対 世宇子中



「………」


目が覚めた。
枕の横に置いていた携帯の電源を入れ、現在の時刻を確認する。


「5時半か。……よし」


同じ空間で寝ている春奈と木野さんを起こさないように、着替えをバックから取り出す。
音を立てないように着替えを済ませ、コンタクトレンズが入ったケースを持ってその場から出る。


「……わぉ」


コンタクトレンズを入れて、イヤホンを接続したミュージックプレイヤーを手に持って体育館入り口から中の様子を覗く。
体育館では男子が寝ており、いびきがうるさい人、寝相の悪い人等々……。こういうのも、合宿ならではの光景だ。


「お邪魔しまーす……」


小声でそう言いながら、扉を閉める。
ジャージに着替えて、イヤホンを接続したミュージックプレイヤーを片手に音を立てないように体育館へと進入。……だって、靴が体育館の入り口前にあるんだもん。
忍び足で体育館と外を繋ぐ扉に辿り着き、再び音を立てないように扉を開けた。


「……お邪魔しましたー……」


そっと扉を閉めて、靴を履く。
僕は自分の靴を履いてきてたので、すぐに自分の靴を発見できた。

ポケットからミュージックプレイヤーを取り出して、イヤホンを付ける。
曲を再生させて、その場から走り出した。
……まさか、あのような事になるとは、今の僕には想像もつかない。


***



「苗字さーん!!」

「名前〜!!」

「どうしたんだ?」


マネージャーである秋と春奈が、名前の名前を呼びながら走り回っている。
その光景を見て、円堂が首を傾げる。


「2人とも、どうかしたのか?」

「あっ、円堂君!名前さんが何処にもいないの!!」

「なんだって!?」


秋の言葉に円堂が驚く。


「どうかしたのか?」

「名前が何処にもいないらしいんだ」


近寄ってきた風丸に、円堂が説明をする。
マネージャーの2人によると、2人が目を覚ましたときには既に名前はいなかったのだと言う。


「靴が見当たらないな……」

「でも、荷物はあるの……」


春奈は兄である鬼道にそう言う。


「昨日、世宇子中のキャプテンが『名前の居場所は世宇子中』だって言ってたでしょ…?だから、もしかしたら攫われたんじゃって……!!」


不安そうに春奈がそう言った。


「確かに、やけに苗字に馴れ馴れしかったな……」

「彼奴ら、知り合いなのか?」

「違う。彼奴はアフロディの事を知らなかった。それに、アフロディとは初対面だ、と言っていただろう」


風丸、染岡、鬼道が会話をする。


「携帯に掛けたらどうだ?」


豪炎寺がそう提案をする。


「携帯は置いてあったのよ」

「なら、手分けして探すしかないな」


秋の言葉に円堂がそう言った。

こうして、朝から名前行方不明事件が発生していた。
それを、捜索されている本人である名前は知りもせずに学校の近くを走っていた。



***



「……ん?」


学校に戻ってくると、誰かが僕の名前を呼んでいる。


「はいはーい、僕は此処にいるよー」


そう大声で言うと、僕を呼ぶ声がピタリと止んだ。
そして響く足音。


「苗字!!お前、何処に行ってたんだよ!!」

「別に何処に行こうが関係なくない?」

「攫われたんじゃって心配したのよ!!」

「何故そうなる」


円堂さんと春奈の言葉に僕はそう返す。
他にもサッカー部が集まっていた。


「で?何処に行ってたんだ?」


改めて円堂さんが僕に尋ねる。


「ちょっとそこら辺を走ってきた」

「……走る?」


僕の返答に円堂さんが首を傾げる。


「ランニング。…朝はいつも早めに起きて、ランニングしてるの」


僕がミュージックプレイヤーを見せながら答えると、


「そういうのは先に言え!!!」


……という、サッカー部全員の叫び声が響いた。


「まさか、そんな事になってるとは……」

「何故携帯ではなくミュージックプレイヤーなんだ」

「携帯とミュージックプレイヤーには別々の曲が入ってるからさー。今日はこっちの気分だったの」


鬼道さんの質問にそう答える。


「せめて携帯も持って行ってくれよ……。心配になるだろ」

「大袈裟だな〜。そんなホイホイ人がいなくなる訳ないでしょ?」

「お前はもう少し危機感を持て」


……なんで朝からこんなに言われなくちゃいけないの?





2021/02/21


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