微かな光が光輝になるまで
『な……!?』
少年が兄さんに勝負を申し込んだとき、当時の僕が思ったことを言おう。……馬鹿じゃないの、だ。
勝てるはずないの何申し込んでるの?
って感じだった。口には出してないけど、もしかしたら顔に出てたかもしれないなぁ。
『へぇ、自信満々だね。自分でいうのもアレだけど、俺を知っていて挑もうとしたのは君が初めてだよ』
兄さんという存在を知らずに勝負を挑む人は結構いた。けど、兄さんという存在を知ったうえで勝負を挑もうとしたのは彼が初めてだったんだ。
……それほどに兄さんの実力は、当時小学3年生だというのに周りを圧倒していた。
『よし、分かった』
え、兄さん受けるの!?
そう思いながら兄さんを見た……んだけど、なぜか目があった。え、目が合った??
『名前、相手をしてあげて』
……え?
当時、兄さんの言葉を受けたとき、僕が思ったのはこれだけだった。
それほどに突然だったんだ。
『な、なんで!?』
『そうだぞ。俺はあんたと勝負がしたいんだ。なんでこいつなんだよ』
指をさすなっての、指を……!
僕は少年を睨むけど、向こうは兄さんを見ているからこっちに気づいていない。
『俺の妹だからだ』
『は? それだけ?』
『そして、俺がまとめたチームのキャプテンであり、その中で一番サッカーが上手い。名前に勝てたら相手をしてあげよう』
『こいつがキャプテンだって?』
なんだよ、その目は。信じられないってこと?
……でも正直、本当に僕がキャプテンでいいのか、兄さんに言われるほどに上手いのか実感はなかった。
だから少年の疑いの目は僕に響いた。
『自分の妹だからって贔屓してんじゃねーの』
……ほら、やっぱり言われる。
僕と兄さんにはこの評価がずっと付きまとうことになる。それは分かってるし、仕方ないけれど……そう言われるのは嫌だ。
兄さんは厳しい人だ。それは相手に対しても、自分に対しても、だ。
だから兄さんに僕が一番サッカーが上手いって言ってもらえるのは嬉しいし、自信になってる。
”悠さんの妹だからって調子にのるなよ!!”
けど、その言葉でその喜びも自慢も小さくなってしまう。
……そう思ってた時だ。
『それは君が名前ちゃんを知らないから言えるんだよ』
『空?』
『キャプテンのプレーはすごい。FWのおれたちよりも強いシュートを打つ』
『亜久……』
空と亜久が、そう言ってくれたのは。
い、今までそんなこと一言も言ってないのに……急に恥ずかしいじゃんか。
『こいつ、意外とズバッて言ってくるからな。見た目でそーぞーしないほうがいいぜ』
『真太郎……』
『自信ないところは時々見え隠れするけど、頼もしいことには変わりない。言いたいことも言ってくれるし、僕は名前さんをキャプテンだって思ってるよ』
『颯太……』
『おいおい、一年ばっかりにいい顔はさせないぞ!』
『剛兄さん?』
『名前ちゃんは優しい子だよ。誰に対しても気にかけてくれる。そんな子』
『たまに口調が鋭い時があるけど、まあ慣れれば可愛いもんだよな』
『心兄さん、音也兄さん……』
『心と音也の言うことは間違っちゃいねーな』
『そのおかげで僕はまたサッカーしたいって気持ちを思い出せたんだから』
『萄兄さん、修二兄さん……』
さっきまでは恥ずかしさがあったけど、今は……少しだけ、泣きそうだ。
だって、こんな優しい言葉をもらって泣かないなんて無理があるよ……!
けど、みんなの前で泣くのは恥ずかしいから、必死に我慢した。ばれてないといいけど……。
『これを聞いたうえで、俺の言葉は妹贔屓に思ったか?』
兄さんが再度、少年に問う。
少年はさっきまでの小ばかにした表情は消えていて……
『そこまで言うなら相手してやるよ』
『よかった。自慢の妹を君に紹介出来て、俺は嬉しいよ』
ほら、という声とともに、背中を押される。
いつの間にか僕の隣にいた兄さんが、僕の背中を押したのだ。
『お前の力を見せてやれ。言われることはすべて実力を見せれば、それは証明になる』
……兄さんがかけてくれたこの言葉は、今でも僕の中で残っている。
目の前で見たものはすべて現実だ。それこそが何よりも一番の証拠であり、照明である。
だから僕はずっとこの言葉を信じている。
現実を見れない人は、実力で捻じ伏せるってね!
『うん……!』
兄さんの言葉にうなずき、僕は少年のほうへと向く。
少年は少し目を鋭くして僕を見ていた。
それに負けじと僕も強気で行く。
『望むところさ!』
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2024/03/30
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