※椿が女体化しますので苦手な方はご遠慮下さい。





「椿、あーんしてみ」

安形は小さなチョコレートをずいっと眼前に突き出した。これから生徒会業務が始まろうとしてる時に、何の脈絡もなくだ。
椿があの、と問答しようとすれば口に放り込まれた。ふんわり甘味が口に広がる。

「会長!何するんですか!」

口をもぐもぐさせながら怒鳴っても迫力はない。生徒会役員逹はほのぼのと見守った。

「俺が持ってきたんじゃねーよ。中馬先生から貰ったんだ」

安形が答え終わるのと同時に、椿の喉がゴクンと鳴った。緊張が走り、皆が振り返る。
中馬先生と言えば、いつも怪しい薬を作っては生徒にバラ撒いている(主な被害はスケット団だが)
性格が変わったり子供になったり大人になったり…大抵はろくでもないことが起きる。
今の椿も例外ではない。

「う!」

途端に胸を押さえて膝が崩れた。榛葉逹は急いで駆け寄る。呼吸が荒く、ぜえぜえと息を切らしていた。

「椿ちゃん!大丈夫?」
「体が……熱い…っ!」

突然どこからともなく爆風が起きた。全員の視界が遮られる。
爆発の発生地にいた人物を探すために目を凝らせば、段々覆われた煙が晴れていった。
爆煙の中の椿に傷一つないし、子供や大人になった風でもない。

「会長!変な物食べさせないで下さい!」

ガミガミと説教を始めた。
性格も変わっていない。
いつも通り真面目で頑固な副会長だ。しかし妙な違和感が残っている。

「………椿ちゃん、ちょっと背が縮んでない?」
「声もいつもより高いですわ」
「肩幅も狭いな」

椿は自分の体を確認した。
手元を見れば袖口からは指しか出ていない。ベルトも緩くてズボンの裾が落ちている。頭を上げると安形の顔がいつもより遠かった。

「ふーん」

安形がジロジロと椿を見下ろす。爪先からつむじまで眺め、思案しているようだ。
す、っと安形の手が伸びる。椿の胸を掴んだ。そこにはいつもの固さはなく、ほんの少しだが柔らかい膨らみがあった。

「おほ!本当に女になってる!すげーなこれ!」

感心しながらも手を離さず、そのまま揉み続けていた。
椿は自分に起きた状況がわからずしばらくされるがままになっていた。
しかし改めて把握すると、顔が一気に真っ赤に染まっていく。

「な!なんなんですかこれはああああ!」

少し高くなったソプラノボイスが開盟学園の空に響いた。





「まあ、女の子になるお薬のチョコレートですのね」
「原型は椿ちゃんなのにちゃんと女の子なんだよね〜」
「リアルら〇ま1/2だな」

全員が椿を囲んで楽しそうに談笑していた。当の本人だけが下に俯いて何も答えようとしない。

「効果は2〜3時間らしいから、放課後には戻るって」

安形がぽんと肩を叩くと、やっと顔を上げる。冷や汗の流れていた表情が安堵していた。

「そ、そうですか。今日の業務は生徒会室の掃除だけですし、それなら…」

とりあえず納得した椿に安形はいや、と遮った。その顔付きはたまに見せる精悍なものだ。

「このまま業務を始めるには一つ問題がある」

張り詰めた空気の中、全員が固唾を飲む。安形の眼光は更に鋭くなる。

「椿、開盟学園の校内規則第七条二項目はなんだ?」
「は、はい!当校の生徒は学園内において男女共に規定された制服を着用すること…」

椿がはっと顔を強張らせ、安形が頷く。他の皆は小首を傾げた。
今の校則に何か不審な点はあるだろうか。それにしてもよくスラスラと校則が出てくるものだ。
変な所で感心してしまう。

「………つまり会長は僕に女子の制服を着ろと?」
「そうだ。薬のせいとはいえ、今のお前は完全に女だからな。まあ一般生徒ならともかく、副会長であるお前が校則を破ってるのはなあ」

