対 ジェミニストーム
ハーフタイム
「チクショウ! あのシュート、止められなかった!!」
「悔しいッス!!」
「でも、あの二重のディフェンスと”マジン・ザ・ハンド”があれば防げるはずさ! 三重なら鬼に金棒だろ?」
鬼に金棒、ね。
円堂さんは何気なくそう言ったのかもしれないけど、今は諺を聞きたくない。
後半こそは試合に集中しないといけないんだ。
「吹雪君、シュートは解禁よ。後半はFWに上がって。点を取りに行くわ」
「でも、ディフェンスはどうするでヤンス?」
「心配するな。みんな奴らの動きに対応できている」
「俺も、もう大丈夫です!」
「……分かったようね」
「ええ」
「どういうこと、お兄ちゃん?」
どうやら春奈含め、数名が瞳子姉さんの狙いに気づいていなかったらしい。
レーゼの事で頭がいっぱいだった僕でも気づけたのに……大丈夫かな。
「俺達はスピードに対抗する特訓をしたが、実際に奴らのスピードに慣れるには時間が掛かる。だから前半は守備の人数を増やした」
「なるほど、失点のリスクを減らして……」
「奴らのスピードを把握する為か……!」
「じゃあ、吹雪君をディフェンスに専念させたのは……」
「中盤が突破されたら、あのスピードでなければ防げないからでヤンスね!」
「最初から教えてくれればいいのに……」
そう言いながら春奈が瞳子姉さんの方を見る。
……あ、瞳子姉さん知らん顔した。
瞳子姉さんの様子を見て何か気づいたのか、秋ちゃん先輩が口を開く。
「自分たちで答えを見つけた方が、絶対に力になるわ」
「そうさ! 答えを知りたければ、汗をかけばいいんだ!」
答えを求めるだけでは力にならない
よく兄さんが言ってた。
だから、自分で考えて答えを探して、それでも見つけられなかったら聞くようにしてる。
「吹雪、どんどんゴールを狙っていけ!」
「うん。やってみるよ」
「名前、貴女はそのままよ。臨機応変に対応して頂戴」
「オッケー、任せて」
瞳子姉さんの指示に頷く。
僕はその方が活きるって分かってくれてるのかな、なんて。
「苗字」
そう思っていると、鬼道さんが僕の元に来た。
何事だろうと首を傾げる。
「なんですか?」
「お前、何かあったのか?」
「え!?」
「どこか動きがぎこちないし、エイリア学園が来てから様子が変だ」
まさか見られているとは思わなかった。
吹雪さんはポジションが近かったから気づかれるのは納得……はしたくないけどまあバレるだろうなとは思ってた。
だけど、まあまあ距離があった鬼道さんにそう言われるとは思わなかった。
「き、気のせいですよ! それに言ったじゃないですか、初めてのエイリア学園との試合に緊張してるって」
「緊張? 貴女そんなに緊張しないタイプだって言ってたじゃない」
「うぐっ」
しまった。
春奈にいろいろと話していたんだった……。
僕は割と緊張しないタイプだ。
それは兄さんにも言われたことがあって、僕の利点の1つだと言われた。
「ふ、普段あんまり緊張しないから、余計に緊張してるのかも〜」
「ふーん……」
ちょっと声が震えちゃったけど、ごまかせた……かな。
ジト目で僕を見る春奈を見つめる。
「……そう言う事にしておこう」
そう言って背を向けた鬼道さんを見て、ホッと息をつく。
……と思えば、首だけこちらを振り返った。
「余計な事は考えるな。試合に集中しろ」
「! ……はい」
鬼道さんはそれだけ言うと今度こそ僕の元を離れた。
向こうにとっては注意のつもりで言ったんだと思うけど、僕にはかなり刺さった。
いつも自分が大事にしていることを他の人に言われる。
それってよっぽど僕が集中してないって事になる。
「ありがとうございます……鬼道さん」
ずっと抱えていた靄が晴れる感覚。
……やっと試合に集中できる気がします。
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2022/2/20
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