定例会議が始まる十五分前の生徒会室―メンバーは安形と椿しかいない。 椿は会議に使う書類を確認しながら横目で安形を伺った。 彼はしかめっ面で頬杖をつき、あからさまに不機嫌そうにしている。小さく溜め息をついた。 この原因を遡るとことは三十分前に戻る。 丹生が家からこれはまた高そうなチョコレートを持ってきたのだ。英語でメッセージが書かれている金箔付きの箱。中を開ければ色とりどりのチョコレート。 会議が始まる前の少しの時間が甘く幸せなものになった。一つ、また一つと進めていく。どれも上品で素晴らしい味だが、その中にボンボンショコラが入っていた。 勿論普通の人ならなんてことはないが、手に取ったのはお酒に滅法弱い榛葉だった。お酒を口にするどころか匂いでも酔ってしまう彼に、ボンボンショコラ。 展開は予想通りだ。酔うと口説き上戸になる彼は浅雛や丹生に迫り、それを止めようとした椿の頬に思いっきりキスをした。 慌てて安形が引き剥がし、女子二人が保健室へと連れていった。 これが安形が機嫌を悪くした理由だ。 椿に全く落ち度はないのだが、二人きりの生徒会には重苦しい空気が淀んでいた。 「………会長」 「なんだよ」 久しぶりに出た声は素っ気ない。 「もうすぐ皆帰ってくると思いますし…その、そろそろ……」 機嫌を直して下さい、なんて子供にするような注意をしてはいいものか。結局口をつぐんでしまった。 俯く椿を見ながら安形は思考を巡らす。普段は寝ている時間が多いが、一旦考え始めるととんでもない事をあっという間に思いつく。それは大体が悪い事でよく椿が被害を被っている。なんせ安形という男は自負するほど性格が悪い。 「なあ、椿に頼みたいことあんだけどさあ、駄目か?」 わざとらしく困った顔をすればすぐに振り返った。 「はい!なんでもします!」 少しでも機嫌を取り戻す為なら、無事に会議を始める為、ひいてはより良い学園生活の為!椿はぐっと身を乗り出した。向こうはというと胡散臭い笑顔だ。 「そうか?悪いな」 「は〜ごめんよ〜…皆に迷惑かけて……」 「いいえ、私が持ってきたチョコのせいですわ」 「CKH!(チョコ食って鼻血出せ!)」 ガヤガヤと廊下から三人の騒ぎ声。榛葉はチョコを無理矢理吐き出されたらしく、顔が少し青白い。丹生に背中を擦って貰いながらなんとか生徒会室に戻ってきたようだ。 「あれ?」 ドアを開けると部屋にいる筈の人間が一人足りなかった。 「安形、椿ちゃんは?」 「椿ならお前にキスされて気分悪くなったから帰ったぜ」 「ええ!?嘘?本当に?」 例え高熱が出ても生徒会の為なら!と、這ってでも出席しそうな彼がそんなことで帰ってしまうだろうか? しかも安形はいつの間にか機嫌が戻っていて、カッカッカッと笑っている。 何かが怪しい、三人は訝った。 しかし現に椿は部屋のどこにもいないのだ。納得せざるを得ない。 「まー仕方ない。今日は四人で会議するか。書類は椿の机にあるから、道流やってくれ」 「保健室から帰ってきたばっかりなのに……人使い荒いなあ」 榛葉は渋々書類を取った。全員が席に着く。 こうして会議は一人欠けたまま、いつも通り始まった。 そして当の椿はというと、机の下にいた。正確に言うと、会議をしている真っ最中の、生徒会長こと安形の机の下だ。 必死に声を殺し、安形の足の間に顔を埋めている。 そう、安形の頼み事とは会議中に自分のものを椿に口で奉仕させることだった。 勿論椿は最初全力で断った。学校で、生徒の見本となるべき生徒会役員が、より良い学園生活を考える為の会議中に! そんな事は出来る筈がない。考えるだけですら愚かで罪だ。 安形を叱り、思い留めさせようとした。