微かな光が光輝になるまで



『名前ちゃん、大丈夫かなぁ……』

『なんで心が弱気になってるんだよ』

『だってあの子、怖そう……』


僕がアップしている中、聞こえてきたのは心兄さんと音也兄さんの会話だ。どうやら僕を心配してくれているみたいで。


『大丈夫だよ心兄さん、音也兄さん。絶対に勝つから!』


ちょっとムカつくっていうのは否定しないけど、何よりも兄さんに選んでもらえた。それが当時の僕のやる気となっていたんだ。


『その意気だぜ、名前!』

『負けたら許さないよ』


僕が心兄さんと音也兄さんに言った言葉を拾ったのは、真太郎と颯太だ。


『名前ちゃんは強いから大丈夫!』

『頑張れキャプテン』


次に声をかけてくれたのは、空と亜久だ。
な、なんだよ急に……照れるじゃん。そうは思ってたけど、口には出せなかった。


『照れ屋なところは昔から変わってないな』

『に、兄さん』


兄さんの声が聞こえ、そちらへ振り返れば、そこには姿が見えなかったメンバーと共に兄さんが立っていた。


『そんな妹に、試合前に一言___勝ってこい!』


ニッと笑った兄さんからの言葉に、全身に何かが走る感覚がした。
きっとこれはやる気と期待にこたえたいという気持ちだ。



『___はいっ!!』



その気持ちを持ったまま返事したその声は、今までの中で一番気持ちの良いものだった。



***



『そういや、あんたの名前聞いてなかったな。俺は「海川うみかわ すい」だ! 覚えておけよ、生意気!』

『僕は苗字名前! そっちこそ覚えてよね……君を倒す相手ってことで!』

『こんのぉ……!』


場所は僕たちがよく練習場所に使用しているサッカーゴールが設置されたグラウンド。ここが僕たちの勝負するフィールドだ。

互いにポジションに着いたところで、少年……海川翠を見る。



『ボールは先に取ったものが所有権……持ちボールになる。先にゴールを決めた方が勝ちだ。それじゃ……はじめ!!』


兄さんがそう告げた後、ホイッスルの音が響いた。
それを合図に僕は動き出す。


『!』


___もらった!!


そう思いながら蹴ったボールは、僕が思い描いた場所には飛んでいかなかった。


『ちっ、!』


相手、海川翠もボールを蹴っていたからだ。
お互いのパワーがボールにぶつかっている。できればこの状況は避けたかった。


『くっ、!?』

『へっ! 大したことねーな!』


なぜならパワー勝負には弱いからだ。
まあ、性別的なところもあるけど……小学生でもその差はあるみたいで、僕はパワー負けしたのだ。


『っ、待て!』


海川翠がドリブルで僕のゴールへと向かっていく。僕がその背中を視界に入れたときには、自分からかなり離れていた。

……だというのに。



『……!』



僕にはその光景がスローモーションに見えたんだ。
文字通りゆっくり動いているように見えて___まだ奪える、とそう確信できたんだ。


『は?』


あっという間に縮んだ距離。自分でもびっくりするくらいに海川翠との距離は短くなり、ついには隣に並んだ。


『嘘だろ!?』

『遅いね、君』


そして___彼の前へと出ていた。
それは勿論、ボールを奪うため。


『っ待て!!』



今度は君が追う番だね?
けど、追いつかせてあげないよ。


『こんな簡単に、簡単に……っ、終わらせてたまるかああああっ!!』



振り返れば、海川翠が後ろから追い上げてきていた。
それだけだった良かった。



『”ウォーターロード”!!』



海川翠の声が聞こえたときには、僕の身体は地面に倒れていた。何が起きたのかすぐには分からなかった。



『見たか! 俺の必殺技、”ウォーターロード”!!』



必殺技。
海川翠に言われたこの日、僕は必殺技という存在を知った。
それと同時に___おっと、これは次に話すとするよ。なんせ、僕もびっくりした話だからね。





2024/04/29


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