アガター×ツバキの無理矢理・異物挿入表現のある小説です。 世界は魔王ダンテルによって闇に包まれていた。空は晴れることなく常に暗雲が覆い、モンスターが不吉に鳴いている。人々の心休まる日などなかった。 しかし国王は国の危機を、民を救おうと各地に勇者の志願を募る。そして、勇気ある若者六人が集まった。名はリーダーのボッスン、ヒメコ、スイッチ、ツバキ、サーヤ、エニー。彼等はまだ戦士としては未熟だが、国を憂い想う気持ちは充分にあった。六人は元々の能力を活かそうと、更なるジョブチェンジの儀式を行なった。 しかしある人物の手違いから、勇者達は戦闘向きには程遠いパーティーになった。スライム、ぶどう農家、手品師、僧、舞踏家、果てはあっちゃんという、それは職業かと疑いたくなるジョブチェンジに終わった。勇者というよりは旅芸人のような彼等は、それなりに意気込んで魔王討伐に向かった。 結果、魔王はおろか最初の戦いで雑魚モンスターに瞬殺された。 「やはり僧で勝つのには無理があるか…」 それから一行はレベルアップをするため、各自別れて修行に励んだ。一緒にいては互いを甘やかしてしまう、というのが武道家志望だったツバキの考えだ。 鬱蒼とした森の奥で一人念仏を唱え、体も鍛え、モンスターを倒し続ける日々。ツバキはようやく気がついた。 僧では魔王に勝てない。 どんなに鍛えても所詮僧は僧だ。死者の魂を鎮魂することは出来ても、どうやったら魔王を倒せるというのだ。僧も能力が特化すればそれなりの戦力になるかもしれないが、元々肉弾戦を得意とする自分には向いていない。 しかもジョブチェンジをした当初は僧らしい見栄えだったが、数ヵ月の修行で坊主頭だった髪は元の長さまで伸びていた。着ていた袈裟も修行中に汚してはいけないと、元の服を着ている。 つまり、最初の武者修行だった時に戻ったわけだ。ツバキは黒い空を見上げた。 「よし。一度カイメーンに戻ろう」 ツバキは荷物を背負って立ち上がった。ダンテルの城を背にして歩き出す。 ハローワーク神殿に行き、もう一度転職の儀式をして貰うのだ。他の仲間を出し抜いて行くのは気が引けるが、ここで修行しても意味がない。今度こそ武道家になるべく、そして魔王を倒す為に、より良い国作りの為に、ここは一度引き戻す決意をした。 「すみません。誰かいますか?」 重い大理石の扉をノックするが、コンコンと高い音しか返ってこない。ツバキは不躾とは思いながら一人で中に入った。扉はギイイ、と軋み、自らの重みで勝手に閉まった。外界から遮断された神殿内は、まだ昼間だが薄暗い。壁に備え付けられた窓が小さく、室内も照明である松明に火を灯していないのだ。 一筋の赤縦断が続く先で、大人一人が乗れるくらいの石板が鎮座している。 そこが儀式をする場所だ。丁度真上の天窓から光が射し込み、厳かな雰囲気が漂っている。その光に包まれるように佇んでいるのがこの神殿の長であり、ツバキ達を転職させた大神官アガターだった。 ツバキが入って来た気配に気付き、ゆっくり振り向く。 「ん?お前…ツバキか?」 「覚えていてくれたのですね」 顔を合わせたことはあるが、それも数ヵ月振りのことなのでツバキは驚いた。 「おお。まあ大神官様だからな。今日はどうしたんだ?」 問い掛けられ、ツバキも石板まで駆け寄った。数ヵ月にここで不本意なジョブチェンジを行なった。 大神官を前にして「やり直して欲しい」というのは躊躇してしまうが、ツバキはぐっと身を乗り出した。 「率直に言わせて頂きます。僕を僧から武道家に転職して下さい」 「ああ?