代わり藤崎は週に一回トイレ掃除をする。
買ってきたお菓子は名前を書く。ゲームのデータは勝手に上書きしない。

暗黙のものを含め、ルールはたくさん出来た。
最初は性格が正反対の二人暮らしで揉めたが、今は心地よい距離感を保たれている。

家事にもようやく慣れてきた。
しかし椿は未だに料理だけは苦手だった。
実家ではほとんどしたことがなく、いまいち手先が覚束ない。
藤崎はというと、持ち前の器用さでさっと作れてしまう。

努力はしているのに、双子でこの差はなんだろう。内心悔しかったが言葉にはしなかった。

今日は奇数日。晩御飯は大きく切られた野菜炒め、沸騰した味噌汁、後は温めるだけの餃子だ。

「「いただきまーす」」

藤崎は文句を言わず食べている。別に食べれないようなものではない。
しかし味にうるさい椿は自分が作ったものながら、眉間に皺を寄せていた。

「んな顔するなって。明日は俺が当番だから、椿が好きなの作ってやるよ」
「………じゃあハンバーグがいい」
「わかった。明日はハンバーグな」

いつもと変わらない夜は更けていった。





次の日、椿は教室の貼り紙を見て溜め息をついた。
昼からの授業が先生の都合で突然休講になったのだ。

他に来ていた生徒も周りで文句を言っている。ちなみに藤崎は同じ学校だが、学部は違うので一緒に過ごす事はほとんどない。

午後からはこの授業だけだったので、特に予定もないので家に帰ることにした。
いきなりぽっかり空いた時間をどうしようかと考える。
大学の宿題は全て済ましている。
本でも読もうか。
それとも一人でゲームしてみようかな。

色々考えている間にスーパーの前を通り掛かった。
そうだ。今日は当番じゃないけど、ご飯を作ろう。
勿論ハンバーグだ。
藤崎が思わず「おいしい」って言ってくれるようなのを作りたい。
そうなるとハンバーグの作り方を急いで榛葉にメールした。料理上手と言えば彼だろう。
榛葉は思ったより随分早く返事をくれた。

『久しぶり〜!今は藤崎と暮らしてるんだよね?彼に作ってあげるのかな?おいしいハンバーグの作り方だけど、まず材料は……』

手順から細かいアドバイスまで丁寧に書かれたメールだ。
それを見ながら足早にスーパーへ向かった。





昼過ぎから悪戦苦闘して、夕方にはなんとか完成した。
ハンバーグにサラダ、インスタントのコーンスープ。
あとはデザートにみかんゼリーも買った。
味見をした時は我ながらこれはおいしい、と感動すらした。
そろそろ藤崎も帰ってくるだろう。
椿は食卓で時計を見上げながら、そわそわと待っている。

『〜♪』

携帯の振動が机の上で響く。
藤崎からだ。

「もしもし椿?今日の晩御飯さー…」
「あ、晩御飯なら…」

声の後ろが騒がしい。まだ学校だろうか。

「もしもし?あのさ、急で悪いんだけどクラスの奴に飲み会に誘われてさー…明日は俺が晩御飯作るから、適当に食べといて!ごめんな!」

弟の気持ちも露知らず、ブツ、と素っ気なく切れてしまった。
さっきまでご飯の香りが漂っていた温かい食卓が急速に冷めていく。
椅子に腰掛け、暗くなった携帯画面を見つめた。

「今日は急にダメになってばっかりだな…」

一人で取る夕食は、味見の時より味が落ちている気がする。いつのまにか二人で食事をするのが当たり前になっていたんだ。
誰もいない向かいの席を見つめた。

夕食を終えた後は皿洗いをして、早々にシャワーを浴び、本を読んだりテレビを見ていたりしたがどれも頭に入ってこなかった。
時計と携帯ばかり気にしてしまう。
電話がきたのが六時だ。今は十時を過ぎている。
飲み会ってこんなに時間がかかるものだろうか。
モヤモヤと余計な事ばかり考えてしまうので、夜は早いが床につくことにした。



藤崎が帰宅したのは日が変わるか変わらないかだった。

そっとドアを開けてリビングを確認する。電気は消え静まり返っていた。

「もう寝てるか…」

なるべく足音を立てないように部屋を横切った。
台所へ行き、冷蔵庫を開ける。お酒ばかり飲まされたので、落ち着く為にお茶を探した。

「ん?ハンバーグ?」

そこには一人分のラップにかけられたハンバーグとサラダがあった。椿が作ったのが余ったのだろうか。しかしみかんゼリーまである。
ふと昨日の事を思い出した。

―明日はハンバーグな―

慌てて扉を閉め、寝室へ向かった。
リビングの明かりが一筋部屋に差し込む。椿は頭まで布団を被っていた。

「なあ、起きてるか?」

掛け布団からちらりと目だけが見える。

「………遅い」
「悪い」

藤崎は椿の頭元に腰を下ろした。目を合わせようとしない彼を、困った顔をしながら優しく見つめる。

「ごめんな、約束忘れて」

不器用な手で頭を撫でる。返事はないが鼻をすする音が聞こえた。

「もーこっち向けよー」

覗き込むと椿はポロポロと涙をこぼしていた。それを指で拭いそっとキスを落とす。

「お酒くさい」
「あ、ごめん」

藤崎がぎゅっと抱き締め椿が胸に顔をうずめる。
そのまま二人は一緒の布団で眠りについた。





明日こそは一緒にハンバーグ食べよう、とだけ約束して。
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