対 イプシロン



ヒロ君に慰めて貰い、やっとのことで落ち着いた僕。その流れで、さっきまで座っていたベンチに座った。


「本当に久しぶりだね。君が親族に引き取られて……10年とは言わないけれど、長い間会う機会がなかったから、正直覚えて貰えてるとは思ってなかったよ」


目の前にいる男の子、ヒロ君。
彼は瞳子姉さんが経営している孤児院で出会った。つまり、昔馴染みというものに該当する。

ヒロ君に限った話ではないけど、当時僕と兄さんが孤児院にいたときに仲良くしてくれた子の一人だ。仲良くしてくれた子を忘れるなんてこと、するわけない。それに!


「忘れる訳ないよ! 僕にとって、みんなは”家族”なんだから!」


ね、そうでしょ?
そうヒロ君に問いかければ「……うん、そうだね」と返ってきた。

改めて思うけど、僕の記憶に残っていた幼いヒロ君そのままだ。いや、そのままと言えば少し語弊があるかもしれない。だって、顔つきや声は当然だけど変わっているし。

男の子って変声期って言うのがあるんでしょ?
兄さんもそうだったし、きっとヒロ君もそうだ。


「あ、そうだ……! ねぇ、ヒロ君っ」

「うん? どうしたんだい、そんなに不安そうな顔をして……」


ヒロ君なら知ってるはず。
だって、僕がまだ孤児院にいたとき、彼らもいたのだから……!


「聞きたい事があってっ。あのね、リュウちゃんと修兄さんは今どうしてるか知ってる?」


リュウちゃんと修兄さん。
……実のところ、僕はまだ割り切れていない。あの宇宙人達が、僕の知っている人ではないかって事を。

そう言えば、瞳子姉さんにはっきりと聞いていない気がする。あの時はレーゼがリュウちゃんではないかと聞いただけだ。

僕が幼少期に過ごした場所の1つである場所。そこで出会った人達が……いや、それを断定するには材料が少なすぎる。


だから、きっと知っているであろうヒロ君に聞く。
ヒロ君がリュウちゃんと修兄さんが宇宙人ではないことを、きっと証明してくれる……!


「今も元気だよ。俺達が一緒に暮らしていた”あの場所”でね」

「そ、そうだよね……ははっ、僕、何を当然のことを聞いてるんだろ……」


気づけば僕は、ヒロ君の両肩に自分の手を乗せていた。それほどに、僕の心は追い詰められていたらしい。


「俺達が恋しくなった?」

「……そうかもしれない」

「何があったのか、今は聞かないでおくね」

「ううん、聞いて欲しい」

「……分かった。話してごらん?」


僕はなんとか言葉にして、これまでのことをヒロ君に伝えた。
じいちゃんとばあちゃんに引き取られた後、2人の住む場所へ発ったことはヒロ君も知っている。だから、その後からの話しだ。

サッカーを続けたことで、世界大会の代表に選ばれるほどに上達したこと。
小学五年生の時に選ばれた、世界大会の予選大会で兄さんが倒れたこと。その試合で暴走した僕は、1年間サッカーを辞めていたこと。

しかし、雷門中と出会ったことでサッカーをしたい気持ちを取り戻し、こうして今、エイリア学園を倒すべく雷門中と共に行動していることを伝えた。


「なるほど、エイリア学園にリュウジと砂木沼さんに似た人がいた、ねぇ…・・」


エイリア学園で出会ったレーゼ、デサームがリュウちゃんと修兄さんに似ていたことに動揺して、ヒロ君に2人のことを尋ねたことを伝えて、僕の話に区切りを付けた。


「大丈夫だよ。それは他人の空似だ。偶に聞くだろう? 世界には何人か似た人がいるって」

「うん……」

「偶然が重なったことに驚きはするけれど……って、名前ちゃん?」


安心したんだと思う。
ヒロ君の言葉に、レーゼとデサームは、リュウちゃんと修兄さんに似た別人だって証明されたから、不安が晴れてまた涙が流れていた。


「みんな、嘘付いているんじゃないかってっ、そう思ってたけど……違うんだって思って……っ」

「……そっか、辛かったね」


ヒロ君の声が聞こえたと思うと、背中に温もりを感じた。続けて、何かに包まれる感覚がした。


「ふふっ、名前ちゃんは相変わらず泣き虫だね」

「だって、だって……! みんなが嘘付いているんじゃないかって、裏切られているんじゃないかって思ったら……っ!」

「うん、分かってる。みんなは宇宙人じゃない、名前ちゃんのことも忘れてないよ。だから、安心して……ね?」


先程まで包まれていた匂いに、ヒロ君に抱きしめられているんだと気づく。いつもだったら、恥ずかしさが勝るのに、不安だったからなのか、今はその温もりが心地よかった。


「……名前ちゃん、眠たいの?」

「うぅん……」

「名前ちゃん?」

「……」

「……寝ちゃった、か」


その温もりの心地よさで、いつの間にか僕は眠ってしまっていた。


「……ふふっ、変わらないね。短い髪も似合ってるよ」

「会えて嬉しかったよ」



「___ごめんね」


だから気づかなかった。
いつの間にか自分が眠りについてしまっていたことに。



***



「____、名前!」

「うわあああっ!!? って、春奈?」

「こんな場所で寝ちゃダメでしょ! もうっ、心配したんだから」


突然の春奈の声に驚く。そして、春奈に言われて、自分が寝ていたことに気づいた。


「あれ、ヒロ君は……?」

「ヒロ君? ヒロ君って誰?」

「……夢、だったのかな」

「ここに来る途中、誰にも会ってないから、まだ寝ぼけてるだけじゃないかしら?」

「……そうかもしれない」


それにしてはリアルな夢だったなぁ。
休憩したときに疲労で寝ちゃったのかな、僕。


「ほら、寝るなら部屋に行きましょ! って、汗掻いてる?」

「あー……、寝る前まで軽くボールを蹴っていたから」

「だったら余計に外で寝ちゃダメよ! 風邪引いちゃうでしょ!?」

「うぅ、ごめんなさーい……」


先を歩く春奈を苦笑いで見つめた後、ベンチに横になっていた身体を起こし、足を地面に着けた。


「……あれ、」


バサリ、と落ちた何か。
それは先程まで見ていた夢に出たヒロ君が来ていたジャケットだった。

……あれ、じゃあさっきのは夢じゃない?


「なら、リュウちゃんと修兄さんは宇宙人じゃないんだ」


良かった。
そう言葉を零した僕は忘れていたんだ。

あの日、白恋中を破壊すべく現れたジェミニストーム戦の後の出来事を。……誰かがレーゼと僕の間に現れた黒いサッカーボールから、僕を突き飛ばしたことを。

___その後に聞こえた、リュウちゃんに似た口調の声のことを。





2023/8/17


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