対 御影専農中



「…あれ、鬼瓦のおっさん何処行くの?」


隣で動く影を見て、そう声を掛ける。


「用事が出来たんでな。悪いが俺は此処で抜けさせて貰うぜ」

「あ、そっか。刑事さんだもんね。急に仕事とか入ったりするか」


まあ刑事なんてテレビドラマくらいでしか見たこと無いけど。
……そもそもドラマあんまり見ないんだよね、僕。


「あ。そういえば僕名前言ってなかったよね」

「そうだな」

「なら、ちゃんと自己紹介しないとね!」


「雷雷軒の常連客繋がりでさ!」と言って、身体ごと鬼瓦のおっさんを見る。


「僕は苗字名前!お仕事頑張ってね、鬼瓦刑事!」


「今度は雷雷軒で〜!」と言って、鬼瓦のおっさんに手を振る。
鬼瓦のおっさんは一瞬驚いた目で僕を見たが、「ああ。また、雷雷軒でな」と言ってその場を去って行った。

……あ、僕がおっさん呼びしなかったから驚いたのか。
やっぱりおっさん呼びの方が良かったかなぁ。


「さてさて、試合はどうなってるかな〜?」


振り返って、フィールドの方へと視線を向けると、丁度キャプテンさんがボールを前線にいる豪炎寺修也に向かって投げている所だった。

あの体勢は、“ファイアトルネード”か。
そう思っていると、豪炎寺修也がボールを放つ瞬間に誰かが割り込んできた。
それは、御影専農のエースストライカーさんだった。


「バカ…ッ!なんでそんな行動を……!」


御影専農のエースストライカーさんと豪炎寺修也は、勢いよく地面へと落下した。
あれは絶対足を痛めてる…!
いくらゴールを守るためとは言え、あんな行動普通しないだろ…!

砂埃が立ち、二人の状態が確認出来ない。
やっとの事で晴れ、そこに現れたのは二人重なった状態で倒れている御影専農のエースストライカーさんと豪炎寺修也だった。
御影専農のエースストライカーさんは頭で御影専農のキャプテンさんに弱々しいパスを出した。


「……大丈夫、かな」


人が怪我した光景は余り見たくない。
あれくらいなら命に別状はないだろけど…っ


『兄さんッ!!!』


思い出したくない記憶がフラッシュバックし、壁に手をつく。
大丈夫、大丈夫…!
大怪我を負ってはいるが、ちゃんと生きてる。
落ち着け…っ、落ち着け…!


「…はぁ、はぁ…」


やっとの事で落ち着きを取り戻し、フィールドを見る。


「…!」


なんと、御影専農のキャプテンさんが一人で上がっていっているではないか。
その行動は、間違いなく雷門のキャプテンさんの行動に感化されたもので。

御影専農のキャプテンさんが渾身のシュートを放つ。
それを雷門のキャプテンさんは、あの巨大な手の必殺技で完璧にキャッチした。

そこで鳴り響いたホイッスル。

1-2
雷門中の勝ちで試合は幕を下ろした。


「…おめでとう、雷門」


いつも通り、彼らの勝利を祝う言葉を送り僕は観客席を後にした。
あれ以上あの場にいたら、きっと僕は正気でいられなくなる。

分かってる。あれは兄さんではないのを。
だけど、一度見たあの光景は僕から離れてくれなくて。


「…っ、しっかりしろ」


首を振って嫌な記憶を吹き飛ばし、御影専農中を後にした。
その日は曲を聴いて帰る気になれなかった。





2021/02/18


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