なんでまた」 アガターはあからさまに面倒くさそうに顔をしかめた。しかしツバキも一度口にしてしまったからには、引く気はなかった。 「以前の儀式の事を覚えていますか?あれは元々希望していた職業とは違っていたんです。…正直、僧ではどんなに修行しても、魔王に敵う強さまで行き着けません。このままではどんどん世界は闇に支配されてしまいます」 「あー確かに、何日か前も村人が魔王の手下に襲われてたな…」 ツバキはそれを聞いてわなわなと震えていた。悔しそうに拳を握る。 「お願いします!一度儀式をして頂いて、失礼は承知です…。僕はより良い国作りの為に魔王を倒したいんです!!」 張り上げたツバキの声が神殿に響く。アガターは顎に手を添え、ふむと頷いていた。 「要は魔王を倒したいんだろ?だったら武道家じゃなくてもいいんじゃねーか?」 「武道家は元々希望していた職業ですし…向いていると思ったのですが」 「でも一回転職したら今まで積んできた経験値がパアになる。魔王を倒したいならとっておきの職業があるぜ?」 「とっておきの職業」 ツバキはおうむ返ししながら顔に疑問符を浮かべた。 「そうだ。ぶっちゃけそいつに転職しちまえば修行なんてしなくても一発で魔王を倒せる」 先程の勢いが萎み、ツバキはポカンと口を開いた。 「じゃあなんで今まで誰もそれに転職しなかったのですか?」 アガターは悲痛な面持ちといった風に顔を歪めた。ツバキは疑いもせず見つめる。 「それはな…過酷な試練なんだ。普通の儀式より手間も時間もかかるし、耐える力も必要だ。常人には出来ない。ま、つまり選ばれた人間にしか出来ない儀式ってことだ」 「選ばれた人間…」 ツバキはまた言われた言葉を繰り返した。 彼の目がキラキラと輝く。元より使命感の強いツバキに、その言葉は何にも変えがたい。普通の人間には出来ないことを、自分になら出来るかもしれないと大神官様が持ちかけてくれた。 ツバキには一瞬も迷いなどなかった。 「僕やります!魔王討伐の為、より良い国作りの為、どんな痛みや苦しみにも耐えてみせますから!!」 アガターはうんうんと微笑んだ。 「そりゃ良かった。じゃあ早速そこに立ってくれるか?」 ツバキは言われるままに石板の上に登った。射し込む光も自分を祝福する為にあるのではないかと思える。 目を瞑り、高揚する気分を抑えながら待つ。すると、いきなり胸を突き飛ばされた。思わず開けた目で見えたのは、持っていた杖で自分を殴ったアガターの姿だった。 予想していなかった衝撃に、ツバキはドスンと尻餅をつく。 「だ、大神官様…?」 アガターはツバキの体に馬乗りになった。遠慮なく体重をかけられ、ツバキが苦しそうに息を吐く。アガターは裾の長いローブを捲り、下のズボンから祖反り勃ったペニスを取り出した。真っ白な法衣とは対照的な、赤黒いそれが眼前に突き付けられる。 モンスターのようにグロテスクなそれに、ツバキは思わず顔を逸らした。 「な、何を…」 後退りしようとすると更に体重を掛けられる。 アガターは自分の行為をにべもなく、さらりと言い放つ。 「何って言っただろ。過酷な試練だって。まずお前には俺の聖なる力を分け与える」 「せいなるちから?」 「そうそう。それとも出来ねえか?魔王を倒すのは口だけか?」 アガターの安い挑発に単純なツバキはすぐに乗ってしまった。ムッと唇を結び、鼻先にあるペニスに手を添える。 勿論彼はこれからされるであろう行為がどんなものか、微塵にもわかっていない。ただ挑発に対抗心を見せているだけである。 