対 世宇子中
side.×
グラウンドでは、サッカー部の練習が行われていた。
1人、ゴール前に立つサッカー部のキャプテン、円堂に向かって、染岡と豪炎寺の合体技“ドラゴントルネード”と、鬼道と一之瀬の連携技“ツインブースト”が放たれた。
___その間に誰かが割り込んできただ。
「!?」
周りから驚きの声があがる。
円堂の前に現れたのは、長い髪を靡かせた少年だった。
先程のシュートを難なく手で……片手で二つのシュートを受け止めていた。それも、必殺技を使わず。
「お前、すっげーな!“ドラゴントルネード”と“ツインブースト”を止めるなんて!お前、すごいキーパーなんだな!」
円堂は興奮したような様子で、目の前にいる少年にそう言った。
少年は円堂の方へと首を動かす。
「いえ、私はキーパーではない。我がチームのキーパーは、こんなの指一本で止めて見せるだろうね」
円堂にそう言いながら、未だに回転の止まないボールを指一本で支える。
「そのチームっていうのは、『世宇子中』の事だろう。___『アフロディ』」
鬼道が歩み寄りながら、その少年……アフロディに向かってそう言う。
鬼道から出た言葉に、周りから驚きの声があがった。
アフロディは鬼道を冷ややかな目で見た後、指一本で支えていたボールを放った。
身体を円堂の方へと向け、対面する。
「円堂守君だね?改めて自己紹介をさせて貰おう。世宇子中のアフロディだ。君の事は、“影山総帥”から聞いている」
「やはり、世宇子中には影山がいるのか……」
アフロディが円堂に自己紹介をした。
その言葉の中に出てきた、“影山総帥”というワードに鬼道が反応する。
「て、てめェ……宣戦布告にでも来たのか?」
「宣戦布告?ふふっ」
「何が可笑しいっ」
「宣戦布告というのは、戦う為にすること。……私は君たちと戦うつもりはない」
染岡の言葉にアフロディは、怪しい笑みを浮かべる。
円堂に視線を移して、アフロディは口を開く。
「君達も戦わない方が良い。…それが君達の為だよ」
「何故だよ」
「何故、か。___負けるからさ」
一之瀬の言葉にアフロディは、当然と言いたげにそう言った。
アフロディの言葉に周りは反応する。
何が彼をそう言われる自信に繋げているのだろうか。
「神と人間が戦っても、勝敗は見えている」
「自分が神だとでも言うつもりかよ」
「さあ、どうだろうね」
一之瀬の言葉にアフロディは曖昧な回答をした。
「試合は、やってみなくちゃ分からないぞ」
「そうかな?林檎は木から落ちるだろう?世の中には、逆らえない“事実”があるんだ。それに、そこにいる鬼道有人君が1番良く知っている」
円堂の言葉にアフロディはそう答え、鬼道の方へと視線を向ける。
鬼道はその言葉に反応し、怒りの表情を浮べて前に出ようとしたが豪炎寺に止められる。
「だから練習も辞めたまえ。神と人間の溝は、練習では埋められるものじゃないよ。___無駄な事さ」
円堂に綺麗な笑みを見せながらアフロディははっきりとそう言った。
「うるさい……!」
アフロディの言葉に、円堂は拳に力を入れる。
円堂の言葉にアフロディは表情を“無”に変える。
「練習が無駄だなんて、誰にも言わせない!」
円堂の表情は、“怒り”そのものだった。
「練習は『おにぎり』だ!俺達の“血”となり“肉”となるんだ!!」
そう言った円堂の言葉にアフロディは一瞬驚いた表情を浮かべたが、数秒後、彼から笑い声が。
「上手いことをいうね。…なるほど、練習は『おにぎり』か。…ふふっ」
「笑う所じゃないぞ」
円堂の低い声が、アフロディに向かって放たれる。
「しょうがないなぁ。じゃあ、それが無駄なことだって事を証明してあげるよッ」
円堂にそう言って、アフロディは持っていたボールを高く蹴り上げる。
アフロディは一瞬で高く飛び上がり、円堂に向かってシュートを放った。
「(臍と臀に力を入れれば、取れない玉はない!)」
円堂はアフロディの放ったシュートに触れるも、ボールの威力に負けゴールへと吹き飛ばされてしまった。
ボールはゴールには入らず、アフロディの元へと返っていた。
「円堂!!」
豪炎寺と鬼道が、円堂の名前を呼びながら駆け寄る。
鬼道が円堂の身体を抱え「大丈夫か!?」と声を掛ける。他のチームメイトも駆け寄り、円堂に心配の声を掛ける。
意識はあるようだが、円堂の目には彼に声を掛けるチームメイトではなく、アフロディただ1人しか映っていなかった。……周りの声など、入っていなかった。
「どけよっ!」
円堂の反応に周りは驚く。
今まで円堂がこのように怒りを露わにしたことがあっただろうか。
「来いよ、もう一発!!今の本気じゃないだろ、本気でどん、と来いよ!!」
鬼道が後ろから円堂を止めるも、円堂はその手を振り払ってアフロディに向かって怒りの言葉をぶつける。
フラフラとした足取りでゴール前に立つ円堂。しかし、上手く立てないのか、膝をついてしまう。
「……本気で、か。ふふっ、分かったよ」
円堂の言葉に微笑して、アフロディはそういい、再びボールを高く蹴り上げた。
先程のシュートとは違う、威力の上がったシュートが円堂に向かって行く。
「円堂ッ!!」
「円堂君ッ!!」
「キャプテンッ!!」
周りから円堂の名前を呼ぶチームメイトの声があがる。
円堂はやっとの事で立ち、ボールを受け止める構えをした。
しかし、その状態の円堂がボールを止められるわけがない。
誰もが危ない、と思った時。
「はァッ!!」
何かがボールにぶつかる音が響いた。
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2021/02/21
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