対 真・帝国学園
「……」
目の前には影山。僕は目の前にいる人物の後を、黙って着いて行く。
かなり長い廊下を歩いているけれど、一体僕をどこに連れて行く気だ?
「入れ」
影山が先に入室し、僕に部屋に入れと促す。
警戒は緩めない。いつでも逃げられるように構えておくんだ。
そう心の中で思いながら、影山の言う通り部屋に入る。
「ここは……」
「私の部屋だ」
通された部屋は、影山の部屋だという。あれかな、ゲームにある執務室ってやつ?
……この人が執務する姿が浮かばないんだけど。
「そっか。で? 鬼道さん達から僕を遠ざけてまで話したい事って何?」
そんな事は置いておいて。さっさと本題に入ってしまおう。長居する理由なんて無いしね。
それに、先程の佐久間さんと源田さんが気になって仕方ないんだ。
「光のストライカー、苗字名前。君のこれまでの来歴について、記録が残っているものは全て見させてもらった」
「へぇ。それで?」
僕のサッカー選手として残したものを見た。だから?
それを使って、何か脅したいことでもあるのかな?
それとも、あの人が言っていたように、僕を真・帝国学園に入れたいとか?
少し揺さぶりを入れてみるか。
「あの不動って人が言うには、あなたは僕を真・帝国学園に入れたがっているって聞いたんだけど」
弱小だった頃の雷門中との練習試合で、僕のデータを取ろうとしたこと、当時まだ敵認識を持っていた照美さんの要望を叶える為に、僕の記録を見せたこと。
決して突然な話ではない。……過信するつもりはないけど、僕を真・帝国学園に引き入れる理由を持たれたとすれば、その辺りだろう。
「___苗字悠」
「!!」
しかし、相手は僕が予想していた内容を口にしなかった。
……兄さんの事を知っている。確かにサッカー協会には残っているだろう……兄さん、苗字悠という選手がいた記録は。
どうして兄さんの名前を、今ここで出したんだ?
「君のサッカー人生に欠かせない存在であるのは、揺るぎない事実だ」
「……兄さんに何かする気?」
「気になっただけだ、どうしてそこまで彼を慕っていられるのかと」
「そんなの簡単さ。兄さんは何にも変えられない、大好きな人だからだよ」
どうして、そんな当然のことを聞いてきたんだ?
僕を揺さぶるため?
「君が一度サッカー界から姿を消すことになった『原因』だと言うのに、健気なものだ」
「!!」
まさか、兄さんを侮辱しているのか?
そう思った瞬間、怒りの感情がふつふつと湧き上がる感覚がした。
本当なら怒鳴ってしまいたい。けど、相手は重罪人だ。いまだ人物像は把握できていないけれど、僕の”これまで”が簡単に通用するとは思えない。
……そう思っていたんだ。
「自分の人生を踏みにじられ、サッカー界を追われた。運良く戻って来れたようだが、再び同じ事が起きてしまったら? それも、同一人物……君の兄によって。それでも君は、同じ気持ちでいられるか、苗字名前」
話が変わった?
そう思う程に、影山から問われた内容は予想していなかったものだった。
「……それでも、僕は兄さんを許す。だって『家族』だもん」
そもそも、兄さんがそんなことするとは思わない。
それに、兄さんが病気で倒れたことが、僕がサッカー界から姿を消した事と直接繋がっているわけじゃない。間接的である事は否定しないけど、結局は我慢できなかった僕の所為。自業自得なんだから。
「そうか。……君は、私と同じではなかったか」
影山からの質問に、心の中で怒っていた時だった。……僕が同じだと思った、そう言ったのか?
「一体、どういう意味……?」
「話は終わりだ、苗字名前」
突然聞こえた、機械が動作する音。それは影山の方から聞こえていた。
影山の方を見れば、なんと下へと消えて行くではないか!
「っ、待って! 話は終わって___」
ゆっくりと視界から消えていく影山。僕が追いついたときには、空いた床が閉じられてしまい、影山の姿を見失ってしまった。
「どうして、僕と一緒だと思っていた? ただ、それを知りたいだけなのに」
淡々と告げられたように思ったけど、僕は違うと思ってる。
あの言葉には”悲しさ”が混じっている気がしたんだ。その悲しさは、きっと影山と僕の中にある共通点に違いない。
……そう思うのに、僕にはその共通点が何を指しているのか、分からなかった。
「! ホイッスルの音、」
まさか、試合が始まった!?
別に試合はしないなんて一言も言われていない。早く合流しないと!
「……どうやって此処に来たっけ」
けど、僕はただ影山の後ろを着いて行ってたため、帰り道を覚えていなかった。
急いで試合に戻る事ばかりに夢中で、どんな試合状況になっているのか考えすらしていなかった。
……僕が不在の中、雷門と真・帝国学園がどんな試合を繰り広げていたのか、知らないまま。
2023/8/19
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