「どんな過酷な試練だろうと、覚悟は出来ています」 きっぱり断言するツバキに、アガターは口端を吊り上げた。 「じゃあやってみせろよ」 アガターはツバキの首まで移動した。首を太股まで挟まれ、ペニスを唇に突き付けられる。覚悟はしていると言っても、いきなり他人の性器を目の前にしては嫌悪感が先走る。 この先どうするかと考え込むツバキに、アガターはそれを無理矢理捩じ込んだ。 「ん、ふぅ!?」 ツバキは寝そべったまま口いっぱいにくわえた。喉の奥まで埋まり、アガターに乗っかられているせいで息が辛い。ツバキは受け入れたまま鼻で呼吸するのが精一杯だった。 アガターがげんなりした顔つきになる。 「お前なあ、もっと舐めたり吸ったりしろよ」 「ふぁ、って…」 口淫をしたこともされたことも、更に知識もないツバキにはどうすればいいか見当もつかなかった。ただ苦し気に視線だけで見上げる。 「勝手に動くからな」 アガターは腰を動かし、喉に打ち付けた。唾液でヌルヌルするそれが縦横無尽に動き回る。 口を性器のように扱われ、亀頭が当たる度にえづいた。息をすることもままならない。ツバキは苦しさに法衣を掴み、必死に足掻いた。 「んぅ!ぅぅっ!!」 足は石板を蹴るだけで、アガターには届きはしない。 どうにか口から引き抜こうと顔を背けるが、髪の毛を掴まれた。短く腰が律動し、ペニスがビクッと脈打つ。 熱い精液を口内に注ぎ込まれた。 「っう、ぅぇ…ゲホッ!」 むせ返る特有の臭いと苦味。 アガターが射精に満足して退くと、ツバキは咳き込みながら吐き出した。石板に唾液の混じった精液が滴って染みていく。ツバキは口元を拭った。 「あーあ。何やってんだよ」 「だって、こんな…」 過酷な試練でも受け入れると言ったが、誰がこんなことを予想するというのだ。これは只の無理矢理な性行為であり、神聖な儀式には程遠い。 ツバキが欺瞞の目を向ける。アガターは胡座をかいて座っていた。 「これ飲まねえと力分けられないんだよ。それなのによお…」 アガターは失意して溜め息をつく。 本当に儀式だったのか。そうなると、自分は頼んでおいて無下にした無礼者だ。ツバキは申し訳なくておどおどと頭を下げた。 「す、すみません。次は上手くやりますから…」 「聖なる力はそんな簡単に出せるもんじゃないんだよ」 「そこをなんとか…」 ツバキは祈るように両手を握った。気だるそうにしていたアガターがゆっくり距離を詰めていく。 「じゃあ今度は確実な方法でやらして貰うからな」 再びツバキは押し倒された。ゴツンと頭を打つ。 アガターは彼に覆い被さり、ツバキのズボンの上から股間を揉みしだいた。柔らかいそれが、段々とはっきりした輪郭を生んでいく。 何故自分がそうされるかわからず、ツバキは身を捩った。 「あの、何…?」 アガターは下半身の刺激を続けながら、彼の首筋に吸い付いた。次々と花を散らしたように赤くなっていく。ツバキは擽ったくて首を傾げるが、そうすると噛みつかれる。 「いっ、た…」 しかしそれ以上の刺激が彼を襲った。 「っん!?」 アガターはツバキのシャツの上を指でなぞり、目的の場所に辿り着くと無理矢理そこを摘まんだ。平たいそこを引っ掻き、浮き上がらせる。手のひらで胸全体を揉みながら、先端を引っ張った。 柔らかみなどない胸の中で、乳首だけは愛撫で形を変える。アガターは今度はそこに噛みついた。唇で食み、強く吸う。ツバキはぞわぞわする感覚に産毛が逆立つ。ねっとりと唾液を垂らしながら離れると、黒いシャツが濡れてそこだけがなまめかしくツヤツヤしていた。アガターがそこを指で弾く。 