認めるしかない心境



役目は果たしたよ、名前
今度はお前の番だ


「……う、うぅん……」


兄さんの声が聞こえた瞬間、眩しい光が目に入り思わず瞑る。
しばらくして目が慣れてくると、今自分がベッドに寝ていることに気づく。

窓を見れば時間帯は夜。
と言う事は、兄さんと交代して日は跨いでいないってことかな。


「……というより」


明らかに私の部屋じゃない。
そもそも現ボーダー本部基地でもない。
この部屋の構造は旧ボーダー本部基地だ。

そして、この大量のぼんちあげのダンボールが積まれているということは……


「あ、起きた?」


やっぱりこの人の部屋だった!!
ガチャリと扉が音を立てて開き、入ってきたのはこの部屋の主、迅さんだった。

あれ、そういえば私ベッドに寝てるよね?


「ま、まさか……」

「ちょっと待って。名前ちゃん落ち着いて」

「やっぱり貴方はへんた…むぐっ」

「何もしてないから、とりあえず落ち着いて!」


迅さんの大きな手が私の口を塞ぐ。
……悔しいけど、混乱してた頭が少しだけ落ち着いた。


「……香薫さんがここでトリガー解除したんだよ」

「本当ですか? 貴方の嘘ではないですか?」

「どんだけ信用されてないの、おれ……」


ショックを受けている迅さんを放置し、とりあえずここにいる経緯を辿るため記憶を掘り起こす。


まず何故ここにいるのか。
それは間違いなく兄さんの仕業で、そう仕向けたのは私。

……そうだった。
迅さんが心配で、でもなんて声を掛けたら良いか分からないから兄さんに助けを求めたんだった。
忍田さんに黙ってブラックトリガーを起動して……


「起動、して……」

「? どうした?」

「今何時ですか!?」

「外に出たら間違いなく補導受けるね」

「うぐ……っ」


がくりと項垂れる。
携帯は完全に部屋の中だし、連絡手段は目の前にいる迅さんのみ。
まあ下の部屋に誰かがいるのは間違いないだろうから、そっちに行っても良いけどなんか気まずい……。

そもそも兄さんがどうやってここに入ったのかも分からないし。


「とりあえず、忍田さんに連絡する?」

「トリガー起動して帰れば……トリガーホルダーもない」

「携帯もしてほしいけど、トリガーホルダーは常備してようね。はい、携帯貸してあげる」

「……どうも」


ご丁寧に忍田さんの連絡先が表示された画面の携帯が手渡される。
通話ボタンをタップし、耳に当てる。

……絶対に怒ってるだろうなぁ。
そう思いながらコール音を聞いていると「もしもし」と声が聞こえた。


「あ、忍田さん。私です、名前です」

『……ブラックトリガー起動の反応があったと思えば、部屋にいないし……心配したんだぞ』

「え、なんでブラックトリガー使ったの分かったんですか」

『そうか、言ってなかったか……。ノーマルトリガーだけじゃなく、ブラックトリガー起動の反応もこちらで探知できるんだよ』


つまり……私が勝手にブラックトリガー使った事は起動した時点でバレていたことになる。


「え、えっと……」

『没収はしない。お前が意味なくブラックトリガー起動するような子ではないからな。何か香薫に頼みたいことでもあったんだろ』


察しが良くて助かる。
忍田さんに頭が下がるばかりだ。


『……で? 今どこにいるんだ』

「えっと、今は……あっ」

「玉狛ですよ、忍田さん」


玉狛支部にいます、と答えようとした所で携帯が奪われる。
この部屋には私と迅さんしかいないため、必然的に携帯を奪ったのは迅さんになる。

迅さんはスピーカーに設定し、私にも聞こえるようにした。


『はぁ……だろうと思ったよ。そもそも迅の携帯から掛かってる時点で分かってた』

「もう遅いし泊めるつもり。明日……というより、もう数分で明日になるけど責任持って送り届けるからさ」

『分かった。今回は認めるが、次同じ事をやれば……分かっているな?』

「はい……」


叱られている私を見た迅さんはさぞかし笑っているだろう。
そう思いチラッと迅さんを見れば、予想通りニヤニヤと笑っていた。腹立つ。

しばらくして通話が終了した。





2022/2/13


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