対 千羽山中



「自分の実力に合わせられる人は、兄しかいない…か。……フッ」

「なっ、なんで笑うのさ!?」

「随分と人を嘗めているようだな、苗字は」


鬼道さんが鼻で僕を笑った。
僕、結構気にしているのに……!


「秋葉名戸学園では随分と楽しそうだったじゃないか」

「ま、まぁ……」

「戦国伊賀島中との試合では、弱い弱いといいながらも熱心に試合を見ていたな」

「ぐ……っ」


豪炎寺さんと鬼道さんによる攻撃に、ゲームでよく見るHPが減っていく音が聞こえる気がする。


「……もう良いんじゃないのか」

「え?」

「試合、全部見に来ているんだろ」

「そ、そんな訳……」

「野生中の試合で、円堂の手の負傷を見て氷を用意するように言ったのはお前だろ」


豪炎寺さんの言葉にギクっと効果音がなってそうな反応をしてしまった。
円堂さんが「そうだったのか〜!ありがとうな!」と嬉しそうに近寄ってきた。……この人毎回毎回距離が近い!!


「秋葉名戸学園との試合に出てくれたのは、雷門中サッカー部を認めてくれたって事じゃないのか?」


こちらを見る豪炎寺さんの視線から目を逸らす。
実際に口に出していないけど、言いたいことは分かる。
豪炎寺さんは今すぐにでもサッカー部に入れ、と僕を勧誘しているのだ。


「……まあ、認めてはいる。けど、それはそれ、これはこれ。サッカー部に入るのは優勝してからねー」


一度行ったことを撤回するのは、何だか僕のプライドが許さなかった。
僕はそう言って鉄塔広場を後にした。……しようとした。


「まあ待て。……なら、せめてマネージャーはどうだ?」

「え、嫌だよ。僕、マネージャーなんて柄じゃないし」

「なら、コーチはどうだ?監督不在の時に指導してくれたじゃないか」

「ゲームする暇と、兄さんに会いに行く時間なくなっちゃう」


鬼道さんと豪炎寺さんは、どうしても僕をサッカー部に入れたいらしい。


「……なるほど。なら、捕まえるしかないな」

「は?」


鬼道さんが顎に手を当て、考えるような素振りを見せた。
……この人のいう、捕まえるしかないというのは……。


「まさか、学校で……って事じゃ」

「それ以外何がある」


そろり、そろりと後退して、鬼道さん達から離れる。
こちらを見た鬼道さんが、僕が後退している事に気付き、こちらに腕を伸ばしてきた。


「あ、苗字!?」

「鬼ごっこなら負ける気しないもんねー!!」


円堂さんが僕を呼ぶ声を聞きながら、僕は走って鉄塔広場を今度こそ後にした。





2021/02/21


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