微かな光が光輝になるまで
『や、やっぱり怖いよ……』
当時の僕……小学1年生だった僕は、所属していたサッカークラブのこともあって軽く人間不信に陥っていた。初めは大好きな兄さんの提案だったから頑張ろう、と意気込んでいたけれど、次の日になるとその気持ちはリセットされていて……。恐怖の方が強かったんだ。
『言っておくけど、名前の軽い人間不信を治す事も目的の1つだからな』
『にんげんふしん?』
『人を信じることができないって意味だよ』
兄さんは幼いながらも難しい言葉を知っていて、よく使っていた。偶に意味が分からずに聞いていたっけ。
そのおかげで僕も難しい言葉をよく使うようになったんだよね。
『サッカーにも通ずることなんだ。サッカーは独りでするスポーツじゃない、11人全員で戦うんだよ。そこに信頼関係……相手を信じる気持ちが必要なんだ。ほら、お前クラブにいるときは俺ばかりにパスを出してたろ?』
『だって、兄さんのほうが良いから……』
『そういうとこだよ。流石の俺だって無敵じゃないんだから、他の人にパスする事も考えないと』
この時の僕は兄さん以外の人にパスを出したことは、孤児院で一緒にサッカーをしていた人達だけだった。
サッカークラブでは兄さん以外のにパスなど考えられなかった。勿論、打ち解けようとする努力はした。けど、それを全て拒まれてしまったから、自然とパスを出す相手が兄さんに偏ってしまった。
『おや、いつもの練習場所にお客さんが』
『えっ!?』
この日はいつもの練習場所……孤児院からじいちゃんとばあちゃんの家へ住むことになってから、僕と兄さんがサッカークラブ以外でサッカーをする場所に、先客がいたんだ。
『サッカークラブでは見なかった顔だけど……名前、声を掛けてみよう』
『えっ!?』
『大丈夫、俺も一緒に行くから』
兄さんは僕の手を取って、真っ直ぐと”お客さん”の元へ進んだ。ちなみに、そのお客さんは2人だったんだ。
『ほら名前、お前から声を掛けるんだ』
『う、うぅ……』
人と話すのは怖い。それも、自分と同じくらいの歳の子とは特に。
恐怖と兄さんのお願いに、幼き僕は揺れていた。
『……ね、ねぇ!』
けど、1番はやっぱり兄さんの期待に応えたい気持ちが勝り、見知らぬ2人に声を掛けたんだ。
『うえぇっ!? ……ぼ、ボクたちのこと?』
『ここはおれ達しかいない』
『あ、そうだった……えっと、君たちは?』
声を掛けると、反応したのは真っ白な髪色が印象的な男の子だ。もう一人も男の子で、黒い髪が印象的だ。
『僕は名前。苗字名前だよ』
『俺は兄の悠だよ。いつも俺達がここを使っていたから、君たちがいることに驚いてね』
『え、そうだったの!? そうだって知らなくて……ごめんなさい』
あ、ボク達も自己紹介しないと!
白い髪の男の子は黒い髪の男の子にそう言った後、彼はこちらを向き直った。
『ボクは「雲龍 空」! ほら亜久、自己紹介だよ』
『……「月城 亜久」』
『あっはは……亜久はあまり喋る子じゃないんだ。気にしないで』
白い髪の男の子は雲龍空、黒い髪の男の子は月城亜久と名乗った。後から聞いた話なんだけど、二人は幼なじみなんだって。
『ボク達この近くに住んでるんだけど、いつも使ってた空き地に家が出来るみたいで……それで良さそうな場所をずっと探してるんだ』
『それが此処だったんだね』
空と亜久の傍に転がるボールが、幼い僕にはどこか寂しそうに見えていた。次に視線が移ったのは、2人の顔。空の表情はとても悲しそうで。
亜久は先程空から説明があったとおり無口で、それにつられるようになのか、表情の変化があまりなかった。それでも、悲しそうに見えたんだ。
『!』
空と亜久を見ていた時、僕を襲った小さな痛み。痛みと言うより、何かにつつかれたと言った方が良いかな。痛かったわけじゃないから。
んで、その正体は兄さんが僕を肘でつついたからだったんだ。
何故兄さんが僕をつついたのか。それは「今だよ」という兄さんのアシストだったんだ。何のアシストなのかって?
それは勿論……
『じゃ、じゃあ一緒にやろう!』
僕が人間不信を治すことと、自分のサッカーを出せる環境を作る為の第一歩を踏むためのだよ。
『え、良いの?』
『う、うん。だってサッカーは沢山の人とやったほうが楽しいでしょ? あ、2人が嫌なら別に……』
『そんなことないよ! ボクは全然良い! 亜久はどう?』
『空が良いなら』
『分かった! じゃあ、一緒にサッカーやろ!』
そして、2人は僕の人間不信が和らぐきっかけを作った張本人だ。……これ、未だに本人達に言えていないんだけれどね。
『あ、ありがとうっ』
『どういたしまして! えーっと……名前ちゃんって呼んでも良い?』
『うん! ……え?』
『どうかした?』
『なんで”ちゃん”?』
『だって、女の子でしょ? あれ、もしかして違った……?』
『合ってるよ、ただ女の子って気づいて貰えないと思ってたから……』
空は髪の毛を切った後初めて僕が女の子って見抜いたんだよね。何を材料にそう思ったんだろう……名前かな?
亜久は聞いたことがないから分からないけど……。
『女の子だろうとサッカー出来る子ならボクは気にしないよ! 亜久もそうでしょ?』
『うん』
『ほら早くやろうよ、サッカー!』
『名前、おいで』
空の笑顔と、亜久の小さな笑みは本心から出ているものなんだって、幼いながらも思った。きっと人を疑うようになったからこそ、本心かどうか分かったのかもしれない。
『……うんっ!』
先を行く空と亜久、そして兄さんの元へ、幼い私は走った。この時浮べた顔は、久しぶりだった心のそこからの笑顔だった。
***
■人物紹介
○雲龍 空(うんりゅう そら)
どこか雲を彷彿させるふわふわとした白い髪が特徴的な男の子。瞳の色は水色。一人称は「ボク」
明るく純粋で人懐っこい性格。それ故に騙されやすいらしい。
歳は名前と同じ。亜久とは幼馴染の関係。
髪型のイメージは「ご注文はうさぎですか?」の「条河麻耶」。でも前髪はぱっつんじゃない。
○月城 亜久(つきしろ あく)
サラサラとした黒い髪が特徴的な男の子。瞳の色は赤。一人称は「おれ」
基本無口であり、空が声を掛けることでやっと口を開く。本人的には必要がないから話さないだけとのこと。
歳は名前と同じ。空とは幼馴染の関係。
髪型のイメージは「僕は友達が少ない」の三日月夜空。彼女が物語の途中で変えたショートヘアが割とそのままだったり。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1646.gif)
2023/11/25
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