きみの ういじん



「ギンガ団は世界を飛び越え、宇宙に羽ばたく集団!」

「ようこそ、ギンガ団へ。君たちもポケモンをくれるのかい? ……なに? くれない? だったら帰りたまえ! 自転車屋の親父のように痛い目に遭わせるぞ!!」


ハンサムさんがギンガ団は間抜けだと言っていたけど、ここまで簡単に情報が入手できるとは。

ここに自転車屋の店長がいるのは間違いないようだ。
私とコウキ君は一度顔を見合わせて頷いた後、階段前にいるギンガ団の目の前を通り過ぎようとした。


「ワレワレはすごい事をするため、ポケモンを集めているのです。ジャマはさせません!」

「悪いけど、ギンガ団はお子様を仲間にしないわよ!」


そんなの、こっちから願い下げだ!
そう思いながらボールを構えた。


「行きなさい、ニャルマー!」

「いけ、スカンプー!」


相手が繰り出したのは、ニャルマーとスカンプーだ。


「ゆけっ、モウカザル!」



コウキ君はモウカザルを繰り出した。
よし、私も……そう思ったときだ。


「えっ!?」


急にボールから飛び出してきたのは、スボミーだった。
まさか、戦うってこと……?


「……いいの?」


屈んでスボミーにそう尋ねる。
こちらをまっすぐ見つめていたスボミーは、こくりと頷いた。


「よし! がんばって、スボミー!」


スボミーは私の元からモウカザルの隣へと移動した。
その後ろ姿はどこか緊張しているようすだ。
ろくに実践を積ませてあげていないし、まさかぶっつけ本番のような感じになるとは思わなかった。


「弱そうなポケモンね! ニャルマー、スボミーに”ひっかく”!」

「スカンプー、スボミーに”みだれひっかき”だ!」


スボミーに集中攻撃!?
これが弱いもの苛めってやつね……!

でも、そっちの思い通りになんてさせないんだから!


「スボミー! どっちでもいいわ、近づいてきた相手に向かって”しびれごな”!」

「モウカザル、”かえんぐるま”でスボミーをサポート!」


モウカザルが”かえんぐるま”でスカンプーに突進し、スボミーから引き離してくれた。
こちらへ向かって来たニャルマーが”しびれごな”をもろに受けてしまい、まひ状態となって動けなくなった。


「スカンプー!」

「ニャルマーッ!?」


スカンプーはモウカザルの攻撃で戦闘不能になったようだ。
ニャルマーは”しびれごな”の効果が聞いているのか、その場でしびれて動けなくなった。


「さ、まだまだお返しはこれからだよ!」



・・



「ジャマをされました……」

「お子様のくせに!」


そう言ってどこかへ走り去って行く下っ端達。
……やった。


「やったよっ、スボミーっ!」


初バトルで勝利!
コウキ君のモウカザルの支援があったとはいえ、あれだけ怯えていたスボミーがバトルを最後まで勝ち抜いた。
それが誇らしいんだ。


「ナマエさん、ここ敵のアジトですよ!」

「あ、そうだった……」


思わずスボミーを抱き上げてしまい、しかも敵のアジトだというのに喜んでしまった。
小声でコウキ君が指摘してくれたけど、既に遅し。


「いたぞ! 侵入者だ!」


奥から別の下っ端達が現れ、ボールを投げてポケモンを繰り出した。
これは逃げられないな。


「……ゴメン」

「いえ、気持ちは分かりますから大丈夫です……」


完全に気を使わせてしまっている。
苦笑いしているコウキ君にもう一度謝罪の言葉を口にして、ボールを構えた。



***



「ふぅ、なんとか全員追い返せましたね」

「ほんっとうにゴメン……。敵陣の中なのに緩みすぎだよね、私」

「ナマエさんの所為というより、倒した下っ端達が仲間を呼びに行っているように見えましたけど……」

「そうなの? なら、早く店長さんを見つけてここから出なくちゃ」


私達の目の前には、下っ端2人が見張っていた階段。
もうひとつの階段には見張りがいないようだ。


「どうします?」

「私は見張りがいたほうが正解のように見えるけど」

「ボクもそう思います」

どうやらコウキ君も同じ事を考えていたらしい。
だって見張りがいるってことは何か大事なものがある、ってことにならない?


「……でも、何かあってからじゃ遅い。ハンサムさんには悪いけど、二手に分れよう。コウキ君、見張りのいなかった階段に行ってくれない?」

「いや、ナマエさんが行ってください。ボクがこっちに行きます!」

「ダメだよ! 危険な目に遭っちゃったらどうするの!」

「いいえ! ナマエさんに何か遭ったらいけないのでボクが!!」


互いに言い争いをして5分間。
纏まらないし、ただの時間である。
というわけで、じゃんけんで決める事になった。


「「じゃんけん……ポン!」」


私が出したのはチョキ。
コウキ君が出したのはパーだった。


「よし! コウキ君、向こうをお願いね!」

「むー……。何か遭ったら絶対に逃げてくださいよ!」


不満そうなコウキ君に口酸っぱく言われた後、互いに階段へと足を進めた。



***



2人の下っ端がいた階段を上った私。
そこに広がったのは……


「うげぇ」

「うげぇ、とはなんだ! うげぇとは!」


下っ端一人と、明らかに行き止まりだという間取り。
……どうやらこちらがハズレのようだ。


「ワレワレの目的はとてもすごい! すごすぎて俺には分からないが、ジャマするヤツは許さないぞ!」

「すごすぎて分からないって……意味分からないんですけど」

「うるさい! お子様にはここで帰ってもらう!!


そう言って下っ端が繰り出してきたのは、見た事の無いポケモンだった。
図鑑を取りだして、ポケモンに向ける。


「グレッグル……どく・かくとうタイプなんだ」


どこか気怠さな様子のポケモンの名はグレッグルという。
エスパータイプだったらどくとかくとうタイプだから効果抜群なんだけど、生憎持ち合わせていない。

だからここは、かくとうタイプ有利である君だ!


「いけ、ムクバード!」


投げたボールから飛び出してきたのは、ムクバードだ。
声高らかに鳴いた後、グレッグルと対面する。


「いくよ、”つばさでうつ”攻撃!」

「!?」


ムクバードに進化し、攻撃力に磨きがかかったようだ。
そのお陰なのか、相手のグレッグルを一撃で戦闘不能にしてしまったのだ。


「ゆ、許してください……」


グレッグルをボールに戻した途端、下っ端はものすごい速さで階段を降りていった。


「なんかどこまでも雰囲気が似てるなぁ……」


初めは強気だったのに、負けた途端弱気になって逃げるなんて。
テレビCMとかで良い人風に装っているみたいだけど、やっぱりやってることは悪いことなんだ。


「……って、こんな所にいる場合じゃない。コウキ君の方へ行かないと!」


ムクバードをボールへ戻し、コウキ君の上った階段へ向かう。
上った先では、丁度バトルを終えたらしいコウキ君の背中が見えた。


「コウキ君!」

「ナマエさん! どうやらこっちが正しい道のようです!」

「みたいだね……」


どうやら目印は下っ端のいる場所ではないらしい。
一体何が目印なんですか、ハンサムさん……。


「ではボクは億の階段に行きます」

「じゃあ私は手前の階段ね。了解!」


コウキ君と別れ、私は手前の方にある階段へ向かう。


「……?」


階段に上ろうとしたとき、何か張り紙が貼ってあることに気づく。
何々……”我々と共に歩もう ギンガ団”?


「胡散臭いなぁ……」


そう思いながら今度こそ階段を上った。





2022/2/4


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