対 千羽山中



次の日
病院帰り

僕は携帯を見ながら歩いていると、話し声が聞こえた。
気になったので顔をあげると、


「……げッ」


目の前に鬼道さんと春奈がいた。
僕が声を出したことで向こうもこちらに気がついた。


「あっ、名前」

「あ、えっと……そのぉ……」


春奈が僕の名前を呼ぶ。
どうして呼ぶんだよ春奈……!


「お、お取り込み中……、失礼しましたあああっ!」

「は!?ちょっと名前!?」


ゆっくりと後退した後、すぐに方向転換してその場をダッシュで逃げ出した。
……のだが、


「うおっ」


歩道が切れ、車道になっている所が見えてきた所で、タイミングよく車が通った。
幸い、運転手は僕に気付くことなく通り過ぎていった。
……引かれそうになったわけじゃないよ?先に見えていた道が突然の車で見えなくなった事に驚いただけだよ!?


「苗字」


僕の名を呼び、肩に重みが掛かる。
ギギギ、と音が鳴ってそうな首をその方向に向ける。


「き、鬼道さん……」

「俺は昨日、勝手に帰った事を許していないぞ」


昨日の事で気まずいから会いたくなかったのにー!!
後ろから春奈が息を乱して「名前、早すぎ……っ」と追いついてきた。


「速さを逃げ足に使うとは……便利だな」

「あのー、そのー……、そろそろ肩から手をどいて頂いてもー……」


「春奈、助けて」と言う視線を向け助けを求めるも、


「お兄ちゃんが貴方に用事あるみたいだし、逃がさないわよ」


……と言われた。
もうこの兄妹嫌だぁ!!!



***



兄妹で話し合ってると言うのに、何故僕は此処にいるのだろうか。
こういうのって普通、部外者は退場すべきだよね?あれ??

春奈の隣に座っている僕はずっとその事ばかりを考えていた。
ここからダッシュすれば、家まで約5分。……くそぅ、進行方向に鬼道さんがいなければ切り抜けられると言うのに……!
いや、遠回りになるけど、反対側からでも行けないことはないな。
よし!じゃあ遠回りになるけど、反対側の道から帰ろう!

脳内会議を終えて、いざ実行!と思っていた時、


「!!」


何かの気配を感じ、空を見上げる。
炎を纏ったボール。そして、この威力。……このボールを打ったのは、


「……豪炎寺さん」


橋に豪炎寺さんがいた。
ボールは鬼道さんの元へ飛んできた。
春奈はそのボールに驚いて身体を引く。
僕は鬼道さんが蹴り返した光景をジッと見つめていた。


「豪炎寺先輩!お兄ちゃんは別にスパイをしてた訳じゃないんです!本当ですっ!」


春奈はこちらへ歩いて来た豪炎寺さんに駆け寄り、そう言った。
僕は、春奈の方を向かずに鬼道さんを見つめている豪炎寺さんを見つめる。


「……来いよ」

「……ああ」


豪炎寺さんは鬼道さんに一言、そう言って河川敷のグラウンドへ降りていった。
鬼道さんも1つ返事で豪炎寺さんへ着いていった。


「そんな不安そうな顔するなよ、春奈」

「だって……っ!」

「流石に喧嘩じゃないでしょ」


春奈の隣に移動し、河川敷のグラウンドを見下ろす。
パーカーのポケットに両手を突っ込んで、その光景をジッと見つめる。


「鬼道ッ!そんなに悔しいかッ!!」

「悔しいさ!!世宇子中を、俺は倒したいッ!!」

「だったらやれよッ!!」

「無理だッ!!……帝国は、フットボールフロンティアから敗退した」


……鬼道さんの気持ちは痛いほど分かる。
あの試合をこの目で見たから、すごく分かっているつもりだ。


「自分から負けを認めるのか!!鬼道ッ!!」


豪炎寺さんはそう言って、ボールを高く上げる。
炎を纏いながら、豪炎寺さんは回転しながら高く飛び上がる。


「まさか、“ファイアトルネード”……!!」


豪炎寺さんは“ファイアトルネード”を打ち込み、そのボールは鬼道さんの横すれすれを通過し、破裂した。
……容赦ないな、豪炎寺さん。


「……1つだけ方法がある。お前は円堂を正面からしか見たことがないだろう。___彼奴に、背中を任せる気はないか」

「!」


豪炎寺さんの言葉に、鬼道さんは驚きの声を短くあげる。
……話はついたな。
そう思い、春奈から背を向けて帰り道を歩き始めた。


「……あれ、名前?」

「僕、門限が6時なんだ!と言うわけで!!!」


首だけ春奈に向けてそう言い、僕は河川敷のグラウンドを後にした。
首に付けていたヘッドフォンを付ける前に、春奈が僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。





2021/02/21


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