おさななじみの レッドが あらわれた!



クチバシティまでお母さんと向かう。
ポケモン達は家でお別れをしてきたから、二人っきりだ。


「誰も連れずに行くの?危険じゃないかしら……」

「向こうに着いたら案内してくれる人が待ってくれているらしいの。だから大丈夫だよ」

「それならいいけど……」


船は二日掛けてシンオウ地方へ向かう。

博士によると、向こうの地方にいる『ナナカマド博士』が私を歓迎してくれるらしく、ナナカマド博士の助手が出迎えてくれて、更にナナカマド博士の研究所まで連れて行ってくれるのだろと言う。



「___レッド君とグリーン君に会わなくて良かったの?」



レッドとグリーンは私の幼馴染みであり、同じ日にマサラタウンを旅立った。
でも、私は初めから黙って出ていくつもりだった。


「……二人の邪魔したくないし。そもそも、私なんて二人の視界に入ってないだろうし」


私は二人の後を追っていただけだから。
きっと二人は何とも思わないよ。


「……そう。じゃあ私は帰るわ」

「もし、二人が何か尋ねてきたら言っておいて。今はカントー地方にいないって」

「わかったわ。偶には連絡して頂戴。そのためのポケギアなんだから」

「うん」



そう言ってお母さんはこちらに背を向けて、出口まで歩いて行った。

実は、お母さんは仕事に行くついでで私をここまで連れてきてくれたのだ。
ヤマブキシティで働いているらしい。何の仕事なのかは聞いたことないけど。


「まだ時間あるな……。あ、そうだ」


私は近くに設置された椅子に座ってカメラを起動する。

昨日撮った、ポケモン達との写真だ。
実は写真を撮ることが趣味だったりする。

……そうだ。いろんな地方の写真を撮りたい。
それぞれの地方のアルバムも作りたいな。


「……あ」


とある写真が目に入り、ボタンを止める。
そこに映っていたのは、唯一三人で撮った写真だ。

25番道路の高台で、金色に輝く橋を背後にカメラ親父と名乗る人物に撮って貰った写真だ。
私を真ん中にレッドとグリーンが両サイドに映っている。
レッドは相変わらず無表情だし、グリーンは決めポーズをとってる。
私はシンプルに両手をピースにして顔の近くに当てている。

何だか笑いがこみ上げてきた。


「……懐かしいな。もう二年前か」

「そうだね」

「うん。…………えっ!?」


後ろから聞こえた声に大きく驚きの声をあげる。



「久しぶり」

「レ、レッド!?」



後ろを振り返ると、そこに居たのは幼馴染みの一人、頭にピカチュウを乗せたレッドがいた。


「な、なんで此処に…?」


前にレッドのお母さんと話したとき、どうやら彼は一度も連絡をしていないらしい。
私も約一年ぶりに彼の顔を見た。

無表情なのは変わらないが、少し顔立ちが大人っぽくなった気がする。
レッドが無表情の代わりにピカチュウの表情はコロコロ変わる。……ピカチュウに表情筋取られたのでは…。


「昨日、博士のところに向かっていたらナマエの声がして、全部聞いた」


どうやら昨日私が家の庭でポケモン達と会話しているところを聞いたらしい。……って、え?


「帰ってきてたの!?」

「一瞬だけ」

「その一瞬の間に少し時間を作って、お母さんに会ってあげてよ…」


レッドの言葉に、レッドのお母さんが可哀想に思えてきた……。
いつも心配そうにしているんだよ?


「どの地方に、行くの」

「シンオウ地方だよ」

「遠い」

「うん、遠いね」


レッドは基本無口だ。
そして、話す言葉の文字数が少ない。短すぎるのだ。


「……ねぇ、なんでシンオウ地方に行くの」

「行ってみたいからじゃ、ダメ?」

「ダメ」


私の言葉に即答で返したレッド。
駄々をこねる子供かッ!?


「……危険かも知れないよ」

「旅にはつきものでしょ?」

「……助けに、行けない」


そう言ってレッドは私にくっついてきた。……くっついてきた!?
そしてそのままレッドの方へ引き寄せられる。


「……いかないでよ」


そう言ってレッドは、私の肩に顔を埋めた。
まだ少し私の方が身長が高いだろうか。

いつも言葉に抑揚がはっきりせず、感情がこもっていないように聞こえるのに、今の言葉は本当に寂しそうな声音だった。


「……私ね、やっと旅する理由見つけたの」

「……」

「ある人から聞いた話に感激して。カントー以外の場所を旅したくなった」

「……っ」


私が言葉を出す度に、お腹に回った腕が締まってきている気がする。


「レッドがチャンピオンを目指したように、私もいろんな地方を見てみたい。同じような気持ちだと思う」

「……」

「それでも、ダメ?」


お腹に回っているレッドの腕にそっと触れる。


「……絶対、危険な事に関わらない」

「うん」

「約束」

「うん。約束」


暫くしてレッドの腕から解放された。
レッドは気にしていなかったようだが、周りの目がすごかった。マイペースだなぁ。



「じゃあ、いってきます」



___レッドに見送られて私はシンオウ行の船に乗った。
レッドは手を振る私を見上げていた。





2021/08/11


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