対 真・帝国学園
「影山零冶! あなたはエイリア学園と何か関係があるの!?」
突然、瞳子姉さんが影山に話しかけた。
その内容はエイリア学園についてだ。
そういえば言ってたっけ。色々調べた上で、不動明王が送った偽のメールに従い、愛媛に向かうことを決めたって。
瞳子姉さんなら、偽のメールだと気づいた時点で愛媛に向かわなかったはずだ。それも、みんなが影山の悪事を止めたいと意思を固めていたとしても。
それでも愛媛に向かったのは、真・帝国学園がエイリア学園と関係があると思ったから?
でないと、瞳子姉さんが真・帝国学園に向かうことを決めた理由が見つからない。
「吉良瞳子監督だね? ……さて、どうかな? ただ、エイリア皇帝陛下のお力を借りているのは事実だ」
エイリア、皇帝陛下?
……名前だけで考えれば、エイリア学園を纏める人物、といったところだろうか。瞳子姉さんは何か知っているのかな。
「さあ鬼道、昔の仲間に会わせてあげよう」
「待て、影山!!」
「鬼道!」
影山が奥に消えていく。
それを見た鬼道さんは、影山を追うように階段を登っていく。円堂さんの止める事は、聞こえていなかったんだろう。
「……俺も行く!」
「おいっ!?」
「円堂が行くならアタシも!」
円堂さんが鬼道さんの後を追う。それに続いて塔子さんも向かおうとしたが……。
「お前、野暮だなぁ。感動の再会にゾロゾロ着いて行って、どうすんだよ? デリカシーがあるなら、ここで待ってな」
塔子さんの行く手を阻むように、不動明王が前に出る。相変わらず何か企んでいるような顔だ……そう思いながら不動明王を見ていた時だ。
「それと、」
「っ!?」
「苗字名前。お前はこっちだ」
急に掴まれた腕。
……不動明王が僕の腕を掴んでいた。
「なっ、離してよ!」
「ぎゃんぎゃん鳴く天使だな、お前。ま、その方が楽しいけどな」
「ちっ……!」
腕を引っ張られ、不動明王の顔が近付く。
嫌なのを分かってるな、この顔は……!
怯えたら負けだと思った僕は、精一杯睨むけど相手は効いてないといった顔を浮べている。
「どこまで抵抗できるかな? 苗字名前チャン?」
「わっ……!?」
「苗字!」
腕を引っ張られ、僕は強制的に不動明王の後ろを着いて行く形になった。
後ろから聞こえるチームメイトの声を聞くことしか、僕にはできなかった。
***
「ぶっ、!? いったぁ……って」
不動明王に引っ張られながら、真・帝国学園へと踏み入れる。漸く足を止めた不動明王の背中にぶつかり、怒りの声をあげようとした。
「此処は……グラウンド?」
視界に入ったもの。それは何をどう見ても、サッカーをするために作られたフィールドにしか見えなかった。
そして、不動明王の奥に見えるのは、鬼道さん、円堂さん……そして、影山だ。
「鬼道。自分の愚かさを悔い、再び私の足下に跪いた仲間を紹介しよう!」
不気味な笑みを浮べてこちらを振り返った影山。
彼の背後に見えたのは……見覚えのある二人だった。
「源田に、佐久間……!?」
帝国学園のGKである源田さんと、鬼道さんの参謀である佐久間さんが、そこにいた。しかし、二人ともどこか雰囲気が可笑しい気がする……。
二人は高い位置からこちらを見下ろしていたのだが、僕達の前へと降りてきた。
「久しぶりだな、鬼道」
「感動の再会って奴だねぇ。なぁ、名前チャン?」
なんで僕に同意を求める、不動明王……!
何をどう見たら感動の再会に見えるんだよ……!
「では、元チームメイト同士、仲良く話したまえ。また後で会おう」
ああ、そうだった。
そう言って影山は数歩歩いた後、こちらを振り返った。
「苗字名前、君はこちらに。私に付いてきて貰おう」
そうだ、不動明王が言っていたではないか。影山が僕を必要としている、と。
正直信じていなかったけど、本当だったんだ。
「ダメだ苗字! 彼奴が何をするのか分からない、危険だ!!」
「邪魔するなよ。影山総帥は、光のストライカーとお話したいだけだぜ?」
「鬼道、私は光の天使と話したいだけだ」
光のストライカーではなく、光の天使、か。
どちらかというと前者で言われることが多かったから、自分の事を指す言葉だったことを忘れていた。
「……話がしたいって言ったね。それを守れるなら」
正直、僕は知りたいんだ。
どうして悪事に手を染めたのかを。実際僕は、鬼道さんと円堂さんほど、彼の悪事を体験していないからこそ、好奇心に近い何かを影山に対し感じている。
理解者になりたいわけではないけど、知りたい。そう思ったんだ。
「っ、苗字!!」
「大丈夫ですよ、鬼道さん。円堂さんも、そんな顔しないで」
「けど!」
「流石の僕だって、危ない事かどうか判断はできます。危険だって思ったらすぐに逃げます」
二人にそう伝えて、僕は影山の方へと踏み出した。
後ろから僕を呼ぶ2人の声を聞きながら、影山の後を着いて行った。
2023/8/19
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