認めるしかない心境



「……なんですか、ニヤニヤして。気持ち悪いです」

「いや、嬉しくてさ」


嬉しい?
迅さんの言葉に首を傾げる。


「香薫さんから聞いたよ。おれの事心配してくれたんだって」

「べ、別に迅さんの心配をしたわけじゃ……って!」


ずっとベッドに座っていた私の隣に迅さんが座り、そして後ろから抱きついて来たではないか!
……距離が近い!!


「……ありがとう」


小さくてどこか弱々しい声。
その声につい「……どういたしまして」と返してしまった。

背中越しに伝わる迅さんの体温に顔が熱くなる。
今絶対顔赤い……っ。


「おやおや〜? この真っ赤な耳は何かな〜?」

「ひゃっ!?」

「可愛い悲鳴ありがと」

「やっぱり心配する必要なんてなかったですね! 元気そうですし!!」

「照れ隠しの言葉なんでしょ。分かってる、分かってる」

「ぐぬぬ……!」


この人はいつも余裕そうだ。
昔はそうでもなかったのに、いつからこんな感じになったんだろうか。


「ははっ、ごめんごめん。苛めすぎた」

「……許しません」

「そう睨まないでよ。来てくれて嬉しいのは本当だからさ」


そう言って迅さんは私から離れた。
背中に感じていた温もりが消えて、何故か寂しさを覚える。

迅さんを直視できなくて、ずっと自分の太股を見つめる。
顔を上げられない。既にバレているけど、顔が赤いことを見られたくない。


どうしてこんな風に思うの?
あの日から……母さんから私を守ってくれたあの背中を見てからずっと迅さんの事を考えると苦しい。


『それはどう考えても答えは1つしかないね。名前はその人のことが”好き”なんだよ』


いつかの日、柚宇に言われた事。
……やっぱりそうなのか。

本当は分かってた。
柚宇に言われた言葉はストンッと私の頭を正常にした。

コロッと簡単に落ちてしまった自分に腹が立つ。
でも、事実なんだ。
昔は嫌いだったはずなのに、今ではそばにいてほしいと思ってしまっている。


「……ただの気まぐれ、ですから」

「それでも嬉しいよ、おれは」


___私、迅さんの事が好きだ。
その事実を認めた瞬間、胸の高まりが増した。

でも嫌な気はしなかった。
……初恋が嫌いだった人とか、どうかしてる。

行き場のない気持ちをどうにもできなくて、とりあえずそのまま横に倒れる。
ベッドらしい柔らかさが私の身体を受け止める。


「……名前ちゃん、ここで寝る気?」

「……はぁ。寝ちゃった、か」


瞼が重い。
身体を起こすのも怠い。
このまま眠気に委ねてしまおうか。

その方がこの胸の痛みがすぐに治まりそうだから。

背中と膝裏に感じた狭い範囲の温もりを感じながら、意識を手放した。



次の日、朝起きたら隣に迅さんが寝ていたことに大声をあげ、反射神経で振りかざした手は躱されることになる。



認めるしかない心境 END





2022/2/13


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