微かな光が光輝になるまで



『あの必殺技、”ホーリードライブ”って名前にしたんだな』

『うん! けど、名前を考えてくれたのは兄さんなんだ』



剛兄さんの質問に対し、そう答えた後。僕は兄さんをちらっと見た。
僕の目線に気づいた兄さんは首をかしげて『何?』と言っているように見えた。



『なんだよ、もう必殺技使える奴が2人も出て来たのかよー!』

『正しくは俺がいるから、名前と剛を入れて3人だな』

『じゃ、4人目は僕が貰おうかな』

『んだとー! 悠さん、俺にも必殺技教えてくれよ!』

『分かった、分かったから落ち着けって、真太郎。翆と颯太も真太郎を煽るんじゃない』



そんなこんなで今日の練習が終わり、それぞれが帰路を辿る。
僕と兄さんは当然、一緒に帰宅したわけだが……。



『名前〜〜〜っ』

『わっ!? どうしたの兄さん?』

『お兄ちゃんを助けてくれぇ〜〜〜』


夜。
やることを終えてのんびりしていた僕の元に兄さんがやってきた。どこか疲れた様子で僕の身体にのしかかってきた兄さんに戸惑いつつも、何を助けてほしいのか分からず首を傾げる。


『いいけど、何を助けたらいいの?』

『あぁ、そうだった。大事な目的の方を言い忘れてた。……これ、なんでしょ?』


僕から離れた兄さんは、次に僕へ1枚の紙を差し出した。
僕はそれを受け取り、内容を見る。


『……これって、みんなの能力をまとめたメモ?』

『まあそうなんだけど、下の方を見てみて』

『下? ……なんか細かく書いてある、手順みたいにも見えるけど……』

『実はそれ、みんなの能力をもとに考えている必殺技考案メモなんだ』

『えっ!?』


僕が持っていたのは、真太郎の能力・その能力をもとに考えられた必殺技案がまとめられたメモだった。
そのメモと思われる紙は、兄さんの後ろにある机の上に残っている。まさか、全員分あるの……!?


『外野から見て得る情報もあるけど、内野から見ることで分かることもある。というわけでさ、キャプテン』

『は、はいなんでしょう!』

『お前から見た視点で、チームメイトについて教えてほしいな?』


大好きな人から頼られる。
それがどれだけ嬉しいことか。

僕は兄さんのお願いに精一杯答えた。



『なるほどね……。名前も結構観察眼が鍛えられてきたんじゃないか?』

『本当!?』

『ああ。今聞いた内容、外野から見たときは少し気になる程度だったんだけど、名前が教えてくれたことで改善点だと気づけた。___ありがとう』



兄さんはすごい人だ。
僕と2歳しか変わらないのに、まるでプロのサッカー選手のようなことができる。こんな人を周りは”天才”と言うんだって思うよ。

そんなすごい人からお礼を言われたんだ。
……僕だって、少しは憧れの兄さんすごい人に近づいているんじゃないかって思ってしまった。


『それじゃあ、次は連携技を考えよっか』

『えぇ、まだ考えるの? 僕、もう寝たいよ……』


けど、さすがにぶっ続けで僕以外の10人について話すのは疲れるし、今日も練習終わりで疲れているからもう寝たかった。

そんな僕が一瞬で目を覚ますほどの発言を、兄さんは零した。



『そう言わずにさ。俺、名前との連携シュート考えているんだけど、興味ない?』

『ある!!』



必殺技っていうのは勿論だけど、何よりも兄さんとの技。それを聞いた瞬間、さっきまでの眠気が一気に吹き飛んだ。


『お、おぉ……じゃあ、俺の考えているものを聞いてほしいんだけど』


そう言って兄さんは、別のところに置いていた1枚の紙を取り、僕の視界に入る場所に置いた。
それを見ながらふと、僕はあることに気づいた。


『ねぇ、兄さんは必殺技使えるの?』


あの日、翆兄さんとの勝負で必殺技を初めて知った僕に謝るそぶりを見せた兄さん。あの時の兄さんを見て、僕は兄さんは必殺技を知っている、ということしか思ってなかったけど、そもそも必殺技を使えるのか、ということを聞いていなかった。