しかし彼の口八丁手八丁で丸め込まれ、最終的に「生徒会長命令」と言われ、従わざるをえないと思いこんでしまった。 安形はこんな時は本当に頭が回るのが早い。結局椿は口車に乗ってしまったのだ。 「じゃあ次回の全学年クラス委員会議についてなんだけど……」 榛葉の声が遠く聞こえた。彼は思いもしないだろう。真面目な会議の中、こんなことが起こっているなんて。椿は安形のものを唾液の音がしないようにゆっくり舌を這わせ、手で擦った。 それは硬く熱く反応しているのに、会議で発言する彼の声は至って普通だ。 自分の方がおかしいんじゃないだろうか。暗く狭く、いつばれてしまうかわからないこの状況は、椿の思考能力を奪っていった。 「道流、この資料の二ページ目のとこなんだけどさ…」 動きが単調になってきた時、頭を押さえ込まれた。突然の事に声が出そうになったがぐっと堪える。 口いっぱいに性器を押し込まれてうまく呼吸が出来ない。しかし安形は手を離さず、そのまま自分のものを動かし、口腔内で頬をついた。 「っ………」 椿の顔が歪む。喉を突かれるよりは幾分ましだが、もし音や声が出たらどうするんだ。椿はジロッと上目遣いで睨んだ。 殺気に気付いた安形が目を合わせる。 椿は精一杯の怒りを表しているようだが、それは相手の情欲を煽ったに過ぎなかった。 「っ!!!」 椿の股間を軽く踏みつけた。痛みこそそんなにないが、びくんと体が跳ねる。ひどい。口で奉仕するだけだと言っていたのに、従ってこの仕打ち。 しかし足はそのまま柔らかく刺激して、椿のそれも反応を示していった。もどかしい快感と痛みが襲う。 もじもじと体をくねらせて、奉仕どころではない。 緩急をつけて刺激され、甘い痺れが全身を巡った。もうこれ以上は声が出てしまう。 椿は必死に安形のシャツの裾を引っ張り懇願したが、彼は黙って意地悪な笑みを浮かべているだけだ。 もう無理だ―諦めそうになった瞬間だった。 「ごめん安形……やっぱり気分悪い…」 榛葉の顔色は更に悪くなっていた。口元を押さえて背中を丸めている。今にも吐きそうだ。 「おーそうか。じゃあ保健室行ってこい。ミモリンとデージー連れていってやれ」 「わかりました」 「SIY(さっさと行け酔っ払い)」 結局三人は一時間前と同じように出ていった。 ドアが閉まり、足音が遠退くのを確認してから安形は机を覗きこんだ。 「椿〜大丈夫か?」 「……会長最低です」 もう口は離していたが、どうやら腰が抜けて立てないらしい。 涙目で真っ赤な顔をしていた。 「悪い悪い。たまにはこういうのもいいかと思ったんだけどな〜」 カッカッカッといつもの調子で悪びれなく笑っている。椿は緊張と屈辱と快感が混じり合ってすっかり力が抜けていた。 熱を持て余しているのに動く気力が湧かない。安形と目を合わさず、座り込んでいる。 しかし安形はその腰を掴み、自分の膝へと座らせた。 安形のものが椿の太股を突く。思わず腰を引いたがぐっと引き寄せられる。 「会長……っ」 「会議中に奉仕して興奮したのか?」 ぎゅっと股間を掴まれる。 「それは会長が……足で…」 「嘘つけ。俺が踏んだ時にはたってただろ」 「………」 椿は黙りこくってしまった。力のない体でなんとか抵抗しようとしているが、なんの意味もなさない。 「……ぁ、ん」 安形は椿のシャツに手をかけた。これで終わる気はさらさらないらしい。 「これ以上はダメです……今度こそ皆が…!」 「やめて辛いのはお前だろ」 「んんっ!」 胸の蕾にかじりつく。椿は高い声をあげるだけだった。 「やっぱりお前の声、聞かないとな」 机の下で抑えていた声は、安形によって甘く宙へ溶けていった。 |