にどど あじわいたくない きおく



上った先は、廊下が続いていた。
……もしかして、こっちが正しい道?


「もう、何が目印なのか分からないよ……」


そう思っていると、誰かが目の前から走ってくる。
って、下っ端か。


「侵入者ね! 私が勝ったらそのポケモン頂くわ!」


目の前に現れたのは女性のギンガ団。
その人が放った言葉に身体がピクリと反応した。


「……人のポケモンを奪う、って?」

「ええそうよ! 因みに私が持っているポケモンも、人から奪ったポケモン」


心臓がバクバクと脈打っている音が聞こえる。
……嫌だ、嫌だ。


『ごめん……、ごめんね……っ』


もうポケモン達に嫌な目に遭わせたくない……!
ポケモンを奪われて悲しむ人を作りたくない……!


『……泣かないで。ぼくが必ず助ける。だから、ナマエはここで待ってて』


泣いてずっと待っているのは嫌だ。
助けられるだけなんて……もう嫌なんだ!


「人のポケモンを奪う人は……悪だ」

「何? 正義の味方のつもりなの? ワレワレは有益にポケモンを使ってあげているだけじゃない。それのどこが悪だって言うの?」

「貴方達がやってることは、ポケモンとトレーナーの絆を引き裂いている……。有益なことなんて何一つない!!」


ポケモンセンターでポケモンがいなくなった、と泣いていた男の子。
あの子が昔の私と重なったんだ。

私は別に正義の味方のつもりでここに来たわけじゃない。
あの子を私と同じ目に遭わせたくない……それだけだ。


「黙って聞いていれば、ウルサイお子様ね……! 大人しくして貰いましょうか! いきなさい、ニャルマー!」


ボールから飛び出してきたニャルマーは、どこか怯えていて、バトルを嫌がっているように見えた。


「……ごめんね」


私にはあのニャルマーのトレーナーを探すことはできない。
この広いシンオウ地方で、あの子のトレーナーを探し出すのは困難だ。

だけど、あのニャルマーをあの下っ端から引き離すことはできる。


「お願い、モウカザル」


ボールから飛び出してきたモウカザルは、床に降り立つと首だけこちらを振り返った。
モウカザルに進化して少しだけ鋭くなったその瞳は「分かってる」と言っているような気がした。


「ニャルマー、”ねこだまし”!」


前に聞いた事がある。
人のポケモンは言う事を聞くまでに時間が掛かると。

下っ端の指示にニャルマーは足を震わせその場から動く様子がない。
ニャルマーは怯えた様子でただモウカザルを見つめていた。


「何よ、言う事を聞きなさいよ!」


あの子はバトルを好まない子なんだ。
だから戸惑い、怯えている。
あの下っ端にも、モウカザルにも……私にも。


「モウカザル、後ろの荷物に向かって”マッハパンチ”!」


下っ端の背後に積まれていた段ボールに向かって、モウカザルが攻撃する。
どうやら埃被っていたようで、少し視界が悪くなる。


「何すんのよ! 片付けるの誰だと思ってるの!?」


……どうやら気づいていないらしい。
私の狙いを。


「って、あれ……ボールが……!」


ハンサムさんがギンガ団は間抜けだから、という言葉を信じて良かった。
どうしてモンスターボールを持ったまま、バトルをしているんだ。
まるで……


「取ってください、って言ってるみたい」

「!」


私の手にあるモンスターボール。
そう、モウカザルがあの小さな混乱を利用して下っ端からボールを奪ったのだ。


「戻りなさい、ニャルマー。無理に従う必要は無いよ」


私がそう言いモンスターボールを向けると、ニャルマーの緊張した顔が少し緩んだように見えた。


「く……っ! だったら! いきなさい、ズバット!」


下っ端は二体目のポケモンを繰り出した。
……あのポケモンは奪ったポケモンではないみたい。
だったら手加減はしない!


「モウカザル、”かえんぐるま”!」


モウカザルの攻撃がズバットに直撃する。
その威力にズバットは吹き飛ばされ、壁に激突して倒れた。


「何よ……お子様のくせに生意気な!!」


負け犬の遠吠えよろしく、下っ端はズバットをボールに戻すと、どこかへ走り去って行った。


「……この子だけじゃない」


ギンガ団は人のポケモンを奪って自分のものにし、無理矢理戦わせている。
それを知ってしまった以上、無視することなんてできない。


「……モウカザル?」


こちらへ歩いて来たモウカザルは、私の顔をジッと見つめている。
……あ、もしかして。


「ごめん、怖かったかな。……違う?」


さっきの私はいつもの自分じゃなかったのは自覚している。
頭に血が上っていて、冷静じゃなかった。
だから怖かったのかなと思ったけど、どうやら違うらしい。

モウカザルの目線に合わせるように屈むと、頭の上にポンッと何かが置かれた。
それは優しい手つきで私の頭を撫でたのだ。


「……ありがとう、モウカザル」


私の頭に乗っているもの……モウカザルの手を取った。
その温もりが、段々と私を冷静に戻してくれた。





2022/2/4


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