「っう…恥ずかしっ……」 「もっと恥ずかしいことするんだから、頑張れよ」 アガターはシャツを捲り上げて肌を露にした。白い胸板の中央だけが、桜色に熟れている。 直接そこを刺激すると、彼の金属製の額当てが肌を冷やす。そのくせ体温は上昇していき、快楽で背が自然と仰け反った。 「んん、ふぅ、っあ…」 喘いでいる間にツバキのベルトが外される。直接腹に巻かれていたそれは、うっすらした腹筋を隠していた。固い腹を撫でながら、ズボンがするりと下ろされる。ツバキはブーツを履いたままなので、脹ら脛で引っ掛かった。 彼の幼いペニスは天井を仰いで震えている。それを撫でるが、ツバキが望む程の愛撫はもたらされなかった。アガターの無骨な手はペニスをすり抜け、尻の割れ目に滑った。普段排泄でしか使われない器官を指でぐっと押される。ツバキはビクッと身を固くした。 「あ、あの…なんでそんなところを?」 アガターは「ああ?」と唸った。 「だからー言っただろ、確実な方法取るって」 ツバキはされるままに儀式を受けていたが、そもそも何をして果たしたことになるのか、もう一度よく考えた。 一回目は口に性器を突っ込まれ、吐き出された精液を飲まないと怒られた。つまりこの儀式は大神官の精液を体内に取り込む必要がある、と推測される。そして今は排泄器官を刺激されている。 ということは―、ツバキはやっと意図を理解して顔が青ざめた。 「無理、です。そんな…!」 「お前魔王倒すんじゃなかったのか?」 挑発されても、流石のツバキも貞操の危機には代えがたい。のし掛かるアガターの肩をぐっと押した。 「魔王は倒したいけど…僕、間違っていました。安易な方法で済ますのではなく、ちゃんと地道に努力します。だから……!」 アガターは舌打ちした。二人は互いを押し合い、力比べになる。 「お前、ここまでやらせといてふざけんなよ」 足を開かせ、無理矢理事に及ぼうとした。しかしツバキも抵抗し、足を閉じようとする。ぐぐぐ、と踏ん張っていたが、若干アガターの方が強かった。足を開かれ、持ち上げられる。 ツバキはギュッと目を閉じた。 「……っ、嫌だ――!!!」 ツバキはアガターの腹を思いっきり蹴った。向こうは腹を押さえてよろめいている。 この隙に逃げようと体を翻す。しかし立ち上がろうとした足首を掴まれた。 ツバキは勢い良く前のめりに倒れた。 「いた…」 「てめえ…いい度胸してんな」 彼の神官らしくないチンピラめいた風格が、更に悪どくなった。どこか邪悪なオーラが背後で燃え上がっている。 この人の方が魔王ではないかと疑いたくなる程だ。ツバキはヒッと息を呑んだ。 「無理矢理にでも儀式するからな」 アガターはツバキの両腕を、先程取った彼のベルトで拘束した。そこから腰を掴み、尻を突き出させる。ズボンは未だに下がったままで、後ろからは性器が丸見えになった。 ツバキは自分の情けない格好に体を丸める。アガターは指を舐め、お構い無しに乾いた入口に指を入れた。 「言っとくけどな、やさーしく転職させてやる気なんてないからな。覚悟しろよ」 優しくも何も、男が男に犯すこと自体が酷い話ではないか。 ツバキの小声の文句は、ぐちゅぐちゅと出入りするなまめかしい音で聞こえない。唾液を何度も足しながら、穴を解していく。恐怖ですぼんでいるがそこは段々と滑りが良くなった。 見計らったアガターはずっと放り出していた杖を取った。何故、今杖が必要なのか。アガターは杖の頭の方でなく、飾りのない尻の部分を向けた。ツバキは肩越しにそれを見ながら、目を見開く。 