貴方のいない日常の始まり



私はある部屋へと移動させられた。…兄さんを片手に。
兄さん…ブラックトリガーはイヤーカフの様な作りになっていて、何処かお洒落だった兄さんを思い出させる。……また涙が出そうになる。


『苗字隊員、これを起動せよ』


…私にそう命令した城戸さんの言葉が、私には焦っている様な気がした。

先程簡単に説明された事を思い出す。
ブラックトリガーと言うものは、普通のトリガーと違って性能が桁違いのとんでもない代物らしいが、デメリットとして全員が起動出来る訳ではない___つまり、使い手を『選ぶ』トリガーだと言う事。
だから私が選ばれたらしい。

そのブラックトリガーという物の作成方法は、人の『命』と『トリオン』。
……兄さんはあの時、死ぬ事を分かってこの行動に出たのだろうか。
どういう思いで、こんな姿になったのだろうか。
大好きだったあの声を聞くことも、姿を見ることも“二度と”出来ない。
そうなってしまったのは、私の____


『準備が完了した。名前、起動してみてくれ』


先程受け取った通信機器から忍田さんの声が聞こえ、突然だった事と考え込んでいた事でビクリと反応してしまう。
通信機器に手を当て、「わ、わかりました…」と慌てて答える。

付ける場所は決めていた。___左耳、兄さんと色違いである白い羽の耳飾りが着いた耳。
何となくだけど、ここだったら兄さんが側にいる気がした。
そっとブラックトリガーに指先を添え、


「……力を貸して…っ、兄さん……!」


いつも自分が使っているトリガーと同じように、トリガー起動の意思表示をした。
____その瞬間。


「…ッ!?」


急に立ちくらみが起こった。
目の前がチカチカとして、気持ちが悪い。
身体がふらついて、上手く立っていられない。

どうして急に…?さっきまで上手く立てていられたのに…!
そう思っている間にも身体はどんどん地面へと近づいて、


『名前!!!』


忍田さんの声が通信越しに聞こえたのを最後に、意識がなくなった。



貴方のいない日常の始まり END





2020/12/28


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