対 御影専農中
あの日から雷門中サッカー部を河川敷で見なくなった。
1日目は場所を変えて何処かで練習しているんだろう、と思っていたんだけど……。
「…まさか、練習を止めた?」
あの決闘を挑んで、勝てないと思ってしまったのだろうか。
……期待外れだったかな。
その次の日も、サッカー部は河川敷に現れなかった。
その影響なのか、偵察隊もいなくなっていた。
病院に行くため一度帰宅して私服に着替えてから外に出たが、やはりサッカー部はいなかった。
「……期待、し過ぎたか」
そう思って病院へと足を進めようとした時。
「あら、サッカー部なら校内にいるわよ?____苗字名前さん?」
後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
…まって、今の格好は髪を下ろしているし、私服だ。
って、この声知ってるぞ。しかも最近聞いた。
「…! あんたは……!」
「野生中ぶりね」
「……雷門夏未」
この学校の理事長の娘、雷門夏未だった。
例のあの黒い車に乗っていて、後ろの席の窓を開けてこちらを見ていた。
「我が校の生徒ならば、応援には制服で来なければならないでしょ?」
「洗濯してたんだよ」
「あらそうなの?なら仕方ないわね」
これは本当の事だけど、そうなった原因は僕が洗濯に出してなかったからである。
視線が合っている雷門夏未は、疑っているような視線を向けている。
「そういえば、貴女に訊きたい事があるのよ」
「なに?」
雷門夏未の声にそう答えて、目を合わせる。
「___何故サッカーを辞めてしまったのかしら、“光のストライカー”さん?」
その言葉に目を見開く。
「……あんた、サッカーに興味なかったんじゃないの」
「気になってしまったんだもの。だから調べっちゃった」
クスクスと口元に手を当て上品に笑う、目の前のお嬢様。
「……なんであんたに言わないといけない訳」
「言いたくないなら別に良いわよ。でも、理由は推測できるわ」
逸らしていた目を、再び雷門夏未に向ける。
……そこまで言うなら訊いてやるよ。
「へぇ、なら言ってごらんよ」
「じゃあ回答させて貰うわ」
一息置いて、雷門夏未は閉じていた目を開け、僕を見つめた。
「貴方が小学5年生最後の日に出場したサッカーの世界大会で、貴方の兄『苗字 悠』が倒れた事。……これが、1番の要因でしょう?」
「!!」
雷門夏未の回答に目を開く。
「もっと細かく答えても良いかしら?」と言っておきながら、雷門夏未は僕の許可をとらずに言葉を続ける。
「そして、その試合でお兄さんを侮辱された貴女は激怒。その試合で出た怪我人は過去最高人数……。圧倒的な強さに相手は手も足も出なかった。それでも、その試合結果は日本代表の敗北で終わった……」
つらつらと言葉を言い続ける雷門夏未に、段々と苛立ちが生まれる。
「お兄さんは運動できない身体になってしまい、サッカーをする事が出来なくなった。だけど、貴女は怪我も何もないのに、どうして世間では貴女は怪我をしてサッカー界から姿を消した事になっている。……実際は逆なのに、どうしてそう言う噂になってしまったのかしら」
「……あのさ」
僕の低い声に雷門夏未が少し驚いた反応をみせた。
「そんなに僕の事調べて、どうしようっていうの?」
「だって貴女、サッカー部の試合全部見に来てるじゃない。うちのサッカー部に入りたいって思ってると思って」
「あんな弱いチーム、興味ない」
「……それは本当かしら?」
雷門夏未が放ったその言葉に、我慢していた怒りが爆発した。
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2021/02/18
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