対 世宇子中



「アフロディさんは二年生なんでしょ?」

「そうですが……」

「なら、敬語使う必要ないじゃん!僕、堅苦しいの嫌いだし、なしなーし!」


笑顔を見せてそう言うと、アフロディさんは困ったような表情を浮かべて頷いた。


「あとさ、アフロディさんって呼びにくいんだよねー」

「呼び捨てで構いません」

「いや、それはできないよ……」

「貴女に呼び捨てで呼んでいただきたいのです」


……どうやら、僕に憧れを抱いていたのは本当らしい。


「……あのさ。アフロディって名前、本名じゃないよね?」

「はい」

「本当の名前は、なんて言うの?」


実況でもアフロディ、アフロディって言われてたから名前が分からない。
もしかしたら、大会ではその名前で登録されていたんだろう。
だから余計に気になった。この人の名前が。


「『亜風炉 照美』と言います」

「亜風炉照美さん、ね。と言うことは、亜風炉さんって呼べば良いのか」


ちらっとアフロディさんを見るとものすごく嫌そうな顔をしていた。


「……じゃ、じゃあ…照美さん?」

「是非!」


僕がそう言うと、嬉しそうな表情でこちらを見たアフロディさん。……間違えた、照美さん。
年上なのに可愛いって思ってしまった。


「分かった。僕の事も好きに呼んで良いよ」

「……名前、さん?」

「うん、何?」


名前を呼ばれたので返事をした。
見上げれば、嬉しそうな照美さんと目が合う。


「……こうして、貴女と話せる事が夢みたいだ……っ」

「そんな、何処にでもいる中学1年生だよ」

「いいえ。僕にとっては嬉しい事なんです!」

「そ、そうなんだ……。あと照美さん、敬語」

「あっ。……す、すまない…」


どうしても僕に敬語を使ってしまうようだ。
別に、年下に憧れると言うことは可笑しいことではない。だけど、気軽でいたい僕は敬語を使うのも使われるのもちょっと嫌なのだ。


「……あ、もうこんな時間」

「?何か用事でもあったのかい?」

「用事というより、日課かな」


照美さんにそう言い、帰ることを伝える。


「……また、会ってくれますか」


背を向けた僕の腕を掴んだ照美さん。
振り返って見れば、寂しそうな顔をした照美さんが。


「……さっき言ったでしょ。今度はフィールドで会おうって」

「!」

「今度は、僕を魅了できると良いね?」

「勿論……!」


今の貴方になら、仕えて良いかもね。…神様は強さだけが取り柄じゃないよ?
照美さんは、僕の姿が見えなくなるまでこちらに向かって手を振っていた。


***


「……なんか、外が暗いな」


家を出たときは明るかった空を見上げる。
天候なんて急に変わるものだ。気にしないでおこう。
スタジアムから出て、パーカーのポケットから携帯を取り出す。
電話マークをタップし、携帯を耳に当てる。


『……もしもし?』

「もしもし兄さん?僕だよ」


電話を掛けた相手は兄さんだ。
本当ならもっと早くに行く予定だったんだけど、照美さんと話してて遅くなってしまった。


「ちょっと話し込んでたから遅くなっちゃった。今から病院に向か…」

『名前!学校が大変な事になっている!』

「……え?」


兄さんの言葉に変な声が出てしまった。
学校が、大変な事に?
その意味を、このときの僕はまだ分からなかった。





2021/02/21


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