小型トリオン兵一斉駆除作戦



「……どうも」


……近くにいたのか。全然気にならなかった。
迅さんからホットココアを受け取り、蓋を開ける。
……温かい。美味しい。

私がココアを飲んでいる間に迅さんが空いていた隣の空間に座る。
……近い。けど、気づかれたくなくて平然を装う。


副作用サイドエフェクトを酷使したんでしょ」

「……視たんですか」

「まあね。でも視なくてもその顔で分かるよ」


もしかして酷い顔してるのかな。
……恥ずかしい。
見られたくなくて顔を俯かせると、頭に掛かる重み。


「名前ちゃんの副作用サイドエフェクトが活きるとは思っていたけど、ここまで疲れているとはね。仕事が早いから上から沢山指示が飛んできたんでしょ」


ゆっくりと強くない力で撫でられる頭。
……頭を撫でられる感覚が、兄さんに似ている。でも、兄さんとは違う。


「で、今回のイレギュラーゲートについてだけど」

「いいんですか、聞いても」

「大丈夫、大丈夫。どうせ後で上層部にも話すし。それに、名前ちゃんは普通のボーダー隊員じゃないからね。問題ない」


迅さんはもうひとつ買っていたらしいホットココアを開けて、口に含んだ。
そして、こちらを向いて口を開いた。


「まず、このイレギュラーゲートの原因だった小型トリオン兵だけど、名前はラッドと言って隠密偵察用トリオン兵らしい」

「隠密偵察用……?」

「そう。戦闘には向いてないから直接的な攻撃能力は持ってない。だけど、ゲートを開くから、厄介であったのは間違いない」


隠密偵察用トリオン兵『ラッド』
これが三門市中にいたから、イレギュラーゲートが開いていたわけか。


「そのラッドがイレギュラーゲートの原因ですよね? どうやってゲートを開けていたんでしょうか」

「近くの人間からトリオンを吸収していたみたい。ボーダー隊員の近くでゲートが多く開いていたのも、トリオン能力が高いからだろうね」

「……ということは」


私の近くでよくイレギュラーゲートが開いていたのは、トリオン能力が高いからか……!


「やっぱり給料弾んで貰おう。うん、忍田さんに直談判しよう」

「あー、名前ちゃんトリオン能力高いもんね、さぞかし働かされたでしょ」

「そのとおりですよ」


でも、どうしてそのラッドがあんな大量に……?
あれだけ多ければ、ゲートが開いた時に分かるはずなのに。


「で、あのラッドがどこから発生したのかって話なんだけど」

「!?」


今読んだな……!
そう思い睨み付けるも迅さんは知らん顔。


「バムスターの腹部に格納されていたみたいで、一旦地中に隠れて人がいなくなってから移動して散らばってたそうだよ」


なるほど、バムスターの……。
今まで現れたバムスター全てに入っていたとすると、1体につき100体近くのラッドが格納されていたとすれば、あれだけの数なのも頷ける。
飛んだ迷惑話である。

……って、そういえばさっきから思ってたんだけど。


「あの、ラッドは迅さんが見つけたんですよね? なんでそんなに他人事のような話し方なんですか?」


『らしい』とか『そうだ』とか『みたい』って言ってたのが気になっていた。
迅さんが発見しただろうに、どうして他人事みたいな話し方なんだろう。



「だっておれが見つけたわけじゃないからね」

「え、じゃあ誰が見つけたんですか?」

「気になる?」


まぁ、気になるといえば気になる。
だってこんな迷惑事の原因を見つけているんだ。一体誰だろう、こんな大手柄を見つけたのは。


「見つけたのはC級隊員の子だよ」

「C級!?」


まさかのC級隊員だったらしい。
予想の斜め上すぎて驚いてしまった。


「驚くよな〜そりゃあ」

「だって意外なんですもん。そのC級隊員のこれからが楽しみです」

「お、名前ちゃんにそう言わせるなんて羨ましいな〜」

「何が羨ましいのかさっぱり分かりません」


迅さんが話していたC級隊員は、今回の事でB級隊員に昇格したらしい。
防衛任務の時に会えるかもしれないな。……B級隊員は沢山いるから、その中から探し出すのは困難だけど。


「さてと、名残惜しいけどそろそろ解散するか」

「そもそも集まる約束もしてないです」

「そんな冷たいこと言うなよ〜」

「くっつかないでくださいッ!」


この人の距離感が分からない。
私をからかっているのだろうか。


「送っていこうか?」

「結構です」

「とは言っても、おれ本部に今回の事を報告しないとだからどうせ一緒なんだよね」

「……トリガー、オ」

「こら、トリガー起動しようとしない」


ちっ、どうして帰る時まで一緒なんだ……。
一緒だったらまたあの変な感覚になっちゃう。そんな所を迅さんに悟られたくない。だから一緒にいたくないのに。

迅さんから投げかけられる言葉を適当に流しつつ、変なことを考えないように必死に意識する。
お陰で何事もなく本部に戻って来れた。


「じゃ、おれは上層部に行くから」

「早く行ったほうがいいんじゃないですか」

「酷いなー。おれはもっと名前ちゃんと一緒にいたいのに」

「はいはい、どうせ他の人にもそう言っているんでしょ」


……そう言いつつも、どうして心が痛むんだろう。
いつもなら何とも思わなかったのに。


「ちゃんと寝ろよー。一昨日も夜中までゲームしてたんでしょ? 今日はやめて身体を……特に目を休めておけよ」

「……言われなくても」


背を向けて上層部へと向かって行く迅さんの背中を見ていると、少しだけ寂しさを覚えるのは……楽しさの熱が冷めていくような感覚がするのはどうしてなんだろう。





2022/2/11


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