小型トリオン兵一斉駆除作戦

side.三雲修



現在、ボーダー上層部
ぼくは迅さんと共にそこにいた。

何故ぼくが上層部にいるのか。
それは先程起きた事……空閑を襲撃した三輪隊の事情説明の為だ。
しかし、目の前にいる人物……城戸指令が放った言葉は


「迅、お前にブラックトリガーの捕獲を命じる」



迅さんにブラックトリガー……空閑を捕獲しろ、という命令だった。


「迅さんが、空閑を……?」


先程城戸指令が放った『ブラックトリガーにはブラックトリガーをぶつければいい』という発言。
それは迅さんがブラックトリガーを所持しているという事で。


それよりも、迅さんが空閑を捕えるという話だ。
ぼくにとっても空閑にとっても迅さんの存在はある意味支えだった。

ここで敵側になってしまったら……空閑だったら勝てるかもしれないけど、それでも厄介な敵であることは間違いない。


「会議は終わりだ。速やかに任務を遂行しろ」


話は纏まった。
迅さんが空閑を___


「それはできません」


頭に浮かんでいたものを、迅さんの言葉がかき消した。
……今、迅さんは命令を『できない』と言ったのだ。


「どういう事かね、迅くん。最高司令官の命令に従えないと?」

「おれは”玉狛支部”の人間です。城戸指令に直接の指導権はありません。……おれを使いたいなら、林藤支部長を通してください」


どういう事だ……?
林藤支部長は右奥に座っているメガネを掛けた男性の事だ。
最高司令官である城戸指令の命令では動かなくて、林藤支部長の命令なら動く、という理屈が分からない。

だけど、誰も迅さんの発言に否定的な言葉がないということは、それが基本的な流れであると言う事だ。


「何をまどろっこしい事を。結局は同じ事だろうが」


そうだ。
鬼怒田さんの言う通り、林藤支部長から命令されても何も変わらないはず。
迅さんは一体何を考えているんだろう。


「……林藤支部長、命令したまえ」

「やれやれ、支部長命令だ。迅、ブラックトリガーを捕えてこい」

「はい」


先程城戸指令に命令された時とは断ったのに、林藤支部長に命令去れたときはあっさりと命令を引き受けたのだ。
ますます迅さんの考えが分からない。

そう思った時だ。


「___ただし、やり方はお前に任せる」

「了解、支部長ボス。実力派エリート迅、支部長命令により任務を遂行します!」

林藤支部長の言葉にはまだ続きがあった。
それは、城戸指令が『殺してまでも捕えろ』と命令したのに対し、林藤支部長は『やり方は迅さんに一任する』と言ったのだ。

それはつまり……空閑を殺さずに済む、という事か!


「……林藤」

「ご心配なく、城戸さん。ご存知の通りウチの隊員は優秀だ」

「さあて行くか、メガネくん」

「はいっ!」


この人は……迅さんは他の人とは違う。
そう思っていた時、後ろから鬼怒田さんの声が。


「やはり、玉狛なんぞに任せておけん! 忍田くん、本部からも部隊を……いや、アイツ・・・を出せ!」


アイツ……?
鬼怒田さんの言うアイツとは誰の事だろう。


「アイツ?」

「相手はブラックトリガーだ。迅がダメなら本部のブラックトリガー使い……苗字隊員を駆り出せばいい」


苗字隊員。
初めて聞く名前だ。
恐らくこの流れだから、その人も迅さんと同じくブラックトリガーを使うボーダー隊員だろう。


「それはいい。彼女も近界民ネイバーには少なからず敵対心はあるはずです。最愛の身内を殺されているのですから、近界民ネイバーを殺す事には躊躇しないでしょう」


根付さんの発言によると、どうやら女性の人のようだ。
迅さんがブラックトリガーを持っているから、勝手に男性だと思っていたが……いや、性別は関係ない。

ブラックトリガーを持っている。
レプリカから聞いたが、ブラックトリガーとは、とても強力なトリガーであるという。
だから例に漏れず、その苗字隊員のもつブラックトリガーも強力なものであるはず。


「彼女もボーダー隊員としては古参。当然、そのような・・・・・経験はしている。……だが、人の死を目の前で見、死を経験したあの子達・・・・に酷な事をさせるわけにいかない」

「それは私情では? こちらは仕事としての話をしているんですよ」

「ブラックトリガーは何としても対処せねばならん! アイツの強さ・・・・・・なら、三輪隊を1人で落としたという近界民ネイバーにも対処できる」


苗字隊員に任せるべきだ、と声があがり、鬼怒田さんと根付さんの中では纏まってしまっている。
一体どうすれば……そう思った時、隣に誰かが立った。


「苗字隊員の力を借りるまでもありません……おれがその近界民ネイバーを捕えます」


誰と言うまでもなく、ぼくの隣に立ったのは迅さんだ。
なのにどこか雰囲気が重い。
表情はいつも通りに見えるのに……どこか怒っているように見えたんだ。





2022/2/11


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