対 真・帝国学園



「うっ、ぐ……ッ」

「気がついたか、苗字!」


揺れる感覚と、その感覚に反応して身体が痛む。
それを感じた時、僕は誰かに抱えられていることに気づいた。


「と、うこさん?」

「ああ。お前無茶するなよ、目の前で人が倒れるとこ見て平気な奴なんていないんだから!」


僕を抱えていたのは塔子さんだった。
こちらを見てはっきりと告げられた塔子さんの言葉が刺さった。……そうだ、僕倒れたんだ。”皇帝ペンギン1号”を一人で止めた反動で。

僕は後半の途中から試合に参加したから、誰よりも体力が残ってると思った。だから、余裕で止められるだろうと。


……結果、こうして倒れてしまい、誰かの手がないと歩けない程までに衰弱してしまった。情けない。



「……すみません」

「いいよ。話は後でたっぷり聞くから、今は脱出しないと!」

「だっしゅつ?」


話す事すら痛みを伴う。
それでも聞きたかった。何故ここが揺れているのか、どうして塔子さんは脱出と言ったのだ。


「真・帝国学園が爆発したんだ! ここが沈んだら、アタシ達海の中にドボンだよ!」


確かに真・帝国学園が海の上だ。爆発した原因を聞きたいけれど、緊急事態だ。脱出が先である。
けど、僕が動けないばかりに塔子さんを巻き込んでしまっている。


「もう、あるけますから……いッ」

「それの何処が歩けるだ! 迷惑とかそんなの良いから、ほら行くぞ!」


怒っているのは分かってるけど、それが僕の為にと言うのが不謹慎だけど嬉しかった。そう思いながらも僕は塔子さんに支えられながら何とかボートがある場所まで辿り着いた。


「苗字、塔子!」


聞こえたのは円堂さんの声。首すらも動かないので、目だけで声の出所を探す。見つけた場所は海の上……ボートからだった。


「円堂! 名前を先に乗せてやってくれ!」

「おう!」

「すみません、えんどうさん……」

「気にすんなって!」


ニカッと笑う円堂さんに申し訳なさを覚えながらも、中々言う事を聞かない身体を何とか動かして手を伸ばした。
……その時だった。


「うわっ!?」


突然の爆発と同時に、揺れる船。
上手く身体が動かなかった僕は、バランスを崩して……



「名前!!!!」

「苗字!!!」



背中から海へ叩きつけられる感覚を覚えたときには、僕は海の中へ沈んでいた。


「……っ」


僕にとって海は身近な存在だ。育った場所が海に近かったから、よく泳いでいたものだ。
……だから溺れたことは泳ぐ事に慣れていなかった幼い頃を除けばなかった。

けど、これは明らかに溺れるルートだなぁ。当然だけど、海に落ちるとは思ってなかったから、呼吸は整えていない。息が苦しくなるのも時間の問題だ。

だったら浮上すれば良いだけのこと。しかし、それが今の僕にはできなかった。……”皇帝ペンギン1号”を止めた反動で身体が思うように言うことを聞かないからだ。


「……」


あぁ、苦しい。
そして悔しい。慣れた海で溺れるなんてさ。


「……!」


あれ、何か見える。これって……昔の僕?
もしかしてこれ、走馬灯って奴なのかな。確か、死に際に記憶が蘇ることをそう言うんだよね?

……じゃあ僕、このまま死んじゃうのかな。
嫌だなぁ、死にたくないよ。

なんて思うのに、酷く冷静な気がする。……いや、冷静なんじゃなくて、諦めているんだ。


だって身体は思うように動かない。だから身体は沈んでいく。
腕が動けば身体が浮くように体勢を変えられるのに、海に堕ちた体勢で沈み続けているから、いくら待っても浮上しない。


「……っ」


段々と目を開けられなくなってきた。
僕の意識に逆らうように閉じた目。真っ暗になった視界と、耳から僅かに聞こえる癸を聞きながら、暗くなった視界に現れた光……走馬灯に意識を委ねた。



対 真・帝国学園 END





2023/10/30


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