微かな光が光輝になるまで
季節は雨が降る頻度が増える梅雨の時期になった。そうなると僕達は練習することが出来ない。なせなら、僕達が使っている場所は地面で構成されているため、雨が降ってしまうとぬかるんでしまい、練習にならないからだ。
『よし、みんな集まったな!』
『しばらく雨ばっかりだったから、やっとサッカーできるー』
『部屋の中だとやれることが限られるからね。やっぱりサッカーは外でしないと』
そんな時期の中、晴れの日が度々覗くようになった。そして、練習場所の地面も太陽の光を沢山浴びて乾いている。いつもの練習環境に戻ったんだ!
となれば、やることは1つ。勿論、サッカーだ!
雨の日は練習は中止、というのは話していたし、なんだったらチームメイトは今の所全員が同じ学校だった。
僕が小学生の頃は連絡手段が少なかった時代だけど、同じ学校というだけで口頭で連絡することができたんだ。その点は一番良かったと思うところだ。1つでも行き違いがあったら嫌だもん。
『身体硬くなってるかもしれないから、準備運動はしっかりな』
『はーい!』
『わん!』
いつものように兄さんがみんなに声を掛ける。それに対し返事した時だ……明らかに人間じゃない声が聞こえたのは。
思わずその声が聞こえた方へ振り返ると……。
『わー! わんちゃんだ! かわいい〜っ!』
そこには子犬がいて、自然な感じに僕達の輪に交ざっていた。その場にちょこんと行儀良くお座りしている様子はとても可愛らしい。
子犬の存在に気づき、真っ先に飛びついたのは空だ。
『この子お利口さんだね〜。全然噛まない』
空は子犬が気に入ったようで、めちゃくちゃになで回している。子犬は嫌がるどころか、嬉しそうに尻尾を振っている。人に慣れているのかな?
『首輪がない……野良犬か? それにしては人慣れしてるが……』
『俺、動物はムリ』
剛兄さんが子犬を分析している中、その後ろで震えていたのは真太郎だ。……意外だ、動物ダメなんだ。
『どちらにせよ、ここにいてもらうと危ないし、離れて貰わないとだな』
『う〜……』
兄さんの言葉に不満げな声をあげるのは、子犬を気に入っていた空だ。でも、危ないから、というのは分かっているようで、しぶしぶといった様子で手を離した。
『どこか危なくない場所に行って欲しいんだけど、さてどうしようか』
兄さんは顎に手を添え、何か考えている様子。そんな兄さんを見ていた時だ。
『あ、いた!!』
遠くから声が聞こえたのは。
その声が聞こえた方へ振り返れば、そこには同年代っぽい男の子……だと思う子がいた。その子はボサボサの髪を1つにまとめていた。
『おーい、ラッキー!』
『わん!』
その子の声に反応したのは子犬だ。つまり、この子犬は飼い犬で、あの子が飼い主ということだ。そして、名前はラッキーというわけだ。
……子犬が走っていく様子をちょっと寂しそうな顔をして見送る空を、僕は今でも覚えている。
『おぉっ、もう勝手に飛び出していくなよー? 探すの大変だったんだから』
飛びついてきた子犬にそう声を掛けながら、その子はこちらへ歩いて来た。
『すんません、ラッキーが迷惑かけて』
『大丈夫だよ、お利口さんだね、その子』
『そうか? ありがとう』
口調的には男の子っぽい。間違えたらその時謝ろう……そう思った僕は、目の前の子を男の子とした。
『しばらく雨が続いていたから、家の中で退屈してたんだと思う。外に出られると思ったらいてもたってもいられなかったみたいで、首輪付ける前に飛び出してったんだ。ほんと、見つかった良かった……』
『そうだったんだね』
子犬が逃げ出した経緯を男の子は教えてくれた。どうやらこの子犬も僕達と同じく、雨が止み晴れる日を待っていた存在の1人……一匹? だったみたい。
『あ、自己紹介がまだだったな。俺は「烏賀陽 萄」っていうんだ。あんた達はここで何を?』
男の子の名前は烏賀陽萄。後から判明したんだけど、萄兄さんは僕の1つ上で、またもや同じ学校だったよ!
『これ、なーんだ?』
『サッカーボールだろ? ……もしかして、サッカーやってるのか?』
『おう』
空が見せたボールを見て、萄兄さんは僕達がサッカーをやるためにここへ集まっていたことに気づいた。
『サッカー、か……』
『やったことねーの?』
『いや、ある。というか普通にやってるよ』
『だったら一緒にやらない? サッカーは人数が多い方が楽しいよ。ね、名前ちゃん』
音也兄さんと心兄さんの会話をボーッと聞いていた時だ。突然心兄さんに名前を呼ばれ、問いを振られたのは。
その問いはまるで、そういうことでしょ?と言いたげな感じだった。
『う、うん。実は僕達だけのサッカーチームを作ってるんだけど、よければどうかな?』
『チームか……。うん、是非入れてくれ! でも、もう一人いいか?』
『もう一人?』
萄兄さんはチーム加入を了承した。けど、どうやらもう一人入れて欲しい人がいるみたい。
『おう。俺の従兄弟なんだけど、前に所属していたサッカークラブでいろいろ遭って、それからサッカーやめちまったんだ』
『!』
萄兄さんが話したのは、萄兄さんの従兄弟の話。だというのに、そのたった1文に僕は反応してしまった。……だって、僕と似ていたから。
***
■人物紹介
○烏賀陽 萄
茶髪でボサボサな感じの髪を1つに結んでいる髪型が印象的な男の子。瞳の色は緑。一人称は「俺」
両親が動物関係の仕事をしており、その影響で動物が大好き。
鼻筋や頬には動物に付けられた引っかき傷の痕が付いているが、本人は気にしていない。自分より他人を優先する他人想いな子。
歳は名前の1つ上。
髪型のイメージは「るろうに剣心」の「緋村剣心」。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1646.gif)
2024/02/24
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