ああ成る程。つまり女体化した椿に女子の制服を着せたいわけだ。

普通ならいきなり変な薬を飲まされてそれはないだろう。
しかし責任感の強い椿は、校則や副会長という単語に極端に弱いのだ。

「し、しかし……いきなり女子の制服を着ろと言われてもそんなの急に用意出来ないですよ…」

ババババと激しく空を切る音が轟く。しまった、と気付いた時にはもう遅い。

「丹生グループが今早急に持ってくるようですわ」

携帯を閉じる丹生の後ろでヘリコプターが飛んでいる。
逃げ道は断たれた。
安形はニヤニヤして榛葉は諦め、浅雛は何やらリボンを物色している。

この連携プレーと仕事の早さを普段に少しでも生かしてくれれば―椿はヘリコプターの影が迫る窓を見つめた。



「きゃあああ〜〜可愛い〜〜〜!!」

規定された白のセーラー服にリボン。スカートは少し短めで、黒のニーハイソックス。
短髪には浅雛が選んだ青い髪飾りがついている。

見る人が見たら椿だが、大きな目に柔らかそうな体はまぎれもなく女の子だ。
スカートの裾を押さえてもじもじしているのがまた可愛らしい。

「スカート短すぎないか?これでは動き辛い…」
「いやあ、こんなものだろ」

ぺシ、っと安形が尻を叩く。椿は小さな悲鳴をあげて仰け反った。

「セクハラですよ会長!」

カッカッカッと楽しそうな高笑いが響く。

落ち着かない喧騒の中、掃除は始まった。



「榛葉さんはこちらの机を動かして下さい。丹生、私物はここにまとめよう」

始まって少しすればいつも通りだった。椿はあまり自分の格好を気にとめず、てきぱきと指示を仰いでいた。皆もそれに従って活動している。
安形だけがつまらなさそうにしていた。顎を箒の柄に乗せ、欠伸をしている。

「会長、ちゃんと働いて下さいよ」
「んー」

椿は両手でゴミ箱を持っている。
一瞬の隙だった。
安形の魔の手が再び伸び、スカートに触れる。ペロリと捲りあげて下着があらわになった。

「な!」

ガタン、とゴミ箱を落とし、慌ててスカートを押さえた。口をパクパクしながら信じられないものを見るように安形を見た。

「な、なんでスカート!そ、そ、掃除中……」

さっきから立て続けのセクハラにうまく言葉に出来ないらしい。
言葉にならない声と腕をばたつかせながら抗議しようとしていた。
安形は気にせずけろっとしている。

「いや、どんなの履いてるかと思って」
「シルクのレースですわ」

丹生が笑顔で答える。男性陣の口元が微妙に弛んだ。
うわああああと椿がまた悲鳴をあげた。

「もう会長セクハラにもほどがあります!いくら元々男といってもひどすぎます!」
「セクハラじゃねーよ。好奇心だ」
「まーまー二人とも…」
「シルクは嫌だったのでしょうか?」
「そういう問題じゃない」

再び喧騒が戻り、掃除は中断された。


そこで生徒会の扉が勢いよく開かれる。入口には息の切れた女子生徒が立っていた。

「大変です!校門でクラスの子が他校の生徒と喧嘩してて…」
「なに!?」

椿の意識が一気にそっちへ集中する。窓から校門を確認すれば、近隣の不良三人と開盟学園の生徒二人が喧嘩していた。

「丹生は保健室の先生に連絡!浅雛は喧嘩している生徒の担任へ!榛葉さんは相手の学校に連絡して下さい!僕は現場に向かいます!!」

椿は一目散に駆け出した。どうやら今の自分の格好を忘れているらしい。
生徒の為なら省みないのは良くも悪くも彼らしい。

他の皆もそれぞれに動き出した。
榛葉は相手がどこの学校か確認するために後を追いかける。

「道流、俺も行く」

安形は箒を捨てて一緒に走り出した。
珍しい。こういう事件が起きても、彼は果敢に現場に向かうなんてことはほとんどない。
大体は椿に任せ事態が怪しくなれば、さりげなく校長や警察に連絡して治める。
それが安形のやり方だ。彼らしくないな、と榛葉が横目で伺った。すぐに視線に気付いたようだ。

「あいつが武道の達人って言っても今は女だからな。危ないだろ?」

ああそうか。
セクハラばかりしているのかと思ったけど、ちゃんと考えて心配しているのだ。
二人は走るスピードを上げて校門へ向かった。



現場に辿り着けば、不良の二人は既にのびていた。多分リーダーであろう一人が身構えている。

野次を飛ばしているがどうも虚勢らしい。椿の強さに腰が引けている。
それも仕方ないだろう。どう見ても細くか弱そうな女子が、大男二人をあっという間に薙ぎ倒したのだ。

「よくも我が校の生徒に手を出したな…!」

椿の目が怒りで燃えている。身構えるのを確認すると、安形は足を止めた。

「くらえ!ツバキエクスプロージョン!!!」

必殺技が炸裂した。
不良が吹っ飛ぶ。
それと同時に、彼女のスカートは思いっきり捲れた。

シルクのレースがヒラヒラと揺れている。

安形はと言うと、黙ってうんうんと頷いていた。凄くいい笑顔だ。

「…………まさかこれを見る為にわざわざ?」

榛葉の声は聞こえてないらしい。

「くそ!なんなんだよこの女……」

不良が小声で悪態をついている。椿の怒りはまた沸き上がったようだ。

「おーい椿!そいつ反省してないみたいだからもう一発お見舞いしてやれ!俺が責任持つ!」
「わかりました!!」



本日二回目のツバキエクスプロージョンが発動した。
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