参戦! 雪原の皇子
白恋中の校舎裏にあるゲレンデで特訓を初めて数日。
あれだけできなかったスノーボードだが……
「よッ!」
「おぉ〜! いいじゃんいいじゃん!」
空中で回転技ができるほどに成長した。
遠くで土門さんが「最初の頃と比べたら成長したなぁ……」としみじみした様子で僕を見ていた。
いや、土門さんお父さんか何かですか。
僕は瞳子姉さんとマネージャー、吹雪さんがいる場所まで滑り、吹雪さんの隣に着地した。
「本当、上手くなったわね」
「ふふんっ」
「名前ちゃんは基本的なことを身に付けたら何でもできるんじゃないかな?」
「えへへ〜っ、そうですかね〜?」
褒められたら素直に喜んでしまう僕は、吹雪さんの言葉に照れてしまう。
緩んでしまってる顔をどうにかしなきゃ……そう思っていると、隣に誰かが着地した。
「吹雪、俺と勝負しようぜ」
その人物は染岡さんだった。
あの日話した以来、染岡さんとは一対一で話していない。
前まで吹雪さんに対して嫌悪感のような、強いライバル意識のような……そんなものが出ていた染岡さんだけど、今はそんなものは見えない。
純粋な競争相手。そんな感じに見える。
そんな染岡さんが、今吹雪さんに勝負を申し込んだ。
「勝負?」
「ああ。俺の特訓の成果を、お前相手に試そうと思ってな!」
「……つまり、どっちが雷門のエースストライカーに相応しいか決めようってことかな?」
「そう思ってくれていいぜ」
***
というわけで、突然始まった吹雪さんと染岡さんによる『エースストライカーの座は誰の手に!?』対決。
あ、タイトルは僕が勝手に考えたよ!
因みに誰にも言ってない。
ルールは単純。
センターからボールを蹴り合って先にゴールを決めた方が勝ちだ。
「よーい……初めッ!!」
円堂さんにより、開始の火蓋が切られた。
先にボールに触れたのは___吹雪さんだ。
「雷門のストライカーを舐めんなあああッ!」
しかし、染岡さんも負けていない。吹雪さんに食らいついている。
「染岡も速い!」
「吹雪の動きに着いて行ってる……!」
ボールは染岡さんに、吹雪さんに……またもや染岡さんに吹雪さんに、と、お互い譲らない勝負が続いている。
「特訓の成果が出てるって事ッスかね!?」
「じゃあ、俺たちも速くなってるでヤンスか!?」
「なってるなってる! あたし保証する!」
しばらく続く奪い合いに区切りをつけたのは……染岡さんだ。
「どうだ!」
「やるね……」
染岡さんのスライディングで地面に尻もちを着いた吹雪さん。
そのまま染岡さんは吹雪さんを引き離そうとするが……
「やるねェ! 正直舐めてたぜ、こうじゃなきゃ面白くねェ!!」
雰囲気が変わった吹雪さんが染岡さんに追いつく。
奪われる前に染岡さんはシュートを放ったが……あれはボールを取られることを意識しすぎて焦ったな。
ボールはゴールポストにぶつかってしまい、ゴールとならなかった。
その隙を吹雪さんはかかさず食いつく。
「貰ったァ!!」
「いかせねーぞ!!」
足を大きく振りかぶり、シュート体勢の吹雪さんの前に染岡さんは立ちはだかる。
しかし、このまま振りかぶれば染岡さんを振り切ることはできそうだ。
そう思っていた時、吹雪さんが何かを見つけたような顔をした。
何を見つけたんだ……?
吹雪さんの視線の先を探そうとフィールドを見た時だ。
「!」
地面の色で分かりずらいけど、確かに何かいる。
吹雪さんはあの何かを見たんだ。
「わっ!?」
吹雪さんの動きが止まった。
その隙を染岡さんは逃すことなく、ボールを奪った。
「貰った!!」
染岡さんの放ったボールはパワーを纏いながらゴールへと入った。
「見たか、吹雪!!」
つまり、勝負の結果は染岡さんの勝ちだ。
みんなが染岡さんの周りに集まっていく中、僕は吹雪さんに近付く。
「大丈夫ですか、吹雪さん」
「名前ちゃん。……えへへ、今日は僕の負けみたいだ」
「でも、必要ある負けだったんじゃないんですか?」
「……そうだね」
僕の問いに吹雪さんはそう答えた後、木の方を振り向いた。
僕もつられて首を向けると、そこには2匹のリスがこちらを見ていた。
「……怪我がなくて良かった」
「ですね。吹雪さんも怪我はないですか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
はい、と手を差し伸べれば吹雪さんは僕の手を握った。
参戦! 雪原の皇子 END
2021/11/14
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