スボミーの さいしゅうしんかけい
「スボミーかー！ 懐かしいなぁ、ロズレイドがスボミーだった頃を思い出すよ」
私の隣にいるスボミーを見て、ナタネさんは懐かしそうにそう口にした。
あのロズレイドはスボミーから育て上げたポケモンだということだ。
……中々手強い相手だ。
でも、相手にとって不足はない！
「いくよ！ ロズレイド、”どくばり”！」
「ムクバード、”かげぶんしん”！」
相手の攻撃を少しでも惑わすためムクバードに”かげぶんしん”を指示したが命中してしまった。
「……あの感じ、紛れで当てているようには見えない」
ジムリーダーのポケモンであり、且つナタネさんが切り札と称したポケモンだ。
実力はかなり上だろう。
なめてかかれるような相手ではないのは間違いない。
「邪魔な影を消していこうか！ ”マジカルリーフ”！」
「！」
ロズレイドの”マジカルリーフ”によって、作り出した影が全て消されてしまった。
……”かげぶんしん”による囮作戦は愚策かな。
「だったら正々堂々と！ ムクバード、”つばさでうつ”攻撃！」
「来ると思ったよ！ ”どくばり”で迎え撃て！」
今のムクバードは”やどりぎのタネ”の効果を受けた状態だ。
これ以上追加ダメージを増やしたくない。
その思いで”どくばり”を躱したくてムクバードに”かげぶんしん”を指示した。
……でも、”かげぶんしん”は””マジカルリーフ”によって無意味にされてしまう。
だったら相打ち覚悟でぶつかるしかない！
「ムクバード、大丈夫！？」
ムクバードは”どくばり”を受けて”つばさでうつ”を決めた。
お陰で両者にダメージが入ったわけだが……。
「……！」
ナタネさんが狙っていた、とでも言うような表情でムクバードを見ていた。
対する私はやっぱりか、とナタネさんの狙いが確信に変わった。
ムクバードは”どくばり”によって、どく状態を付与されてしまったのだ。
「ダメージ量はこちらが多いけど、”やどりぎのタネ”の効果と”どくばり”の追加効果によるどく状態。……お互い、まずい状況だね」
そう。
ナタネさんが”どくばり”を連発して指示していたのは、ムクバードをどく状態にするため。
そして、彼女の狙いは叶えられたのだ。
「ふふっ、楽しくなってきたね！」
「……ええ。でも、勝たせて貰います！」
ムクバードに進化して、自信に溢れている彼となら勝てる！
例え、こちらが劣勢しているように見えていても！
「ロズレイド、”くさむすび”！」
さあ、ここからが正念場！
と思った所で、ムクバードの足に草がからまった。
飛び立とうとしたムクバードはそれに足を取られ、地面へ転けてしまった。
「”くさむすび”……？」
またもや聞いた事のない技だ。
そう思っていると、ナタネさんが口を開いた。
「”くさむすび”は相手を転ばせる技。だけど、ポケモンの体重が重いほど威力があがるの！」
ポケモンの体重で威力が変動する技、か。
ということは、”けたぐり”と同じ効果を持つ技って事だね。
「空中には逃がさないよ」
ナタネさんがこの技を使ってきた理由は、先程技の説明をしていただいたお陰で分かった。
ムクバードから空という逃げ場を奪い、毒と”やどりぎのタネ”のダメージを重ねつつ戦闘不能にする気なんだ。
「……ムクバード、立てる？」
私の呼びかけにムクバードは苦しみながらも返事をした。
……これが最期のチャンスだ。
ここで逃したらもうムクバードは戦えない。
「さあ決めるよ！ ロズレイド、”くさむすび”！」
「ムクバード、飛んで！！」
ムクバードが翼を広げる。
ロズレイドの”くさむすび”が直撃する……と思った瞬間、間一髪でムクバードは空へと逃げたのだ。
思わず「ナイス！！」と声が出てしまったけど、ムクバードが嬉しそうに一鳴きしたため気にしないことにする。
「これで決めるよ＿＿＿”つばさでうつ”攻撃！」
私がムクバードへ指示を出した時だ。
まるで私が何を指示するか分かっていたかのように、ムクバードが”つばさでうつ”の体勢に入ったのだ。
「ロズレイド、”マジカルリーフ”で迎え撃つよ！」
ロズレイドの”マジカルリーフ”がムクバードへ飛んでいく。
しかし、ムクバードはそれを躱しつつ、追ってくるはっぱの距離を保ちながらロズレイドへと飛んで行くではないか！
「嘘……！？」
ムクバードの攻撃がロズレイドへと直撃。
ロズレイドはその衝撃で後ろへ吹き飛び、フィールドへ倒れた。
「ロズレイド……？」
私の目の前に降り立つムクバードを視界に入れつつ、倒れたロズレイドを見つめる。
そして、ナタネさんがボールを取りだした。
「……お疲れ様、ロズレイド。貴女の勝ちだよ、チャレンジャー」
ナタネさんの言葉に口元が緩んで行く。
その衝動を抑えきれずムクバードへと走り出すまで数秒前。
そして、「どく状態だから近付くな！」とムクバードに怒られるまでもう少し。
＊＊＊
「いやあ、コウキ君から聞いてはいたけれど、貴女強いね！」
「あ、ありがとうございますっ」
「あの強さはそれだけ愛情を注いで育てているって証拠だもの。それに、ポケモンの行動から貴女を信頼しているってすぐに分かっちゃった！」
ナタネさんの言葉は、前にレッドが言っていた事と似ている気がした。
あ、レッドにバッジとった報告しないと。
「それを認め、これをお渡しします！」
ナタネさんから手渡されたのは、名前の通り森のようなデザインのジムバッジだ。
……もしかして、ハクタイの森からデザインされたのかな。
「どうたったかな？ 私のロズレイドは」
ナタネさんは屈むと、私の足下にいるスボミーへ話しかけた。
ロズレイドが出てきた瞬間、突然ボールから飛び出してきたスボミー。
私はムクバードの事でスボミーの事を相手できなかったけど、どうだったかな。
彼にとって有益なものだったといいんだけど。
「このスボミー、すっごく小さいね」
「それ、ジュン君……あ、コウキ君の幼馴染の子にも言われて」
「ジュン君ね。うん、あのせっかち君でしょ？ 知ってる、知ってる。元々スボミーは小さなポケモンではあるけど、この子は本当に小さいよ」
あ、ジュン君はもうここのバッジ取ってたんだった。
知っていて当然か。
「初めて会った時、野生のポケモンに襲われていたんです。だから、まだ子供なのかなって思って」
「うーん、そうねぇ。でも、ひとりでいたのなら独り立ちしている証拠だと思うんだけど……。ま、今は貴女がいるから安心ね！」
ジムバッジをバッジケースに入れ、スボミーを抱きかかえる。
ナタネさんも屈んでいた身体を起こして、私と対面する。
「でも、流石にバトルできるようにしておかないとこの子の為にならないかもね。つらいけど、それがポケモンとしての在り方に近いから」
「私もそこは認識してます。今はバトルを見学させて、どんなものなのかを学ぶ時期だと思っているので」
「うんうん。貴女、本当にポケモンのことよく見てる！ それなら心配する必要もないね」
ナタネさんと少し話し込んだ後、くさむすびの技マシンを頂いた。
それを見てスボミーが興味津々だったから、後で覚えたいのか聞いてみようかな。
2022/2/4
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