参戦! 雪原の皇子
この髪型にしてから、初対面で僕を女の子だって見抜いた人は鬼瓦のおっさん以来だ。
鬼瓦のおっさんは大人だから何となく分かるけど、歳の近い人から女の子だって見抜かれたの初めてかも……。
「っ、わあああッ!?」
なんて考えながら階段を降りていた時だ。
足を滑らせてバランスを崩してしまった。やばい、後ろに……!!
「大丈夫かい?」
「へ? あっ……はい」
「階段は滑りやすいから、気をつけて」
「あ、ありがとう……」
倒れそうになった僕を後ろから支えてくれたのは吹雪四郎さんだった。
考え事をしていた……しかもその内容が吹雪士郎さんだってこと言えない……。
支えて貰いながら体勢を直し、恥ずかしさでまた顔が熱くなる感覚を感じていたときだ。
「! 何、この音……」
ゴゴゴゴ……と地響きに近い音が聞こえる。
上を向けば、雪が落ちてきていて……これってまさか、雪崩!?
テレビでしか見たことなかったけど、雪崩って意外と規模が小さいんだね……。いや、テレビとかで見るのがすごいだけで、普段起きる雪崩はこんな感じなのかな?
そう思いながら、上をボーッと見ていると、後ろから怯えたような声が聞こえた。
「……どうしたの?」
振り向けば、先程滑ってバランスを崩した僕を支えてくれた吹雪士郎さんが、怯えた様子でその場に屈んでいた。
「大丈夫だよ、吹雪君。屋根の雪が落ちただけだから」
「……や、屋根から? ……なんだ、屋根の雪か」
「なんだー? どうかしたのかー?」
「あ、いや、なんでもないよー!」
……もしかして、雪崩が怖いのかな。
雪国出身だからって雪崩……というより、さっきのは雪崩ではなかったらしいけど、怖くないわけじゃないんだなぁ。
「これくらいのことで驚くなんて、意外と小心者ね」
「あーっはははは……さぁ行こう!」
なんだか無理矢理話を逸らしたように見えたけど……。
「夏未さん、ちょっと当たり強くないですか?」
「え? 私は思ったことを言ったまでよ」
「もしかしたら吹雪士郎さんには怖かったのかもしれないじゃないですか」
「……まぁ、そうね」
「誰にだって怖いものの1つや2つあるんですから、もうちょっとオブラートに包みましょうよ」
「はいはい、気をつけるわ」
ほんとに分かってるのかな……。
あの人、人に知られたくない事情すら調べて、それを当然のように言ってくるんだもの。
……ま、それもあって僕はサッカーをもう一度やりたいって意思を持ったわけなんだけどさ。
「ありがとね、名前ちゃん」
「え? なにが?」
「さっきの。ちょっと嬉しかった」
もしかして、夏未さんとの会話が聞こえてたのかな……。小声で話してたのに。
まあこれだけ静かだったら、聞こえていてもおかしくないのかな。
「……ま、まぁ。僕にも怖いこと色々あるし? そもそも怖いものがないとか最強すぎじゃん」
「あははっ、面白い事を言うね」
なんかバカにされてる気分……。
でも、お礼を言われるのは素直に嬉しい。
「苗字」
「なんですか? 鬼道さん」
「吹雪は2年だ」
「……え」
鬼道さんの発言に隣にいる人物へゆっくり首を動かす。
振り向けばこちらを見ていたようで、当の本人は会話内容が読めないのか、首を傾げている。
「……すみません、まさか先輩とは思わず……」
「あっはは、大丈夫だよ」
だって身長があんまり変わらなかったから、同級生だと思ったんだもん!!
2021/11/13
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