微かな光が光輝になるまで



『本気で1人かよ! 舐めやがって!!』

『やってやろうぜ! こっちは3人なんだ、余裕だろ!』


対戦の内容はこうだ。
兄さんはたった1人でゴールを守り切ると言ったそうだ。


『さあ、打ってきなよ。自分のプレーに自信があるんだろう?』


腕を組み、どこか3人の男の子達を煽る兄さん。当時は分かんなかったけど、この時絶対煽ってたと思う。


『っ見せてやろうぜ!!』

『ああ!彼奴に恥ずかしい思いをさせてやらぁ!!』


3人の男の子達が動き出す。兄さんはそれを黙って見つめる。


『今だ!』

『おうっ!』

『いっけぇ!!』


何度目かのパスを行った後、1人の男の子がシュートを放った。その威力は小学生にしては中々だと思う。当時はこの威力に不安を覚えたんだ。


『兄さんッ!!』


思わず僕は兄さんを呼んだ。
何故不安だったのか。当時の兄さんはGKをしたことがないため、どうやって止めるのがか想像できなかったんだ。

そう思っている間にも、兄さんへボールは向かって行く。不安な気持ちのまま、それを眺めた。


『……ふんッ!!』


しかし、兄さんはボールを止めるのではなく蹴り返したんだ!
そのボールは反対側に設置されたゴールへと入った。


『こんなものか』


僕がボールを止めるとき、蹴り返そうとするのか。実はこの時の兄さんがやったことが印象に強く残ってて、それを真似するうちに癖になったんだよね。


『蹴り返した、だと……!?』

『おい、次は俺だ! ゴール前に立つなら、堂々と手で止めろよ!!』


話を戻すけど、ボールを蹴り返した兄さんに不満を持った男の子達3人は、手で止めろと言ってきた。
先程シュートを打って兄さんにボールを蹴り返された子は、フィールドの外に出てた。あの子が1番自信満々だったから、蹴り返されたことにショックだったんじゃないかな。……今だから思う事だけれどね。


『彼奴、手で止められないから蹴り返したんだよ。絶対そうだ!』

『お前の仇、絶対に取るからな!』


手で止めろと言われた兄さん。
しかし、先程も言ったように兄さんはGKは一度もやったことがない。だから、GK必須のアイテム、グローブを持ってないんだ。


『分かった。じゃあ少し待ってくれる? 流石にグローブないと止められる気がしないし』

『ハン! いいぜ! 止められないだろうけどな!!』


色々言われているというのに、一切気にしてないと言った顔でこちらにやってきた。


『君』

『えっ、俺?』


兄さんが話しかけたのは、僕が声を掛けた男の子、ゴールを守っていた子だ。そして、あの子はグローブをしていた。


『君が嫌じゃなければ、グローブを貸してくれないかな?』


なぜ兄さんがこちらに来たのか。
それはあの子にグローブを貸して貰えないか交渉に来たから。

声を掛けられると思わなかったのか、男の子はちょっと驚いていた。


『も、勿論です。俺ので良ければ……!』


男の子は迷う事なく自分が着けていたグローブを兄さんに渡した。兄さんはそれを着けてた後、何度か手を開いたり閉じたりして感覚を確認した後、兄さんは男の子に向き合った。


『ありがとう、貸してくれて。君たちがやりたかった”やり返し”やってくるよ』


兄さんは3人と目を合わせながら言葉を伝えた後、フィールドへと向かっていった。
兄さんはゴール前に立つと、『準備出来たよ』と男の子達に声を掛けた。


『さ、どこからでもどうぞ?』

『今度こそは、俺達の勝ちだ!!』


1人の男の子が兄さんへとボールを蹴った。
もう足は使えない。兄さん、止められるの……?

再び襲った不安な気持ちのまま、その光景を見ていた。


『……これが、GKから見える景色か』

『なっ!?』

『勉強になったよ、ありがとう』


……だが、不安な気持ちは杞憂だった。なんと兄さんは、初めてにも関わらず止めて見せたのだ。


『う、嘘だろ……?』

『誰にも止められたことないのに……!』

『さあ、今度は俺のボールを止めて貰おうか?』


完全に流れは兄さんにある。二度も試したシュートは手でも足でも止められた。
昔の僕なら、この時点で悪かった事を謝るけど……あの男の子3人組は諦めが悪かった。


『……こいつGKだったんだよ!だからシュートは弱いはずだ!!』


まるで自分に言い聞かせるように、勝手な解釈をして納得した男の子3人組。兄さんのシュートを止める話に頷き、ゴール前に立った。……ただし、3人で。そう、一度フィールドを離れた男の子も戻ってきたんだ。


『それ反則じゃん! 悠さんは1人だったのに、そっちは3人だなんて!!』

『空、心配するな。問題ないよ』

『へっ、余裕なっこった!』


空の心配する声に微笑みながら答えた兄さん。
そんな兄さんを見て、男の子3人組は威勢を取り戻したのか、また吠えだした。


『じゃ、始めようか』

『来てみやがれ!』

『何が何でも止めてやる!』


兄さんがドリブルを始める。
いつ打たれてもいいように、男の子3人組はジッとボールと兄さんを見つめる。


『……GK初心者だね、君たちは』


兄さんがシュートを放った。それは特別早いわけじゃなかった。


『は?』


……その代わりというように、そのボールにはとある仕掛けがあった。あぁ、人工物的なものではなく……技術と言った方がいいかな。


『絶対にここに来ると思ったのに、なんで急に曲がったんだ!?』


所謂”変化球”という奴を兄さんは放ったのだ。
この時から兄さんは天才という所が垣間見えていたんだ。それは技術力だけではなく、相手を見て予想を立てる……ゲームメーカーとしての才能も。


『君たちがGK未経験なのは分かってた。急なことに対処できないと思ったから、今のようなシュートを選んだんだよ』


このシュートを直に見た3人は勿論、外野から見ていた人達もこう思っただろう……レベルが違う、と。実際僕もそう思ったから。
勿論、プロのサッカー選手だったら当然のようにやれるんだろうけど、近い年代でこれだけのことができる人がいるという事実がある。


『さて……これに懲りたら、弱い者いじめは止めるんだ』

『『『ご、ごめんなさああああああいっ!!!』』』


男の子3人組は仁王立ちの兄さんから受けた言葉にびびってしまったのか、一目散に逃げていったんだ。
……この時の兄さんは、今の僕を形成する一部となってる。だって、とってもかっこよかったから……僕も、こんな風になりたかったんだ。

今、僕はその姿になれているだろうか。





2023/11/25


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