「あの、まさか…」 「お前が俺じゃ嫌がるからな」 アガターは杖の先をそこに突きつけた。押し返そうとするのを無理矢理進めていく。 内臓が暴かれ、皮膚が裂ける。ひきつる腸に杖の柄が埋まっていった。 「やっ……!」 太さは指とさほど変わらないが、無機質なそれは固く激痛を伴った。 「ぅああ…!いた、痛いっ…抜いて……」 「だってお前、俺じゃ嫌なんだろ?ま、この杖でも力は分けれるから」 アガターは無慈悲に杖をぐりんと掻き回した。 内臓ごと抉られたような感覚に、ツバキは胃の中のものが逆流する思いだった。 「ま、時間はかかるけどな」 アガターの力は何かしら媒介を通して分け与えている。 それは通常の儀式でも同じで、寧ろ杖を使う方が儀式を受ける者も行う者も負担がかからない。今は大量の力を与えるので、直接力を注ごうとしているのだ。しかし今回は極端な例でしかなく、他にも大量の力を与える方法はある。これはどちらかと言うと、彼の趣味だ。 「ひっ…ぅ、ぁぁ……」 杖がズブズブと出し入れされる。内壁が擦れて傷付き、出血もしていた。 傷の炎症による熱もあったが、杖からじんわりと暖かい熱を流されているのもわかった。本当に転職の儀式なんだな、とツバキは思いつつ、この行為に一時も耐えれそうにない。 長くかかると言っていたがいつ終わるのか。せめて少しても早く、少しでも痛みが和らげば―、ツバキは額を床に擦りつけて泣いた。 「大神官様…儀式、最初のがいいです……だから…」 「最初のってなんだよ」 アガターはわざとらしく素知らぬ顔をした。ツバキに覆い被さり、耳元に顔を寄せる。 「ちゃんと言えって」 まるで悪魔の囁きだ。 ツバキは悔しさでポタポタと涙を落とす。歯を食いしばり、震える声を絞り出した。 「だ、大神官様のが、いいです…大神官様のを僕に下さい……」 アガターはニヤリと顔を歪めた。 「良く出来ました」 杖を抜き、自らのペニスを挿入した。既に広がって受け入れやすくなったそこが、アガターを受け入れる。肉同士の摩擦は、より太い物にも関わらず満たされる感覚だった。みち、と埋まるそれに内壁が絡み、ツバキは息を吐いた。 「ふっ、ぅ…ん、んんっ……アガター、様…熱い…」 「さっきちょっと力流しといたからな」 痛みどころか脳が溶け、全身が痺れるような快楽。これも全ては大神官の力だ、とアガターが説明するがツバキの耳にはあまり届かなかった。 それより奥に疼く熱をどうにかして欲しい。その事で頭がいっぱいになっていると、ゆるりと腰が動いた。 「っん、」 それは先程の口淫のように、すぐに激しく腰を打ちつけられた。 「ゃ、ぁ、っあ!アガター様、アガター様……!」 パンパンと肌がぶつかる。ペニスが引く度に惜しむように穴が締まった。 ツバキはもう世界平和のことなど考えていなかった。自分の穴を往復するそれに全神経が集中する。最奥を突かれた瞬間、ツバキはガクガクと痙攣した。 「はぁ、だめ…僕、もう……!」 ツバキは床に射精した。 達したせいで中がぎゅううと締まり、その衝撃でアガターも欲を吐き出す。 「……っ、」 ツバキは床にぐったりと力をなくしていた。 ペニスを引き抜くと、どろりと太股に伝う。本人は放心していて、大きな瞳には何も映していない。アガター満足そうに頷いた。 「ちゃんと転職出来そうだな」 陽が傾き、真上から射し込んでいた光は斜めになっていた。 一方、ぶどう農家ことヒメコが率いるパーティーも国へ戻っていた。彼等が帰国したのも、ツバキと同じ理由である。 「あかんわ〜。