未来日記は記せない



階段を上れば見覚えのある廊下が視界に広がった。
うっへ〜、懐かしー!
俺の部屋まだ残ってんだよな? 後で見に行きたいなー。

……って、違う違う。
俺は悠一に会いに来たんだった。


「悠一の部屋はここだったな」


部屋替えとかしてなければの話だが。
そう思い扉をノックする。


「……」


返事がない。
部屋間違えた?
それか、さっきの女が言っていたようにもう寝てしまったのか。
さっきはあの女に叩き起こすと言ったが、疲れているだろうし起こすのは悪い。そう思い帰ろうかな、と思った時。


「……あれ、名前ちゃん?」


ゆっくり扉が開いて、誰かが妹の名前を読んだ。
まあ、聞き覚えある声だから誰なのか分かるけど。


「お休みの所、すみません」


出てきた人物を見上げると「どうしてここに?」と言いたげな顔の悠一と目が合った。
こうして悠一と顔を合わせるのは、あの日……俺の正体がバレた日以来か。

ちょっとしたイタズラ心で名前のフリをしてみたが、これは完全に名前だと思い込んでいるな。
あれー、教えたハズなんだけどなぁ。俺と名前の見分け方。


「いいけど、どうしてここに?」

「……可愛い妹のお願いでね」

「へ?」

「教えただろ? 俺と名前の見分け方」


そう言って自身の目を指指す。
ブラックトリガー起動後、俺と名前は目の色が変わる。
碧色の目は俺、香薫である証明である。


「……香薫さん!?」

「シーッ。大きい声出すとバレちまうだろ」


邪魔するぞ
そう言って悠一の部屋に入る。


「ちょ、なんで香薫さんがここに」

「部屋真っ暗じゃないか。電気付けろよ」


悠一の声を無視して部屋の電気のスイッチをオンにする。
相変わらずぼんち揚げ食ってんのか。ダンボールだらけじゃねーかよ。


「で、俺がなんでここにいるのか、だろ?」


俺を見てコクッと頷く悠一。
悠一のベッドに座って足を組む。


「さっき言ったろ、可愛い妹のお願いで来たって」

「名前ちゃんのお願い?」


首を傾げながら悠一が隣に座った。


「『迅さんを励ましてあげて』……名前はそう言ってた」

「!」

「何かあったんじゃないのか」


悠一に対して冷たい名前がこんな言葉を掛けた。
それは悠一の心配をしていると共に、よっぽどのことがあったという事。


「……気のせいだよ、って言っても香薫さんには看破されそう」

「まあな、お前の顔見れば何かあったのは分かる。一体何年一緒にいたと思ってるんだ」

「適わないなぁ」

「俺、名前からそれしか聞いてないからさ」


さ、正直に白状して貰おうか。
そう言うと悠一は寂しそうに笑みを浮べた。


「………はぁ、分かった。話すよ」


そう言って悠一は俺を見た。
その蒼い瞳には碧色の瞳の名前……俺が映し出されていた。





2022/2/13


prev next

戻る











×
- ナノ -