対 世宇子中

side.×



「はァッ!!」


ぶつかった衝撃による威力とパワーで、誰もが目を閉じた。
その中で聞こえた声に、円堂は目を開ける。


「……えっ」


眩しさの中、円堂は目を開けてその光景を見た。
彼の視界に誰かの背中が映った。
その人物は片足だけでボールを止めたのだ。
やがてボールは威力が落ち、地面に跳ねた音がグラウンドに響いた。

静寂が訪れる。

円堂の目の前にいる人物は、ボールを軽く蹴って自分の手でキャッチする。
そして、後ろにいる円堂に振り返った。


「……大丈夫、円堂さん」


赤いリボンに纏められた髪を揺らしながら、円堂に声を掛けた人物。
それは、制服姿の名前だった。


「き、君は前に見学に来てた……」

「……まさか、まだ気付かないの?」


名前はボールを手から落とし、アフロディに向かって蹴った。
そのボールをアフロディは片手で難なく止める。
名前は後ろで膝を着いていた円堂に目線を合わせるようにしゃがむ。


「苗字。苗字名前だよ。……まさか、忘れたの?」

「え?…………えぇ!?」

「まあ、そんなことより。ほら、座って!そして深呼吸!」


名前は円堂を軽く押し、地面に座らせて深呼吸するように言う。
円堂は名前に驚きながらも、深呼吸をする。
名前は黙ってその様子を見つめる。


「……うん。貴方にはそんな表情、似合わないよ」


そう言って微笑んだ名前は、円堂の表情を見た後アフロディの方へと振り返った。


「……初めまして、世宇子中のキャプテンさん。僕は貴方に訊きたい事がある」


そう言った名前の声は何処か冷たく、表情も“無”だった。
しかし、呼ばれた本人であるアフロディは、目を見開いて名前を見ていた。


「やっと……、やっとお目に掛かる事ができた……。我が天使、苗字名前……!」


アフロディはそう言ってボールを放り、名前に近づく。
その声は、何処か恍惚としていた。
名前は、近づいてくるアフロディを無言でジッと見つめる。


「いつ僕が君の天使になったのかい?」

「天使は神の創造物だ。…よって貴女は、神である私のものさ」

「へぇ。君は自分を神だと。…確かに、天使は神の創造物で神に逆らうことはできないって言われているけど……生憎、僕は仕えたい神は君じゃない」


名前はアフロディにそう言った後、後ろを……円堂を目で見る。
その意味をアフロディは分かったのか、微笑していた表情が少し崩れた。


「そんなのはどうでも良い。僕は君に訊きたい事があるのさ。……どうして君の使う必殺技は、“僕の必殺技”に似ているの」


目を細め、アフロディを見つめる名前。
アフロディは微笑して名前を見つめる。


「言っただろう?貴女は私の天使。……所有物と似た技を持っていて、何か可笑しいことでも?」

「可笑しいことだらけだよ。…あの技は僕の……っ!?」


アフロディの言葉に言い返そうとした名前だが、言葉を詰まらせてしまった。
何故なら……


「な、ななな……!!」

「貴女は我が天使以前に、私が敬愛する御方…。我が光、神の光」


アフロディが名前の手を取り、その手の甲にキスを落としたからだ。
実は名前、こういう事に対する耐性を全く持ち合わせていない。
なのでこんなにも驚き赤面しているのだ。


「貴女は此処にいるべき御方ではない。我ら世宇子中が貴女の居場所です」

「ぼ、僕は…、あんなプレーする所に行きたくないっ」


掴まれていた手を振りほどき、少し言葉をつまらせながら名前ははっきりと拒絶した。


「何をおっしゃるのです?……貴女のプレーは、我らと『同じ』ではありませんか」

「……同じ?」

「私は知っています。……貴女が『破壊天使』と呼ばれた、そのプレー姿を」

「!!」


名前はアフロディの言葉に目を見開き、驚いた表情を見せる。
周りからはアフロディの発言を聞いて不思議そうな声があがる。


「あれこそが、貴女の本来の“姿”なのです。……我々と帝国学園との試合を間近で見た貴女なら、お分かりでしょう?」

「違う……っ、違う……!」


アフロディの言葉に、名前は否定しながら首を振る。


「苗字っ」

「……円堂、さ…」


片手で額を抑えていた名前に、円堂が駆け寄る。
その光景を「面白くない」と言いたげな表情でアフロディは見つめる。


「我が天使に適わないのは当然……。しかし、円堂守君。神のボールをカットしたのは君が初めてだ。…決勝が、少し楽しみだ」


アフロディは円堂にそう言い放った後、名前に視線を向ける。


「覚えておいて下さい。……貴女の居場所は、我ら世宇子中だと」


アフロディは名前にお辞儀をして、その場から姿を消した。





2021/02/21


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