ぶどうは収穫出来たけど、魔王倒せる気が全然せえへんもん」 「僕なんかあっちゃんとして何も成してないよ…」 皆それぞれにレベルアップを試みていたが、どう足掻いても魔王を倒す戦士になるのは難しいと判断したのだ。 『やはりもう一度転職して貰った方がいいな』 「俺なんてスライムだからな!せめて人間になりたーい!!」 ボッスンはピョンピョンと小さな体を跳ねさせた。 「でもツバキ君どうしたんだろうね。どこにもいなかったし…」 「あいつのことだから真面目に修行してるんじゃねえの?あの坊主頭でギン!とかしながらさー」 ボッスンが茶化す横で、ヒメコは神殿の門を開けた。そこには丁度人を連れて出ようとしているアガターがいた。 「お、なんだ。お前らも来たのか」 「お前らも、って…他に誰かおるんか?」 「いるだろ、ほら。お前らの仲間」 アガターは横にいた女の肩を引き寄せた。 ピンクのふわふわのワンピースを着て、亜麻色の豊かな髪を靡かせている美少女だ。ぼんやりして五人を見つめている。 こんな美少女が仲間だった記憶はないが、大きな瞳には覚えがあった。ヒメコは信じられない、と言った風に口元をひきつらせた。 「仲間って…」 「ツバキだろ。忘れんなよ」 アガターはしれっと答えた。五人の目が点になる。 「ええええツバキ!?ちょ、あんたなんでそんな格好してるねん!」 ヒメコは指を指し、混乱する頭を抱えた。男性陣は元男ということを知りながらも、美少女に満更でもなく頬を緩ませている。 「転職の儀式。こいつが望んだから最強のジョブチェンジしてやったんだ」 「どこが最強やねん!ふわっふわっやんけ!フェアリーやんけ!こんな奴が魔王倒せるかぁ!!!」 ヒメコがまくし立て、ぜいぜいと息を荒げる。アガターは面倒くさそうに頭を掻いた。 「見た目で判断するなよ。これは俺の嫁という、俺が認めなきゃ転職出来ないジョブなんだからな」 「だからこれでどないして魔王倒すねん!」 「んーまあ見てろ」 アガターは手に持っていた杖を一振りした。 すると、北の暗雲の中で雷鳴が轟く丁度魔王の城の方だ。それは本当に一瞬だった。アガター達がじっと空を眺める。 そこはあんなに覆いつくしていた雲がみるみる内に晴れていき、久しぶりの太陽が顔を出した。ヒメコ達はポカンと間抜けに口を開き、アガターは「よし」と頷いた。 「今ので魔王死んだな」 「嘘つけ―――!!!」 五人は声を揃えた。その大きな叫び声にアガターが顔をしかめる。 「嘘じゃねえって。大神官が嫁を作ったことによって最強の力を手に入れたんだ。疑うなら見に行ってこいよ」 そうは言っても、雲一つない爽やかな青空が何よりも証明している。わざわざ城に行かなくてもいいことくらい、五人はわかっていた。 道行く国民は空を見上げ、聞き付けた人達も家から飛び出した。皆やっと訪れた平和に感銘し、歌い、踊り、喜びを分かちあっている。いつの間にか国はお祭り騒ぎになっていた。 アガターがカッカッカッと高笑いする。 「よーし、今日は平和になった記念に結婚式でもあげるか!な、ツバキ!」 ツバキはコクンと頷いた。街の人達が「おめでとう!」と拍手している。 こうして世界は平和になった。 「なんっっでやねん!!!」 ぶどう農家の痛烈なツッコミが晴天に響いた。 -------------------- カゼノネイロのヒナタさんに嫌がらせをしたブツです!(^O^) 皆様のヒナタさんになんてことを…これは後ろから刺されてもおかしくないレベル…アガタガタガタ。 しかしお優しいヒナタさんはなんとイラストを描いてくれました! これはヤバスです!儀式中のイラストでございます(^^) |