邂逅! イタズラ好きな捻くれディフェンダー



現在、サッカー部へ繋がる廊下を歩く僕達。
どこを見渡しても和な光景に、僕のテンションは上がりっぱなしだ。


「京都、一度来てみたかったんだ〜!」

「まさに日本って感じだよね」

「あ、分かります!」


僕の独り言を拾ったのは一之瀬さんだ。
そういえば、一之瀬さんは今までずっとアメリカにいたんだっけ?


「あの、一之瀬さんはいつからアメリカに?」

「えーっとね……」


一之瀬さんに質問を投げかけ、その答えを待っていた時だ。


「うわあっ!?」

「うぉっ!?」

「わああっ!?」

「ぐえっ」

「うおおおっ!」

「すまん!!」


目の前で大きな音が鳴ったのは。


「えー……」

「あっははは……」


僕はドン引き、一之瀬さんは苦笑いである。
確かに滑りやすかったかもしれないけど、こんなドミノ倒しみたく巻きこまれる?
てか目金さん、壁山と風丸さんが上に倒れてるから重たそう。


「大丈夫……」

「大丈夫じゃないですよ!!」

「ですよね……」

「グギっていいましたよ、グギって!!」

「す、すみませんッス……」


足の痛みを訴える目金さんと、その前に正座で座る春奈と壁山の後ろで僕と吹雪さんは様子を覗き込む。
……あー、あれは軽く捻挫してそうだな。


「そもそもな話、円堂さんが足を滑らせなかったらよかったんですよ」

「いや俺だってまさかすべるとは思わなかったんだよ!」

「で? どこらへんで滑ったんです?」

「えーっと……ここら辺かな」

「なんでここだけツルツルしてんだよ」


円堂さんが足を滑らせたという場所に僕達は集まる。
そこにしゃがんで手を伸ばした秋ちゃん先輩が何かに気づく。


「これって、ワックスじゃないかしら?」

「「「ワックス!?」」」


円堂さんが足を滑らせた原因が、ワックスと判明。
なんでそんなピンポイントにワックスが……と思っていた時だ。


「ウッシッシ、ざまーみろ! フットボールフロンティアで優勝したからって、いい気になって!」


聞こえた独特の笑い方に首を動かす。
そこには『つるピカール』と書かれたボトルを持った男の子がいた。


「お前〜! よくもやったな!? ……あ、待て!!」


塔子さんが怒りの声をあげると、男の子は背を向けて逃げ出した。
男の子を追いかけるつもりなのか、塔子さんが靴下で地面に降りた……が。


「うわあっ!!?」


聞こえる塔子さんの悲鳴。
何事だと覗き込めば、まるで分かってましたと言わんばかりに落とし穴があった。
いやピンポイントすぎだって……。


「ウッシッシ、引っかかってやんの〜! ほ〜れ、ほ〜れ!」


男の子は落とし穴に落ちた塔子さんにお尻を向けて、完全に煽っている。
塔子さんの目が完全に怒ってる……。


「なんなんだ、アイツ……」

「木暮ーッ!!」


誰もが予想外の光景に驚いていた時、奥から誰かが怒鳴る声が聞こえた。
その声が聞こえると、男の子は素早い動きでその場から消えた。


「どうなってんだ……?」

「全く、しょうがないやつだ。ちょっと目を離したらすぐにサボって……」


男の子と入れ替わるように現れたのは、サッカーボールを持った男子生徒らしき人だ。
その人は落とし穴から出てきた塔子さんを見つけると、慌てて駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

「大丈夫、大丈夫! これくらい!」

「申し訳ございませんでした。うちの部員が、とんでもない事を致しまして」

「うちの部員?」

「ってことは、アイツ……」


確かこの人、サッカーボール持ってたよね?
ということは……


「「「サッカー部!!?」」」

「アイツがかよ!?」


周りと同じく僕も驚きの声をあげてしまった。
背が小さかったというのもあって、同じ中学生に見えなかった!


「ええ。木暮と言うのですが、それが困ったヤツでして……周りは全て敵だと思っているというか……」

「敵?」

「ええ。それで、私達も練習させるよりまずは精神を鍛え直すことから始めたほうがよいのではと思い、一から修行させているのですが……いくら説明しても、木暮は自分だけがいじめられていると決めつけて、アイツにとっては仕返しのつもりなんでしょう」

「かなり性格歪んでんな……」


サッカー部の人の話を聞く限り、僕も土門さんと同じ感想である。
相当苦労しているんだろうなぁ……・。


「同じサッカーをする者として恥ずかしい限りですね。あー壁山君、もう少し右です」

「あ、ハイ……」


いや、目金さん。
あなたも人の事言えないと思いますけど……。
そう思いつつもスルーしておく。


「でも、どうしてそんなにみんなのことが信じられないのかしら?」


秋ちゃん先輩の疑問はもっともだ。
周りが全て敵とか、さすがの僕も考えた事ない。


「……木暮は小さい頃、親に裏切られたようで」

「え……っ、親に?」

「ええ。それ以来、人を信じることができなくなったみたいなんです」


告げられた言葉に反応したのは、僕の隣にいた春奈だった。





2022/2/21


prev next

戻る














×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -