参戦! 雪原の皇子



「貴女って人は……。酔い止めくらい飲みなさいよ」

「だって、寝れると思ったんだもん」


トイレから帰還し、みんながいるであろう教室へ春奈と一緒に入る。


「お、戻ってきた」

「大丈夫かー?」

「なんとか。それより、吹雪士郎って人は?」

「まだ帰ってきていないみたいなんだ」


どうやらまだ目的の選手、吹雪士郎はきていないみたいだ。


「うぅ、毛布持ってきたかったなぁ」

「汚れるだろ」

「だから置いてきたんじゃないですか」


教室に設置してあったストーブの前でしゃがみ、暖まる。
はぁ、暖かい。


「吹雪士郎君は? どこにいるのかしら?」

「吹雪君? 今頃スキーじゃないかな。今年はジャンプで100m目指すって言ってたもん」

「いや、きっとスケートだよ。3回転半ジャンプができるようになったって言ってた」

「おいらはボブスレーだと思うなー。時速100キロ超えたって言ってたよ」


スキーにスケートにボブスレー……ウィンタースポーツばっかり!


「僕、ウィンタースポーツやってみたかったんだぁ……! 教えてくれないかなぁ」

「スキーとかやったことないの?」

「ないない。雪とは縁のない地域だったからさ」


あれ、もしかしてウィンタースポーツの定番スキーすらやったことのない僕ってヤバい?


「あ、帰ってきたんじゃない?」


何か帰ってきた音でもしたのか、白恋中の男の子がそう言った。
次に女の子が教室のドアを開けた。あ、開けないで……冷気が入ってくる!


「あっ、吹雪君だ! 早く早く! どこに行ってたの? お客さんが来てるんだよ!」


熊殺しの吹雪、1試合10点。たった1人で叩きだした、熊よりでかい、ブリザードの吹雪……そんな噂を持つ吹雪士郎って人。
その噂から僕が想像したのは……大男。
だってそうじゃないと、きっと熊なんて殺せないよ!


「___お客さん?」


と、思っていた時。
聞き覚えのある声が聞こえた。


「あれ? 君たち」

「さっきの! 吹雪士郎ってお前だったのか!?」


円堂さんの問いに吹雪士郎さんは微笑んだ。
あんな噂を聞いてたから、てっきり大男だと思ったけど……ちっさいな。
僕と身長ほぼ変わんないじゃん。


「お前が熊殺しか!?」

「あぁ〜……実物を見てガッカリさせちゃったかな? 噂を聞いてきた人はみんな僕を大男だと思っちゃうみたいで……。これが本当の吹雪四郎なんだ、よろしく」


そう言って吹雪士郎さんは染岡さんに手を差し出す。握手のつもりなんだろう。
しかし、染岡さんはその手を取ることなく、教室を出ていってしまった。
その後を秋ちゃん先輩が追って教室を出て行った。


「……染岡さん」


まだ本人から直接本心を聞いたわけじゃない。
だけど、あの様子だと___


「名前、移動するわよ」

「え? どこに?」

「外よ」

「えーッ!? 僕寒いのやだよぉ!」


やっと暖かいストーブを見つけたのに……。
しぶしぶ立ち上がってみんなに続いて教室を出ようとした。


「北海道は初めてなのかい?」

「へ?」


後ろから声を掛けられた。
振り返ればそこには吹雪士郎さんが。


「う、うん。北海道っていうより、そもそもこんなに寒いの体験した事ない」

「そっか。だからあんなに毛布を被ってたんだね」


その発言に顔が赤くなる感覚がした。
まさか僕の事見ていたなんて……!


「それに、雪にとても感激してたよね? なんだか嬉しくなっちゃった」

「僕が住んでた地域、雪が降ったことなくてさ。だから雪ってずっとテレビでしかみたことなかったんだ」

「ということは、ウィンタースポーツとかやったことないのかい?」

「全く」

「なるほど。なら、雪国ならではの遊びを楽しんで欲しいな」


あ、そういえば。
突然思い出したように吹雪士郎さんはそう言った。


「君の名前、何て言うんだい?」

「僕は苗字名前。これでもサッカー歴は結構長いよ」

「じゃあ僕も改めて……吹雪士郎だよ。よろしくね、名前ちゃん」


そう言って手を差し伸べられ、握手を求められたが、僕には握手をする前に驚くことに気づいた。


「い、今、僕の事なんて……?」

「? 名前ちゃんでしょ? あ、もしかして初対面で名前呼びは馴れ馴れしかったかな……?」


まあそう思ったけど、僕が驚いたのはそこじゃない。


「僕の事、男の子って思わなかったの……?」

「え、もしかして男の子だった?」

「いや、女だけど……」

「そっか、間違ってなくてよかった」


ホッとしたように微笑む吹雪士郎さん。
この人、何を根拠に僕を女だと一発で見抜いたんだろうか。
いつもだったら男の子に間違えられるのに……。


「ねぇ、どうして僕が女の子だって分かったの? 自分で言うのもアレだけど、僕よく男の子に間違えられるんだ」

「だって……」

「だって?」

「君、可愛い顔してるじゃない」

「……はぁッ!?」


ニコッと微笑みながら投げかけられた吹雪士郎さんの発言に、再び顔が赤くなる感覚が。
か、顔で判断して、女だって分かったって事……!?


「名前ー、吹雪さーん……って、名前顔赤いわよ? 風邪?」

「ち、違うから!! それより早く行こ!!」


呼びに来た春奈に慌てて誤魔化し、教室を飛び出した。





2021/11/13


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