なので兄さんに聞いてみたんだ。


『あれ、見せたことなかったけ。じゃあ機会があったら見せてあげるよ』


じゃ、話を戻そうか。
そう言って兄さんは、僕と兄さんの連携技について考案したメモに視線を落とした。


『まずは二人同時にボールを蹴り上げる。この時点で二人分のパワーがあるから、威力は上がってる』

『うん』

『けど、まだまだ威力を上げるぞ。次に上へ上げたボールを追いかけて俺たちは飛ぶんだ』


兄さんの言葉を聞きながら、どんな風になるのかイメージする。まぁ、小学生での想像なんて豊かじゃないから単純なものだったけれど、それでもワクワクしたことは良く覚えている。

それほどに、兄さんとの連携技が楽しみで仕方なかったんだ。


『そして、ここで同時に蹴ると……二人分のパワーを持った技が放たれるんだ』


兄さんは簡単に図を描いて説明してくれていた。それを見ながら自分で想像したんだ……兄さんと共にその必殺技を打ち、点を取る光景を。



『この連携技の名前は”ツイン・エンジェル”。天へ舞い上がった二人の天使による裁きの輝き。それがこの技だよ』



兄さんの言い回しは好きだ。
だからなのかな、僕もちょっと移ってるところはあるんだよね。ま、気にしてないし、そもそも好きだからやってることだけれど!


『俺は闇の力、名前は光の力。その二人が合わさったシュートは間違いなく強力だ。成功すればの話だけど……名前、聞いていて思ったことはないかい?』


兄さんの説明は続いている。
そんな中、兄さんが僕にそう尋ねた。……質問の意味は分かっていた。


『……この技、難しいんじゃないかって聞いてて思った』

『その通り。なぜならこれは、俺の願望を強く受けたものだからね』


難しすぎるのだ。
けど、協力だからこそ、成功すれば強い。

……昔の僕ならためらっていただろう。
けど、過去を乗り越えた後だった当時の僕には。


『絶対にやろう、兄さん!』


兄さんとの連携技をやりたいという気持ちを置いていても、サッカーにおいて自信に満ちていたんだ。


『……! 名前、いいのか?』

『もちろんだよ! その技ができたら、絶対すごいシュートになるもん。誰にも止められないかも!』

『ははっ、大げさだな。けど、それを実現するには俺たちの息とスピードがあっていないといけないんだ。きっとパワーも偏りすぎたら失敗すると思う。……つらい道のりになるけど、それでもやるかい?』


これは兄さんからの最後の問いだ。
ここで断れば話はなかったことになる。……けど、僕にはそんな考えは1ミリもなかった。


『うん! 僕は何よりも、兄さんとの連携シュートが打ちたいから!』

『……ありがとう、名前。俺のわがままを聞いてくれて』


ぎゅっと抱きしめられた僕。兄さんのぬくもりに包まれて、嬉しい気持ちでいっぱいだ。


『僕、兄さんのわがままなんて聞いたことないよ?』

『お兄ちゃんは弱い部分を見せたくないの』

『どうして?』

『そりゃあ……妹の前ではかっこよくいたいだろ』


この時の兄さんの顔は見えなかったけど、耳が赤かったことだけは覚えてる。
それほどに兄さんにとって、”ツイン・エンジェル”をやりたかったのだと分かるんだ。


___この時兄さんが考案した”ツイン・エンジェル”は、後に僕が”光輝く天使”と言われるようになった技……”シャイニング・エンジェル”となることを、幼いころの僕と兄さんは予想していなかっただろうな。



微かな光が光輝になるまで END





2024/04/29


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